「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
私は20年近く都内の大学で「会計学特論」という授業を担当しています。と言っても理系の大学院生が対象なので基礎的な内容です。受講している学生は100人弱とかなり多いのですが、「簿記3級を持っている」、「株式投資をしている」という学生が例年2、3人いる程度です。ほとんどの学生が会計に関しては全くの素人と言って良いでしょう。
授業は最初に「会社の仕組み」の説明から始めます。株式会社とは何か?一般社員と管理職はどう違うのか?役員(取締役)とは何か?等々、常識レベルの話です。
次に財務諸表の見方を教えます。損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の「財務3表」の仕組みと役割を学んでもらいます。
このとき面白いのは、会計という制度に対する反応です。財務3表は数字の集まりなので、理系人間にとってはきっちりとしたロジックをそこに見出そうとします。しかし、ご存じのように制度は人が決めたものであり、その背景に自然現象(たとえば力学)のようなロジックはありません。
もちろん会計はお金に関する制度ですから体系内に矛盾があってはなりません。矛盾しそうな点は最初から排除しておきます。それでも不都合が生じることがあれば、制度を作り直します。自然科学のような節理に則った制度ではないので当たり前なのですが、数字が絡むとどうしても純粋なロジックが背後にありそうに見えます。そこがしっくりこない学生が少しいます。
しかし授業も4、5回目あたりになると、がぜん乗りが良くなってきます。学生たちの頭が切り替わったのです。
そうなると後はとてもスムーズに授業が進みます。経営分析や原価計算、損益分岐点分析は計算が中心なので説明が楽です。またファイナンス理論も少しだけ解説しますが理論の基礎となる「数列」や「確率分布」などはお手の物なので、あっという間に理解してしまいます。
会計の知識は単なる教養ではなく、数字を通して仕事を見る、考える力になります。製品を開発するときの経済性の計算や、競合他社との競争において、財務諸表を読むことができれば先を読むことができます。それがほんの1歩先だとしても、大いに仕事に役立ちます。
理系の学生ですから就職先はメーカーやシステムインテグレータ、通信事業などがほとんどです。職種は何らかのエンジニアであることはほぼ間違いありません。もちろん本来の技術力があってのことですが、会計に関する知識やモノの見方を身につけたエンジニアは本当に「使えます」。
経営者の皆さん、ぜひ御社のエンジニアにも会計を学ばせてください。会計は簿記のような「帳簿の付け方」ではなく「会社の数字の読み方」です。
言うまでもありませんが、会計は経営者自身が身に付けておくべきものであるということもお忘れなく。