ある研修の中で、「クジラ」という解答を導き出すため、質問者と回答者のペアで演習をしていた時のことです。
質問者 「それは海の生き物ですか?」
回答者 「はい。」
続いて、以下のやりとり。
質問者 「それは家でかいますか?」
回答者 「はい。」
「えっ~!」 「家で飼う??」
質問者と、その時たまたまそのペアの前を通りかかった私の反応です。
「くじらを家で飼う?」 そんなばかな・・・世界中を探せば、もしかしたら一人くらいは家でクジラを飼っている人がいるかもしれないけれど、そういう人はまずいないでしょうに。その時はそう思いました。
ところが、後日別の研修でこの話を紹介した際、一人の受講者から次のような指摘を受けました。
質問者の「『それは家でかいますか?』」の問いに対して回答者の「はい」の意味は、『家で飼いますか?』ではなくて、『家で買いますか?』という意味にとらえたのではないでしょうか。私の出身地の和歌山では、季節によりスーパーでクジラが売られていますから。」
「なるほど、そういうことだったのか!」ようやく疑問が解けるとともに、あらためてコミュニケーションの難しさを感じました。
コミュニケーションをとる時、私たちは自分のcontext(コンテクスト)に基づいて行います。Contextとは日本語にすると、文化・風土・習慣などと訳されます。人にはそれぞれのコンテクストがあるのだから、コミュニケーションをとる時にはそのコンテクストを踏まえないといけない。この例では質問者や私は「クジラを買う」ということがすぐには浮かばなかったわけで、コミュニケーションとは双方のやりとりが噛み合ってはじめて成立するものであることをあらためて再認識しました。
さて、一瞬「クジラを家で飼う。」ことをイメージしてしまった私ですが、実際のクジラの大きさは、ザトウクジラだと体長は雄で約13m、雌は約14m、体重は30tほどもあるようです。この大きさですから、世界中探しても家で飼っている人はまずいないでしょうね。(笑)
ところで、昔からクジラは捕獲の対象であると同時に信仰の対象ともなってきて、日本では鯛と釣竿を持つ姿で知られ漁業の神でもある「恵比寿」と同一視されてきたようです。
東北、近畿、九州の各地方をはじめ、日本各地で鯨類を「エビス」と呼んでいて、恵比寿の化身や仮の姿と捉えて「神格化」していたとか。とても神々しい存在だったのですね。
「クジラ様」、大変失礼をいたしました。
冒頭のクジラの写真は、人形町の商店街で撮ったものです。あやつり人形のバネは今でもクジラのひげを使っているそうです。江戸時代人形浄瑠璃の芝居小屋があったことにちなんで、昭和になって町名を人形町としたとのことです。
(人材育成社)