トランプ批判とトランプ評価の交錯
2019年5月28日
トランプ米大統領が新天皇の国賓として来日し、安倍首相とは通算11回目の首脳会談が行われました。日米の蜜月関係という表現は平板すぎ、「日本は米国依存」を深め、「米国もまた日本依存」に傾斜してきたというのが日米関係の本質です。
メディアは「おもてなし外交」「対米追従外交」「恩を売られた日本」(朝日新聞)という感情的なレベルから卒業したい。米国の力を非力な日本外交の補強に使う。日本の補強にするつもりが、日本のほうが米国の補強に取り込まれるのを防ぐにはどうするか。そうした視点がほしい。
トランプ氏の強引な外交手法に中露が反発するのはもちろん、欧州などの友好国とも対決姿勢が目立ち、米国と友好関係を維持している国は、日本など少数になりました。欧州では、メイ英首相が来月の辞任を表明し、メルケル独首相は21年の退任を明らかにしています。マクロン仏大統領は欧州議会選挙で極右政党に負け、2位に後退しました。欧州の政治は混乱の度を深めています。
「世界には200近くの国が存在する。日本は大国以外ではトップの座を占めている」と、米国戦略家、国防アドバイザーのルトワック氏は日本で出版した著書(戦争にチャンスを与えよ、文春新書)で指摘しました。「大国以外」とは、米中ロを除くという意味です。日本に何度も来日し、首相とも会談しています。「内容については守秘義務がある」と。同盟関係の深化でも助言したのでしょう。
非力な日本外交の補強に
トランプ外交が対立国を増やしているなかで、トランプ氏に近づいてくる安倍首相の日本はありがたいと、思っている。トランプ訪日を報じたロシア紙は「安倍首相はトランプ氏にとって大国で唯一の友人」と、表現しました。「唯一の友人」とは、トランプ氏の孤立を示唆しています。だからこそ米国を日本にひきつけ、非力な外交力の補強に使うことです。
米国有数の政治学者、コンサルタントのイアン・ブレマー氏(ユーラシア・グループ主宰)は日本の新聞に寄せたコラムで、日本を激賞しています。「経済がほとんど成長していないのに、国家がむしばまれて分裂していない唯一の国だ」と、持ち上げています。
米国にとって、欧州は脆弱になっているだけに、日本は無視できない国になっている。「米国の日本依存」です。米国の政治状況に通じている元官僚は「米国の対立国が増えているだけに、日本への注目度は高まっている」と、いいます。米大統領の4日間の訪日の背景でしょう。
破天荒にしか見えないトランプ外交について、「国際的ルールを無視する共産党独裁の中国のような国と対決するには、トランプ流の強引さも必要悪」という見方が存在します。その中国でも「米国が圧力をかけてくれたほうが、中国の近代化には役立つ」という声があるらしい。かつての日本にも米国からの圧力、つまり外圧がないと、経済・産業の体質改善が進まないという時代がありました。
悪玉も使いようで善玉
乱世に入った国際政治、国際経済を乗り切るには、「トランプ=悪玉」論だけでは分析できません。「悪玉」であっても、使いようでは「善玉」になります。
日本を見下す中国と対決するには、単独では無理です。トランプ氏の腕力をちらつかせ、尖閣諸島問題などは、実質的に棚上げにしておく。北朝鮮に対しても同様です。北は核戦力を放棄しまい。放棄しなくても、交渉の場を絶えず用意しておくことで、核戦力を事実上、凍結状態に置く。
米国の力をうまく使うことです。新聞論調を読むと、朝日新聞の社説は「もてなし外交の限界。対米追従より価値の基軸を」が見出しです。「いくらトランプ氏に抱きつき、個人的に良好な関係を深めたとしても限界がある」、「トランプ氏に擦り寄るだけでは、国際社会における日本の責務は果たせない」と。日本の限界を知り、米国の力をどう活用するかという視点が欠けています。
読売新聞はどうでしょうか。一面は本記、3面「首相、橋渡し外交」、4面「参院選にプラス」、6面は識者談話、7面は会談内容と記者会見要旨、8面「日米蜜月、中韓が注視」、社会面「陛下、特別の親しみ」など、8㌻が日米関連で埋まりました。同盟新時代が到来するかのようなお祭り騒ぎです。両紙とも、どっしりと腰を据えて、日本の限界を直視し、米国の力をどう引き出していくかを論じてほしい。
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