本音は返還より極東開発の推進
2016年9月5日
安倍首相とプーチン大統領の首脳会談があり、首相は「北方領土問題で進展へ手応えがあった。具体的に進めていく道筋が見えてきた」と語りました。大統領も領土問題で「我々はきっと問題を解決する」など、一見、期待が持てそうな雰囲気ですね。領土問題はこれまでずっと、動きそうで動かない、動かないのに動きそうな演出だけはしきりの、繰り返しでした。
今回もそうなるのではないですか。「領土返還」は実態があるようでないような、政治・外交カードになってしまっています。このカードを使っていると、首脳は努力しているとの印象を与えることができます。安倍首相にとってはカードを使うだけで、政治的な得点を稼げます。失敗したところで、もともと困難な案件だったから仕方がないで済むでしょう。
もちろん、領土問題に絡ませた極東地域の開発に取り組んでいる姿勢を見せることは、日本との対立が目立つ中国へのけん制になるでしょう。北朝鮮も警戒するかもしれません。「そんなに簡単にいくはずはない」と思っても、安倍首相とプーチン大統領がしっかり握手している様子を見せつければ、中国が気にしないことはないでしょう。
プロジェクト推進の実利を狙う
欧米との対立が目立ち、国際的に孤立しているロシアにとっても、悪いカードではありません。孤立している足元をみて、安倍首相がプーチン大統領に接近している意図が明らかでも、日本の誘いに乗っても損はしません。いくつかのプロジェクトで具体的に進展があれば、領土を返さなくても、実利だけ収めることができます。
ロシアに日本が協力するというエネルギー開発協力、産業の多様化促進などは、いかにも経産省が図面を書くのが得意そうな案件ばかりです。日本の致命的なエネルギー問題である放射性廃棄物の処理場に、無人のクリル列島を提供するとかを、ロシアが考えてくれば、話は別です。新規のエネルギー開発より、このほうがよほど価値あります。
領土返還に立ちふさがるのは、軍事的側面だと思います。7月のロシア側の発表だと、基地、訓練施設、武器・弾薬庫など、軍関係の施設の建設が多数、進んでいるとのことです。事実とすれば、これだけでロシアは本気で領土返還に応じる気がないことを示していることなります。
北方領土を含むオホーツク海はロシアにとって、対米戦略上、地政学的な重要性を持っていますね。敵対国の原潜の侵入を防ぐ海の防波堤もあります。北方領土の最大の価値は、天然資源でもなく水産資源でもなく、軍事的要素だとされます。日本が極東開発を申し入れても、それを領土返還に結びつけて考えることはないのではないですか。
4島の非軍事化は非現実的
日米安保条約を結び、日本の安全保障に深く関与している米国は、北方領土返還をどう見るかですね。当然、北方4島の非軍事化を必要不可欠な条件と考えるでしょう。北方4島以外にロシアの軍事施設を移設する考えはどうか。ロシアは同意しないだろうし、同意しても日本の費用負担が条件となるでしょうから、今度は欧米がうんといいませんね。
1万6000人のロシア人が国後、歯舞などに住んでいるそうです。返還の条件として、定住、移住のロシア人には居住権を認めるとどうなるか。軍事関係者を除外することにロシアは応じるか。また、相手に居住権を認めても、今度は相当数の日本人が移住、里帰りしていかなければ、何のための領土返還なのか。難しいことばかりですね。
今回の合意で、日ロ経済協力、極東開発が進めば、意味があります。その場合は「領土交渉の突破口に」とか「領土問題打開するために」などと、考えないことでしょう。残念ながら実態は逆で、領土問題を口実にして、両国の経済関係の緊密化を図ることでしょうか。両国の本音はそのあたりにあるような気がしてなりません。
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