「とうとうやってしまったのか」の声
2016年2月1日
金利の一部をマイナスにする日銀に対し、「ついにやってしまったか」といった辛口のエコノミストがおりました。実感がこもっており、私も同感ですね。「デフレ脱却ための金融緩和策の効果は限界」との警告が強まっているのに、黒田総裁は動じず、マイナス金利という異次元の措置にさらに踏み込みました。この先が心配です。
もっともマイナス0・1%、その対象も一部ですから、マイナス金利が個人の預貯金利を含む全体に広がるわけではありません。意表を突く心理的な効果を重視したのでしょう。日本に限らず、世界経済、とくにマネー市場は緩和マネーの中毒にかかっているような状態です。禁断症状がでるたびに、緩和マネーという薬物の投与を続けていくと、結局、基本的な体力を痛めつけることになりかねません。本格的な薬物投与ではなく、かがせ薬にとどめることを願っています。
枝葉よりなぜ森を見ないのか
市場関係者、エコノミスト、学者の多くは、マイナス金利がどのような波及効果をもたらすか、緻密に分析し、プラス、マイナスの見通しも述べています。私はそうした葉や枝よりも、主要国の金融政策全体という森がどんな状況を作り出しているのかを洞察すべき段階にきていると思うのです。
世界のマネー市場には、日米欧の怒涛のような金融緩和で大量のマネーが供給されてきました。年明けからの世界的な株安は原油安、中国経済の減速によるもので、今後、株価に与える影響を考えると、米国は思惑通りに金利を引き上げることをためらうだろうと、予想されています。新興国からも緩和マネーが米国に還流し、経済不安や通貨安を招いています。
世界のマネー市場、とくに株価を緩和マネーが支える構造ができあがってしまっており、少しでも緩和から手を引こうとすると、市場がすぐ動揺するのです。日米欧はみずからのために金融緩和を続けてきたはずのに、割高な金利を稼げる新興国経済にも緩和マネーがなだれ込み、そこでも経済を底上げしてきました。その流れが途絶えると、波乱が起きるのです。新興国の債務(借金)はだぶついた資金の流入で10年で4・5に倍膨れ上がっています。債務をただちに返済できる実力はありません。
マネーがしぼむと市場は動揺
過剰な緩和マネーがいつのまにか、世界経済全体の水ぶくれした構造を作り上げました。過剰マネーという風船がしぼむと、底上げされた経済が突然のように沈下するのです。こうなってしまうと、ずっと緩和マネーの供給を続けなければならなくなります。安倍政権からは「日銀は何か考えているでしょう」と、催促の声が上がっていました。
原油安が進み、ついで中国バブルの崩壊が深刻化し、国際的な波及を防ごうとすると、金融緩和の拡充に迫られます。日銀に続き、欧州もマイナス金利政策の強化に乗り出す情勢です。金融緩和の長期化は、金融中毒という一種の麻薬中毒を招いているのです。主要国の中央銀行は、中毒患者が苦しみだすと、麻薬を与えてきました。この中毒にかかると、簡単に足を抜けなくなります。日銀はそのことを心配していないようですね。
米国のように体力のある国は一国だけなら、時間をかければ健康体を取り戻していけるでしょう。問題は成長の限界に直面し、経済の停滞期に入った日欧、日米欧からの緩和マネーで潤った途上国、資源市場など、世界全体が金融中毒にかかってしまったことです。
金融政策に過大な負担を押しつける
日本の場合は、財政が赤字拡大で手詰まりになりました。歳出削減、増税をしようにも有権者の抵抗が強いので、有権者の負担が目には見えにくい金融政策の負担で景気対策を重ねてきました。米欧もそうでしょう。日本場合、量的緩和から質的緩和(長期国債の大量購入)へ、質的緩和から異次元金利(今回のマイナス金利)へです。第1の矢、第2の矢が力尽き、第3の矢を持ち出さざるをえなくなったというのが実態でしょうね。
財務省出身の黒田総裁の本心を推測すると、「伝統的な景気政策の余地はもうない。景気政策には、異次元金融緩和による株高というバブル政策、円安政策しかない」ではないかと、思います。そんなことを続けていると、どうなるのでしょうか。バブルが崩壊した時に実体経済が受ける傷は深く、それを治療しようとすれば、さらに大きな手当て(緩和)が必要になります。その悪循環にはまると、やがて打つ手がなくなる。安倍さん、黒田さん、どう考えますか。
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