新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
政治、経済、社会問題、メディア論などのニュースをえぐる

政治家にこそ「学び直し(リスキリング)」を課すべきだ

2023年09月02日 | 政治

 

民間にばかり要求する無責任

2023年9月2日

 成長分野への円滑な労働力の移動などを促すための「学び直し(リスキリング)」を岸田政権は重要政策と位置づけ、5年間で1兆円を投入するという。衰退産業から成長産業への人材移動が必要なことは間違いない。

 

 日経新聞が「リスキリングサミット2023」を開き、岸田首相、茂木自民党幹事長がメッセージを寄せています。二人の発言を聞いて、「学び直しは政治家にも求められていることを自覚していない」と失望しました。

 

 日本経済が2、30年も停滞しているのは、適切な財政・金融政策を取らず、ポピュリズムの政策を連発してきた政治の責任も大きい。政治家の政策判断の間違い、政治倫理の軽視、政治家そのものの人的な劣化が目に余ります。

 

 一般企業は様々な研修の機会を設けているのに、政治家にはそうした場がまずない。当選すれば、「みそぎを受けた」ことになり、問題があっても免罪になる、不問に付すという次元の世界です。政界版の「学び直し」を誰かが要求すべきです。

 

 定年まで会社にしがみつかず、新しいスキル、知識を身に着け、転職や起業を試みていくことは必要です。日経(8月31日夕刊)の見出しは「首相『学び直し、官民挙げ』」とあり、「首相が掲げる『新しい資本主義』は人への投資が基盤になる」とも書いています。

 

 見出しが「官民挙げ」なので、政治家自身もその気になっているのかと想像したら、民間企業にだけ学び直し(リスキリング)を求めています。私は「それは違うだろう。政治家自身の学び直しは必要だろう」と違和感を覚えました。政治家自身の刷新、政治の改革などは念頭にない。

 

 日経は9月2日朝刊で「学び直し、問われる効果」という大きな解説記事を載せました。「リスキリングを成長につなげるために官民の緊密な連携も欠かせない」と指摘しています。

 

 緊密な連携のためには、「民のリスキリング」も「政のリスキリング」が求められていることを指摘してほしかった。経済記事は経済記者、政治記事は政治記者という伝統的な役割区分から抜け出していません。メディア、特に政治ジャーナリズムのリスキリングも求めたい。

 

 識者の談話もあり、「リスキリングは単なる研修の充実ではない。経済構造の大きな変革を伴う」(柳川範之・東大教授)とあります。政治家も基本的な研修(学び直し)から始め、政治構造の変革を目指してもらいたい。

 

 政治家の劣化を示す事例はいくらでもあります。自民党所属の国会議員(4人)、地方議員(38人)がフランスに海外研修にでかけ、幼児教育の義務化、政治分野における女性活躍を学び、上下院の議員と意見交換しました。先進的な海外の事例を学ぶことは必要です。「観光旅行のようだった」などと、文句をつけてはいけません。息抜きの観光は許される。

 

 問題はエッフェル塔を背景に「はい、ポーズ」の写真をとり、それを誰れかがネットに投稿した。どのような反応が起きるか想像もしていない。こどもじみた行動です。「こんなばかばかしいことで世間をにぎわすな」と叫びたい。代表団の国会議員が女性局長を辞任した。

 

 政治家の行動がどのように受け取られ、どんな反応が起きるかといった程度の想像力は持っていてほしい。ネット時代になってから特にそうなった。こんなことで解任など、語るに落ちる。

 

 福島原発の処理水を「汚染水」といった農相もネット時代でなければ、言い直せばそれで済んだ。情報ネット化時代における政治家の行動、発言の仕方について、政治家は専門家から「学び直し」の指導を受けたらよい。

 

 秋元衆議院議員(再生エネルギー議連事務局長)が風力発電の会社から3000万ー6000万円を受領していたことが発覚した贈収賄事件で、東京地検特捜部から事情聴取を受けています。馬好きで中央競馬会に馬主登録(19年)をしていたとか。国会議員が馬主登録するなんて語るに落ちる。

 

 馬主になって共同経営の形をとり、資金提供の受け皿にしたのかもしれない。資金を提供した会社の社長が「国会質問の謝礼だ」と、特捜部に供述しているそうですから、クロでしょう。政治倫理、政治規範の基礎を学び直してほしい。嘘はいけないにしても、巧妙な嘘のつき方を練習しておかないと、中国やロシアの情報戦略にしてやられる。

 

 政治は経済原則をもっと勉強してほしい。ガソリン価格が1㍑180ー190円に高騰し、自民党がガソリン補助金の削減を撤回し、年末まで延長する意向です。「ガソリン・ポピュリズム」と呼ばれています。

 

 価格の高騰は原油価格の反転、円安、補助金の削減に原因があります。政治が知るべきは「価格高騰は消費を減らせ」という市場のシグナルなのです。補助金などをつけるから、計画通りに段階的撤廃をしようとすると、値上がり要因になり、継続の要求がでてくる。

 

 ガソリン補助金を年末まで延長(累計6兆円)すれば、どうなるか。市場は「消費を減らせ」といっているのに、補助金が復活させれば、消費は減らない。減らないどころか、22年度の国内販売量は7年ぶりに増加に転じています。これが岸田首相の唱える「新しい資本主義」の一断面です。

 

 補助金でガソリン価格を値下げして、消費を奨励するようなものだから、脱炭素にもが逆行する状況を生む。政府の介入(補助金の投入)は市場の価格形成をゆがめ、正しい消費行動をとれなくする。

 

 政界構造では、自民党の場合、首相、閣僚などの主要ポストの8割は世襲議員によって占められている。小選挙区制になってますますその傾向が強まっている。世襲政治は地盤(後援会組織)、看板(親子代々からの知名度)、カバン(政治資金)に支えられ、小さな選挙区ほど有利になる。

 

 政界は家内制手工業のような世界を形成している。新しい政治人材が政界に参入しにくい。民間企業でそうなったら衰退していくのに対し、政界ではますます繁盛し首相への道が開けてくる。

 

 ここにも「学び直し」、構造変革の問題があるのに、政治ジャーナリズムは取り上げない。せっかく築いた人脈が途切れてしまうことを恐れている。岸田政権が「リスキリング」の看板を掲げた時、「政界もリスキリングを」と政治ジャーナリズムは声をあげたでしょうか。

 

 

 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿