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顧客はなんでも知っている

2017年03月19日 | コンサルティング

「セールス」について考えるとき、どんな言葉が思い浮かびますか?「人を動かす、あらたな3原則(ダニエル・ピンク著、講談社、2013年)」によると、多くの人は「押しが強い」、「媚びる」、「不誠実」などの嫌悪の感情を含む言葉を答えるそうです。アメリカでは特に「格子縞の背広を着て化繊のズボンをはいた(同書より)」中古車のセールスマンを思い出す人が多いとのこと。それも、こと中古車販売に限っては「セールスウーマン」を思い出す人は全くいないとか。なんとなく想像できてしまいますね。

こうしたネガティブな感情が生まれたのは、セールスに関してそういう(不快な)経験をした人が多かったからでしょう。そうでなければ、ここまで嫌悪感が広く定着するはずがありません。

さて、中古車販売店を想像してみてください。セールスマンは中古車について全てを知っています。事故車だったとか、電気系統が壊れやすいとか、前のオーナーが車の中で自殺をはかったとか・・・。車を高く売るためにはこうしたマイナス情報を隠しておくのが一番です。だから、お客さんも「何か隠しているのかもしれない」と考えてしまうのはごく自然なことです。

ところが、とても良い車で本当にお買い得であっても、お客さんはセールスマンの言葉を信用できないので「ずいぶん高いなあ。安くしてよ」と言います。セールスマンとしては、十分に高く売る価値のある車だとわかっているので、「いや、いや。もうこれ以上は無理です。」と答えます。その結果、質の良い車は売れず、もっと安くて質の悪い車が売れることになります。

このように、売り手(セールスマン)と買い手(お客さん)の間に、商品についての情報の格差があることを情報の非対称性と言います。そのため、本来は良い車から売れていくはずが、そうならない事態(逆選択と言います)が生じるのです。経済学を学んだ方にはおなじみの、アカロフのレモン市場※です。

ところがインターネットの普及によって、情報の非対称性は多くの市場からなくなりつつあります。中古車を買おうと思ったら、ほとんどの人は最初にネットで相場を調べます。そして評判の良い中古車ディーラーに出かけて行って、販売員に色々と質問をし、満足する答えを得てから購入するはずです。何の下調べもせず「格子縞の背広を着て化繊のズボンをはいたセールスマン」がいる店に行くことはないでしょう。

「顧客はなんでも知っている」わけです。

セールスを職業としている人は、この原理原則からスタートしなければなりません。これは中古車に限ったことではなく、消費財を中心に多くの市場で起きていることです。

現代のセールスでは、情報量の多さは武器になりません。商品を使うことによって得られる「満足度」を顧客にわかってもらう努力こそ武器と言えます。

顧客は、他者による商品の評価はネットで入手できますが、自分が使ったときの満足度は想像するしかありません。つまり「知らない」のです。

顧客の想像を助けるのがセールスの役目です。なんと創造的な仕事でしょう。

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レモン市場 - Wikipedia