新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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新型コロナとの共存しかない現代社会

2020年03月29日 | 書評

政治家の大言壮語に踊るな

2020年3月29日

 新型コロナの感染者が世界全体で60万人を突破、死者は3万人となりました。トランプ米大統領は「自分は新型コロナと闘う戦時の大統領と思っている」と、また安倍首相は「経済対策はかつてない規模にする。経済をV字型に回復させる」と、大げさな言い方をしました。

 

 誇大な表現は政治家の習性であり、それが職業になっている人たちです。有権者を引き付けたいための口ぶりに引きずられず、何が起きているかを冷静に見つめなければならないと思います。

 

 NYダウが急騰したかと思ったら急落し、株式市場の方向感覚が定まりません。「二番底がある」いや「2万㌦の攻防」とか、その時々の相場の講釈は登場するにしても、深い底流のところをどうみるかに目を向けた解説がもっとほしいのです。

 

 そんな時、国際保健学、医療人類学、熱帯感染学が専門の医師で、長崎大教授の山本太郎氏が「コロナは現代的なパンデミック(世界的な大流行)」(読売3/29朝刊)と、警鐘を鳴らしました。「研究者はウイルスの種類や特性を知べ、原因を突き止めようとしてきた。しかし、最近思うに、実は逆ではないか。流行するウイルスを選び出し、パンデミックへと性格づけるのは社会のほうだ」と。

 

 「社会にはいつも様々なウイルスが入り込もうとしている。たまたま社会がそれに適した状態になっていると、ウイルスが入り込み広がっていく。都市に人々が密集し、地球の隅々まで交通網が発達し、人々が移動、交流する。現在の社会のあり方がパンデミックの格好の揺りかごになっている」と。そういう社会が形成されるのが先で、それが拡散するウイルスを生む。考える順序が逆、なるほど。

 

 グローバリゼーションによるヒト、モノ、カネ、旅行、都市化の動きが加速し、国境を越える。ウイルスの拡散に適した状態が生まれたことのほうが先だというのでしょう。トランプ氏は「中国ウイルス」と誹謗しました。そのウイルスに拡散するチャンスを与えたのが米国発のグローバリゼーションとすれば、中国ばかりを責めることはできない。批判する対象は単純ではない。

 

 新しいウイルスが発生したとしても、現代の社会経済システムに適しないならば、甚大な被害をもたらすほどは伝染しないはずです。

 

 「ただ、悪いことだけではない。ひとたび感染すると、人間には抵抗力がつく。感染者が抗体や免疫を持てば、それ以降は、季節性か散発的は流行ですむ」。集団免疫論という考え方です。政治家はそういうと、責任回避と批判されるから「パンデミックと闘う戦時の大統領だ」と、大言壮語する。戦う相手は、現代社会のシステムのあり方でもあるのです。

 

 もちろん重症患者に集中治療を施す、ワクチンを開発する、ウイルス検査を強化することが急務にしても、長期的には集団免疫を獲得することが最大の治療法になる。なるほど。さらに社会システムもこのままでいいかを考え直す。困るのは「流行が収まり、ウイルスは永遠に消えたのか、どこかで深い眠りについたのかが分からないことだ」と。

 

 解剖学者の養老孟司氏は、ウイルスとの共存論を唱えます。「人間に都合のよくない新型コロナが登場してしまったからには、共存するしかない。感染者がゼロになっていなければ、再び広がる可能性はある。ゼロになったかどうかは、人間には分からない」(読売3/28)と。なるほど、共存か。

 

 日本向けの出版も多い多いフランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は、感染症対策で外出禁止だそうです。日本人記者へのメールで、突然、非日常的な日々を強いられるようになったことについて「われわれの世代がグローバル化を手放しで礼賛してきた結果だ」(朝日新聞3/29)と、指摘してきたそうです。

 

 コロナの感染拡大は株の暴落を招いています。トランプ氏が大統領に就任した17年1月はダウは2万㌦、就任後のピークは約3万㌦(20年2月)でした。ダウは乱高下を繰り返しながら、2万㌦を割り、トランプ氏の経済的業績は自己破産したような状態です。

 

 FRB(中央銀行)に圧力をかけ続け、量的緩和の拡大、金利引き下げ、財政膨策によって、過剰なマネーが株価を引き上げてきました。金融財政という政策の後押しで株価をつり上げ、株価水準で経済的業績を計る、誇る。この「株価偏重主義」が米国社会の格差を拡大してきました。大統領選挙に影響がでるのでしょう。

 

 安倍首相のアベノミクスも、黒田日銀総裁と組んで推進した異次元金融緩和・ゼロ金利政策が株価をつり上げ、投資家の気分をよくしてきました。当初、狙った「脱デフレ、2年で消費者物価2%上昇」に見るべき成果はなく、その代わりに株価は9000円から2万4000円まで上昇し、現在は1・8万円程度まで下落しています。実体経済以上に相場が高騰していたバブルだったのでしょう。

 

 コロナ禍はグローバリゼーションを軸とする現代社会のあり方を問い直す機会であるとともに、株価で経済状況を計る「株価至上主義」のもろさを教えている。バブルが半ば周期的に発生し、何かのきっかけで破綻する。破綻する際に経済社会に深刻な打撃を与える。その怖さを思い知らされています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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