4月中の収束宣言は困難
2020年3月9日
新型コロナウイルスの感染国は100か国を超え、累計の感染者は10万人以上に達しました。こうした状況のもとで夏の東京五輪は開催できるのか、開催すべきか。それを決断するタイムリミットは国際オリンピック委員会(IOC)がいう「5月」ではなく、4月でしょう。
IOCや日本側の「5月に最終決断」は建前でしょう。「予定通り開催」ならともかく、5月に「開催延期ないし中止」を決めたら大混乱に陥ります。テレビ放映契約、入場券払い戻し、選手村、輸送、観客のホテル、ボランティアなどの処理が山のようある。4月中にどうするかの決定が必要です。
安倍首相は9日、「新型インフルエンザ特別措置法」の改正案に絡んで、「今回のコロナウイルスの感染拡大を歴史的緊急事態に指定する」とまで表明しました。「歴史的」とまで踏み込んでしまったため、感染拡大の収束を容易に宣言することができなくなりました。
感染拡大の完全な収束を見極めることは、あと1か月では至難でしょう。「1か月で収束宣言」ができたとしたら、「歴史的緊急事態宣言だなんて、なんとまあ大口をたたいたものだ」と、批判されるでしょう。ひょっとしたら、首相の心の中で「開催延期」の覚悟ができているのかもしれません。
正体がまだ解明されていないコロナウイルスであるにせよ、私は「コロナ騒動」に世界も日本も過剰反応を起こしているような気がしてなりません。
19年から20年にかけて米国で大流行しているインフルエンザは、患者累計1900万人、死者は1万人以上に上ります。17年から18年にも大流行し、感染者4500万人、死者6万人です。これなら米国にとっては「歴史的緊急事態」でしょう。
コロナは世界各地に感染が拡大しているといっても、「感染者10万人、死者3600人」です。その8割近くが中国ですから、「世界的大流行」といえるのでしょうか。政治的な意図があるのか、主だった国が過剰反応を起こしているような気がしてなりません。
そうはいっても、イタリアが「北部14県、1600万人を4月3日まで隔離する。体育館、美術館、ジムを休業にする」措置をとりました。米ニューヨーク州が感染者が100人以下なのに、「非常事態宣言」です。感染者が実質500人の日本が「歴史的緊急事態」です。妙な展開になってしまっています。
世界保健機構(WHO)は当初、楽観的だったのに、最近は一転して「夏になればインフルエンザのように消えてなくなるという観測は間違っている」「そうなるという証拠はない。拡散能力が持続することを前提に対応すべきだ」です。これもおかしな展開です。
そういう展開の中で東京五輪はどうなるかです。日本が4月中に「歴史的緊急事態」が収束できたとしても、他の国はどうなるか。アフリカ、中南米、東南アジア諸国は患者数が少ないというより、検査体制、病院の受け入れ態勢ができていないことの結果でしょう。WHOのいう「拡散能力の持続を前提に対応」すれば、患者数が今後、増えて当分、収束宣言ができるわけはありません。
4月の段階で収束の見通しが立っていなければ、五輪は延期ないし中止でしょう。テレビ放映ひとつとっても、7月24日からの開催間際になって延期ないし中止ができるわけはありません。放映中止となれば、莫大な損害賠償を請求されるでしょう。
ですから私は「後でドタバタと、あわてなくて済むように、4月に延期を決定、延期時期は今年の秋でなく、一年後とする」という裁定を下すのがいいと思います。勿論、来夏も異常気象を前提として、札幌マラソンのように、開催地の分散などの猛暑対策は必要です。
中止では、見込んだ収入が全額、吹き飛びます。入場料収入800億円は、延期なら後日に期待できます。新国立競技場の建設費1550億円も、時間をかけて回収する。テレビ放映権料も中止でなく延期なら、翌年あたりに計上できます。
札幌マラソンの解散案がIOC主導で決まったように、日本側が主導してこうした変更に踏み切る能力はないでしょう。結局、IOC、WHO、最大の資金の出し手となる米テレビ局を持つ米国あたりの意向で決まるのでしょう。日本は最後まで「5月に最終決定」と言い続ける展開でしょう。
それと中国の出方です。「ウイルス対策に追われ、選手団を出せない」とでも、宣言されたら延期は不可避です。中国から選手団はこない、観客、観光客も来日しないとなると、東京五輪は成立しません。その面でも、延期するなら「1年後」という選択が現実的でしょう。