グランドデザインを書き直せ
2024年7月26日
日銀は30、31日に金融政策会合を開きます。日経新聞は「追加利上げを会合は支持する。政策金利の0・25%上げが有力」と強気な書き方をしています。読売新聞は「そうした見方がある一方、賃金や個人消費の動向の見極めが必要との声もある」と、曖昧で自信のない表現をとっています。
7月の利上げは、日銀がやりたくても、先送りされると、私は思います。先送りしつつ、金融財政の正常化に転換していくとの姿勢は市場に疑われないよう、国債購入額を減額(現在の月6兆円程度を半減)し、「いつでも追加利上げをする用意はある」との説明はするでしょう。なんとも煮え切らない金融政策が続くのです。
その背景として、岸田政権が「物価高に跳ね返る円安が進むのは困る。巨額の国債の利払い費が増える利上げも困る」という無理難題を植田日銀に押し付けている。そんな政治的な事情があるようです。「円安は困る。利上げは困る」では、欧米のように、日銀は思い切った手をうちようがない。
植田氏が総裁に就任する際、政府と日銀の協調関係を守るよう念押しされたらしく、「正常化を優先し、政府の圧力をはねつけるべきだ」という正論は通らない。
円相場は26日も1㌦=153円台と、一時の160円レベルに比べ、円安は円高へ若干反転しています。それを材料にして、今回は追加利上げ(円高要因)を見送るのだろうと思います。自民党総裁人事が決まる10月、さらに米国の大統領選(11月5日)に伴う混乱を考えると、その点からも日銀は動きにくい。
日銀の金融政策や為替相場を巡って聞こえてくる専門家や市場関係者の声は、目先の細々としたデータ、動きにこだわりすぎています。もっと大局的な視点を踏まえ、見解を述べてほしいと思います。
まず米大統領選です。「米国政治の専門家」と名乗る大学教授は「実績の少ないハリス副大統領がトランプ氏に勝つ可能性は25%」とテレビで発言していました。その2,3日後には、「ハリス支持の世論が高まり、トランプ氏と拮抗」、「その直後にトランプ氏が巻き返し」と、二転三転の世論調査の結果が報道されています。
米大統領選の結果は、毎回といっていいほど、「そうなるだろうな」といった程度の事前予想は外れる。「銃撃事故でトランプ氏(78)の圧勝が確定。バイデン氏(81)のままなら民主党は惨敗」から「ハリス氏(59)が追い上げ。老々対決から世代対決へ」と、局面ががらりと変わってしまいました。
トランプ氏は罵詈雑言を吐いてばかりいると負ける。全世界が大変動期に入り、発想の大転換が必要になったこの時代には、ハリス氏のような社会の中核的世代の考えで政治経済政策を行い、責任を負ったほうがよいと、私は思います。
トランプ氏が大統領になったら、財政金融も膨張政策をとる。世界は一段と予測不可能な時代に向かう。こうした時代には世代交代がよい。為替相場の見通しより、こうした論点で経済を考えてほしい。
日本はどうか。「実勢ベースでインフレ率は3%くらいになっている。日本経済もインフレの時代に入ってきた。もっと早く異次元緩和政策から転換すべきだった。そもそも異次元緩和政策は必要がなかった」(週刊エコノミスト)。これは山口広秀・元日銀副総裁の批判です。
それにもかかわらず、日銀が身動きをとれないのは、アベノミクス(財政金融の異次元膨張政策)の負の遺産の結果です。なぜもっと、市場関係者、エコノミストらは、アベノミクス批判をしないのか。アベノミクスに期待をかけるような発言、主張をした時期があったため、批判を控えているのでしょうか。
「基調的な物価上昇率が2%を維持できるかどうか」などが金融政策の中核的なテーマであってはならない。「日本の経済力、構造を考えれば1%程度が望ましい上昇率だろう」(山口氏)。こうした議論を次期総裁を目指す政治家はすべきなのです。
物価上昇率よりも、「人口減少には歯止めをかけるとうような背伸びした目標を掲げて、過剰な政策資源(財政)を投じるのではなく、人口減を所与として、経済社会のあり方を考える」(小峰隆夫氏)のような議論が必要なのです。