「大工の世界では、一番腕のいい人が棟梁になることはあんまりないね。 2番目の人がなることが多い」
先日ある大工さんに聞いた話です。この話を聞いて、「それはなぜですか?」と質問をしたところ「抜群に腕の良い人は、何でできないのか、できない理由がわからない。2番目くらいの人だとできない人の気持ちもわかるんだよね。だから『わからない』っていうことを理解できることも棟梁の条件なんだ」
この話を聞いたときに、私は妙に「なるほど」と納得できました。
というのは、研修中にポイントごとに受講者に「何か質問はありますか?」と聞いても手が挙がらないことから、理解をしてもらえたのかなと思ってそのまま続けて演習を行うと、実は内容が理解できていなかったことが後からわかるということがあるからです。
わからないところがあるのなら、「質問はありますか?」と声をかけた時に聞いてくれればよかったのにと思うのですが、実際にはあまり質問が出ないのです。
その理由はいろいろあると思いますが、大きく分ければ、質問したいところはあるのだけれど大勢の前で聞くのは恥ずかしいと思う人と、そもそもどこがわからないのかがわからないという人がいるのだと思います。そのように考えていた矢先に、冒頭の大工の棟梁の話を聞いたので、納得がいったわけです。
そもそも質問をするためには、その前提として理解しているところと、そうでないところを区別できていることが必要です。言葉にするとややこしくなりますが、
「わからないことを質問するためには、わからないところをきちんとわかっている必要がある」 ということになると思います。
これを仕事で言えば、業務の内容をきちんと理解し把握できていない人は、そもそも質問自体することがなかなかできないということになります。
そして上司は、もし部下が質問をしてこない場合、それは質問する必要がないからなのか、質問することができないからなのか、部下の理解度合いを推し量ったうえで的確に見極める必要があります。
大工さんに限らず指導者は、「わからないことがわからない」ことが誰にでもありうることを理解したうえで指導を行うことを心掛けたいものです。
(人材育成社)