老人ホームに保育所の付置義務を
2017年1月8日
ある日の新聞が日本の縮図を描いていました。一面トップと別面の特集で「子どもの声がうるさい。保育所の開設中止、延期が次々」(8日の読売新聞)という記事が載っていました。その前日、同じ新聞に「入居者募集中。高齢者とその家族のための安全、安心な施設」と、老人ホームの大々的な全面広告を2社が2ページ、掲載していました。
チェーン化した老人ホームは新聞広告のお得意さんです。S社は「全グループで2万人を超える入居者」といい、入居者募集中の施設40か所を写真付きで「月額15万円」などと紹介していました。年金収入で相当、賄えます。B社は「当社の老人ホームは全国で160か所。案内資料を発送中」とし、各地に点在する施設の地図つきです。
なんという対比でしょう。保育施設が周辺住民の反対運動で、開設が難航しているという話は大きな社会問題になっています。全国の主要自治体に新聞社がアンケート調査をしたところ、146自治体のうち109自治体に周辺住民から、「子どもたちの声、運動会の練習の音、太鼓やピアノの音がうるさい」などの苦情が寄せられているとのことです。
他人の子どもの声は騒音か
開設の中止、延期は16件にのぼり、施設の整備、運営が年々、難しくなっているというのです。政府や自治体が「保育施設に対する待機児童ゼロ」を計画しても、周辺住民の理解が得られないケースが増えているのです。自分の子や孫の泣き声は苦痛どころか、むしろ「元気でいい」と喜んでいる住民もいるのに、他人の子どもの声となると、騒音なのでしょう。
中東などの紛争地では、砲弾が飛び交い、子どもたちは泣きわめきます。その大きな泣き声さえ、空爆の騒音にかき消されています。平和な日本の社会で、元気に子どもたちが育ち、働き手に成長し、社会を支えるからこそ、社会保障制度が税金や保険料で成り立っていくのです。保育施設が不足し、子どもを預けられなくなれば、結局、少子化はさらに進みます。施設に反対するのは昼間、自宅にいる高齢者が多いのではないでしょうか。高齢者は自分の首を絞めるようなものです。
気にするほうがおかしいとは申しません。行政も我慢することだけを求めてはいません。「育休を2歳にまで延長し、0歳児の間は家庭で子育てができるようにする」、「施設では二重窓にして騒音を抑えたり、遮音壁を設けたりする」、「自治体は住民が納得するまで話し合い、説得を続ける」などなど。
多様な工夫を組み合わせ、丁寧に解決していくしか方法はありません。かつて東京都の中央3区で市街地にオフィスビルが次々に建設され、昼間人口が急増する一方、夜間人口(定住人口)が急減し、財政面からも自治体運営が危機にさらされました。そこでオフィスビルを建てた場合、一定比率で居住空間を確保することを義務づけました。オフィス何棟分かまとめて1か所に集中し、別の場所にマンションとして建設してもいいことにしました。
社会全体で費用の分担を
冒頭に紹介しました老人ホームについていえば、一定比率で子育て支援施設の付置を義務づけるのです。場所が離れすぎているなどのミスマッチが起きる場合は、何か所分かまとめて、別のところに子育て施設を設けます。もちろん、地域のニーズに密着するよう、自治体が仲立ちする必要はあります。費用の分担については、工夫が必要です。
老人ホームの購入単価か利用料に跳ね返るかもしれません。基本は社会全体で子育て支援の費用を分担していくことです。年金を施設利用費などに回せる高齢者に対し、保育料は自己負担、その保育施設にも入れない世代の苦労を分かち合うことは、ますます高齢化する日本社会にとって、必要なことです。
すでに老人ホームで働く介護士さんも使えるよう、託児施設を併置しているケースもあり、介護士の離職防止にも役立っています。小中学校は少子化で、教室があまっており、保育施設にもっと転用もできるでしょう。わたしの住む地域では、鉄道の高架化が進み、高架下の駅中や線路下に広い空間が生まれました。これも活用する義務を課したらどうでしょうか。オフィスビルやマンションには駐車場、自転車置き場、さらに緑地の確保が義務付けられていることを参考にしたいですね。
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