日本は温泉大国です。日本中どこへ行っても天然の温泉があり、落ち着いた温泉宿があります。温泉に関しては質、量ともに世界一だと言えます。
もちろん、海外にも多くの温泉があります。ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、ニュージーランドの温泉は有名です。ただ、日本の温泉が海外と比べて大きく異なっている点があります。それは「温泉街」という存在です。
日本では温泉が湧き出る地に多くの宿が建ち並び、それぞれが自前の温泉風呂を持っています。そこに土産物屋、食堂、酒場などが曲がりくねった狭い道の両側に軒を連ねてひとつの街を作っています。そうした風景は、たとえば欧州の観光地に比べると非常に雑然としており、ときには猥雑にも見えます。
しかし、すっきりとした海外の観光地よりも日本の温泉街は落ち着きます。「狭いところに密集している状態」は日本人のメンタリティに合っているのかもしれません。
多少飛躍してしまいますが、そう考えると、日本のオフィスの風景にも温泉街のような雰囲気を感じないでしょうか。狭い部屋にデスクがいくつか集まって島のようになっており、机の上には雑然と積まれた書類やパソコン、文房具が散らかっています。そんな職場の方が、パーティションで区切られてすっきりした(し過ぎている)海外のオフィスよりもなぜか落ち着きます。
ただし、雑然としていることで仕事の生産性が下がってしまっては意味がありません。職場はON、温泉はOFFの世界です。
職場をすっきりと整理してから温泉宿に出かける、そうしたメリハリがあってこそ温泉に入った時に心身ともにリラックスできます。
せっかく質、量ともに世界一の温泉が湧き出る国に住んでいるのですから、ON/OFFを切り替えてお風呂を楽しみたいものです。
(人材育成社)
※画像は、川瀬巴水「上州法師温泉」(1933年)