新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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米朝会談に踊るメディアも反省が必要

2019年03月02日 | メディア論

 

空転する首脳外交の誇大報道

2019年3月2日

 ベトナムの首都ハノイで行われた米朝首脳会談には、3000人の報道陣が駆け付け、最大級の注目を集めました。会談は早めに打ち切られ、共同声明も見送られました。内政の手詰まりから、外交面の政治ショーに目先を変えたい首脳たちの手法に、メディアは簡単に踊ってしまう。


 政治はますます外交にはけ口を求め、外交はますます政治ショー化する。解決に至るには難問だ多く、外交も報道も空転することになります。国際報道は難しい時代に入りました。深みにまで降りて分析し、派手な報道をして自己満足に陥らないことが大切です。


 会談が物別れに終わった理由として、「準備期間が短かく、痛み分け」、「自らが取引に乗り出すトランプ流の外交の危うさ」、「北朝鮮は米国の意図を読み誤った」など、双方に責任があったように指摘する識者が多いですね。そうだとは思います。同時に指摘すべきは、メディアによる会談の誇大報道です。


 朝日新聞(社説)は、「今度こそは、という国際社会の期待に背く再会だったと言わざるをえない。あれほど楽観していたトランプ大統領の言葉はなんだったのか、虚しさが漂う」と落胆しています。さらに「内政で苦境に立つトランプ氏の足元を北は見たのか」と指摘しています。


米国を責める朝日、北を責める産経


 産経新聞(同)は、「北朝鮮が示した非核化は極めて不十分だった。世界が納得できる非核化措置を示し、速やかに実行することだ。それなしに北朝鮮の未来がない」と、険しい筆致で批判しまし。大別すれば、米国を責める朝日、北朝鮮を責める産経でしょうか。


 読売は米朝両国を批判しています。「部分的な非核化と引き換えに、制裁の全面解除を求める金委員長の主張は到底容認できない」、「直観や即興に頼るトップ外交は極めて危ういことをトランプ氏は認識すべきである」などなど。各紙の指摘はいづれも正しく、両国のトップへの批判は痛烈です。


 そうした批判はメディア自身にも向けなければならない。期待感をあおる大々的な報道をしておいて、物別れに終わると、「虚しさが漂う」(朝日)ではないでしょう。トランプ氏が非核化について「私は急いでいないし、だれもせかたくない」(2月25日)の発言の時点で、誇大報道を修正すべきでした。


 内政の手詰まりを外交によって、国民の目をそらす傾向が強まっていると、メディア自身が指摘しています。それなのに、いざ首脳会談が開かれるとなると、取材陣を大編成し、紙面を大展開し、放映時間を気前よく割く。勇ましい派手な報道のほうが受けるからです。


 いい加減にこんな編集方針は修正したほうがよい。有権者のほうがよほど賢い。日本の世論調査で「朝鮮半島の完全な非核化は実現するか」と問えば、70%から80%前後の人が「そうは思わない」と、答えています。一方、韓国では実現に楽観的な数字が出ており、それは期待感が現実を上回るからでしょう。


北は核を最後まで手放さない


 核開発に成功したからこそ、米国を首脳会談の場に引っ張りだせたと北は思う。だから残念ながら北朝鮮が核を手放すことはないとみるべきです。経済制裁を受けても、中国や韓国が裏で支援しています。では、首脳会談なんかやめるかとなると、そうもいえません。「米朝協議の継続している限り、北がミサイル発射や核実験は行わない状態が続く。それはそれで好ましい」が常識的な見方だからです。


 政治のトップが外交ショーで点数稼ぎをする手法は多用される時代になりました。国内の金融財政は手詰まり、経済成長率は1,2%まで低下し、格差は広がり、国民の不満は高まるという状況の下では、残るのは外交政策です。メディアはそれにつられてはいけません。正味の価値がない情報、ニュースを流し続けていると、国民はメディアをますます信じなくなります。


 安倍政権が熱心な北方領土の返還交渉も、同じような手法ではないかと考えます。ロシア側は領土の返還に応じることはまずない。日本の経済協力で、北方4島におけるロシア人の生活環境はよくなり、世論調査では、恐らく8、90%のロシア人が返還に反対する。ただし、日露首脳会談で領土問題を取り上げると、点数は稼げるから政治的には好都合なテーマなのです。


 メディアは、そうした政治家の手の内を読んで、実現可能性のレベルに応じて、ニュース価値を判断すべきです。米朝首脳会談後、安倍首相が「(拉致問題もあり)次は私自身が金委員長と向き合わなければならない」と、語りました。本気なら直ちに拉致被害者の生存者リストの提出を迫るべきです。

 


 



 



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