長期戦略なき小手際の対応ばかり
2022年9月23日
大規模金融緩和の継続と利上げ回避を日銀総裁が記者会見で発表中に、円は1㌦=146円を突破し、慌てた政府は24年ぶりの円買い介入を実施しました。140円台前半まで円は戻したものの、介入の効果は限定的なようです。
鈴木蔵相、黒田日銀総裁の会見を見ていると、異次元金融緩和と財政拡張政策を10年近く続けたため、身動きがとれなくなっており、口先だけの空威張りとの印象を受けます。
一斉に利上げに動いている米欧主要国とは正反対に、「孤高のゼロ金利を続ける日本の結末はどのようなものになるか」と興味深く見つめていることでしょう。「成功するのか惨敗するのか」の実験台として日本を見ているのです。
結論から申しますと、国債残高の半分を日銀が保有するという異常な状況、1000兆円を超える国債発行による財政危機から、どうやって正常化に向うのかというシナリオを早く示すことです。そうした長期戦略がない、描かずという日本の悪弊から抜け出すことです。
日銀が異常な金融緩和の継続(円安要因)を続ける一方、政府が円安阻止の為替介入をすると自体が矛盾した対応です。利上げと為替介入をセットにして市場の流れを変えるのが本来のやり方です。それをしないから、市場に足元を見破られ、また円安に戻ると市場は見ています。
鈴木蔵相はおかしな発言をしました。「日銀の政策には日銀の独立性があり、尊重しなければならない」と。「日銀の独立性」はアベノミクスによってとっくに消失し、「政府と日銀の協調」という名のもとに、実質的には日銀は政府の意向に逆らえない。独立性なんかないのです。
黒田総裁の発言にも、首を傾げる場面がいくつもあります。金融政策先行き指針(フォワードガンダンス)は「2、3年、変えない」、つまり利上げは2、3年しない。一方、米国の政策金利は年末に4%台後半、23年には5%台に到達する。日米金利格差はさらに広がり5%(円安要因)となります。
金融政策は経済状況に応じ、短期的に動かす道具です。それを「2、3年動かさない」と言い切ってしまった。「日米金利格差は2、3年は縮まらないから、どうぞ円安にかけてください」といったも同然です。
異次元緩和自体(ゼロ金利)がもう10年近く続き、「金融政策は短期的効果、財政政策は中長期な効果」という役割分担が消滅しています。おかしな発言です。財政政策に引きづられているから、金融政策は短期的に動けなくなっているのです。
さらに総裁は「今回の決定は委員の全員一致で決めた」と、発言しました。この難しい時期において、多様な意見が出されることが合議制の意味です。総裁の意向に異論を唱える委員がいなかったとは寂しい。
英国中銀は米国に追随して、政策金利を0・5%引き上げ、保有する国債の市場売却を決めました。政策委員9人のうち5人が総裁の提案に賛成し、4人が反対しました。きわどい決定です。日本は反対ゼロで、「総裁、ごもっともごもっとも」だったのでしょう。異論なき議論は無意味です。
「日銀は財政ファイナンス(財政資金の調達)を目的にしていない。国債買い入れはあくまで2%の物価安定目標を達成することだ」と、総裁は断言しました。これは明瞭なうそです。「アベノミクスの目的が円安誘導、財政ファイナンスにすり替わってきた」がもう常識です。
「2%の物価上昇目標」は、8月の2・8%上昇で達成されているのに、「コストプッシュ型の悪い物価上昇で、賃金上昇を伴う好循環が生まれていない」と、黒田総裁は逃げています。
日本は物価上昇率が2、30年も「横ばいかマイナス」が続いてきました。資源高、円安で物価が2、3%上昇すれば、インフレを強く体感する人がほとんどでしょう。「さらなる円安誘導、財政ファイナンスの継続」が本当の目的になっていますから、金利を上げられないのです。
年初からでも1㌦=30円の円安、10年前と比べると、4、50円の円安です。「ドル建てGDPは30年ぶりに4兆㌦割れ、年末にはドイツが3位に上がり、日本は抜かれる」(OECD)そうです。政府、日銀がそろって日本の経済的な価値を自主的に引き下げている。
朝日新聞は「ドル売り介入を実施し、『伝家の宝刀』を24年ぶりに抜いた」と表現しました。日経も「伝家の宝刀」でした。古臭く、無意味な言葉遣いです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます