月刊誌編集の難しさ増す
2019年6月25日
月刊文芸春秋の7月号を読んでいましたら、2つの大ニュースで「誤報同然の記事」を載せていました。企画の決定、執筆のテンポが政治や経済の素早い動きに追いつかないのです。間違った情報を書いてしまった新聞などによる誤報と違うとはいえ、月刊誌編集は難しさが増しています。
一つは解散・総選挙が必至かどうかの読み間違い、もう一つは日産とルノーの企業統合がどうなるかの見通しの誤りです。政治・政局のカギを握る解散、日産・ルノーの経営統合の行方、今、もっとも関心を集めている大テーマです。外部筆者による記事ですから、月刊文春の編集側に直接の責任がないとはいえ、発売と同時に、「読み間違い」「誤報同然」が判然してしまう。前例のないことです。
解散から取り上げますと、人気の政界コラム「赤坂太郎」です。筆者は新聞記者ですか。「菅も公明も止められぬ解散Xデイ」という誤報です。「首相が33年ぶりに衆参同日選挙に打って出るというのだ」「安倍自ら解散への意欲を示唆しているだけに、時期を逸すれば、政権は死に体化する」と。
この辺りで筆を止めておけばいいのに、コラムの結語は「安倍の決断の時は近づいている」と、ダメ押しました。そんな流れはあることはあった。実際はどうか。「決断の時は近づいてこなかった」のです。発売された時(6月10日)にはすでに、その線は消えていた。ベテランが起用される名物コラムにしては、無残な結果に終わりました。
もう一つは日産の経営問題です。「日産は再び欧州の餌食になるか」です。前会長のゴーンが逮捕され、検察から「会社の私物化」「不可解な資金の出入り」「報酬の虚偽記載」などの情報が次々に流され、動揺が続く最中の話です。FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)がルノーに経営統合を提案したとの報道があり、それを受けた記事です。筆者は経済ジャーナリストの井上久男氏です。
経営統合に日産も組み込まれれば、世界でトップの自動車メーカーが誕生する。自動車産業にとって最大級のドラマです。その代わり、ルノーから必死になって距離を置こうとしてきた日産は経営的な自立は不可能となり、欧州勢の軍門に下る。だから「餌食になる」と。日産が最も嫌う再編劇です。
文春でゴーン事件を何度も取り上げている井上氏は「フランス政府も歓迎しており、実現性は極めて高い」と断言し、「日産は独立性を維持できるのか。正念場に立たされている」と、記事を結びます。日産の株主総会は20日、終わり「正念場」は来ませんでした。見立てとは逆に、仏政府がありにも、いろいろ注文をつけるので、政府介入を嫌ったFCAが統合計画を断念するという展開になりました。
この記事もタイミングが悪いことに、発売時の前には、ルノー・FCAの大連合はご破算が決まっており、筆者にとっては後の祭りです。自動車問題では指折りのジャーナリストが「読み間違い」というか、「誤報同然」の記事を掲載してしまうところに、月刊誌編集の難しさがあります。
どうしてこのようなことが起きるのか。月刊誌は発売の何週間か前に、テーマ、筆者を決め、完成した原稿を印刷に回すのは、何日か前です。わずかの日数の間に、当事者間の交渉次第で方向が一転か急転し、方向が変わってしまう。
動きが早く、利害関係も錯綜し、先々を読みにくい問題ばかりです。月刊誌受難の時代です。解散の話も日産の話も共通しています。この号で最大の「売り」となる2つのテーマでつまずいた。月刊文春は印刷部数は約40万部です。学者の論文が中心で小部数の論壇誌、派手に掲載する新聞広告の資金源も分からず、部数も公表しない右翼誌に比べ、ジャーナリズム精神を残こす文春の苦戦は残念なことです。
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