今日は朝から冷たい雨がふり、久しぶりに寒くなりました。ここ数日の暖かさに慣れた身には堪える寒さで、暖房必須の一日でした。
そんな中、今日私のところに仕事で使う譜面が届いたのですが、その中にものすごく久しぶりに演奏する曲がありました。それが

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809)の《交響曲第103番 変ホ長調》通称『太鼓連打』です。
『傑作の森』と言っても良いハイドンの12曲の『ザロモン交響曲』の中でも、特にきっちりとした形式的な完成度の高さを持っているのがこの作品です。何と言っても『太鼓連打(The drum roll(Mit dem Paukenwirbel)』という独特のニックネームが目を引きますが、これは
第1楽章の序奏の最初に出てくるティンパニのドロドロドロ…という連打に基づくものです。
第1楽章は序奏とソナタ形式の主部からなっています。
序奏はアダージョ、変ホ長調の4分の3拍子。
『太鼓連打』というニックネームの由来となった、印象的なティンパニのドロドロドロ…というロールで始まり、その後に低弦部とファゴットによる聖歌を思わせるような落ち着いたメロディが続きます。この動機は展開部でも登場しますが、こうした形はハイドンとしては珍しいものです。
主部はアレグロ・コン・スピリート、変ホ長調の8分の6拍子。
第1主題は序奏から一転して軽やかなもので、小躍りするように進む魅力的なものです。その後フォルテの部分になった後にオーボエが主題を変形し、経過部になります。
第2主題は属調の変ロ長調になりますが、第1主題同様に軽快で親しみやすいものです。この第2主題部は短く切り上げられ、小結尾になります。
展開部では第1主題の展開が行われますが、その後雰囲気が変わって序奏部で出てきた動機が短調で出てきます。その後第1主題・第2主題の動機がさらに展開された後、再現部となります。
再現部では第1主題・第2主題が共に変ホ長調で再現された後、突然変イ長調のフォルテ部とななります。さらに序奏部が再現され、最後は簡潔なコーダで締めくくられます。
なお、この『太鼓連打』の部分ですが、ハイドン自身による音量や強弱の指示が最低限しかないこともあり、指揮者によっていろいろな解釈がある部分です。20世紀の録音では楽譜通りに演奏しているものがほとんどですが、近年ではティンパニの乱れ打ちソロになっていたりと、なかなかアグレッシブな演奏もあります。
第2楽章はアンダンテ・ピウ・トスト・アレグレット、ハ短調の4分の2拍子。
この楽章はハイドンお得意の変奏曲ですが、ハ短調の第1主題とそれと同じ楽想をハ長調にしただけの第2主題が交互に登場し、それぞれが変奏されていく二重変奏曲となっています。落ち着いた歩みを感じさせる素朴なメロディは、いかにもハイドンらしいものです。
各主題は2部形式で前半・後半から成っていて、2回変奏されます。第2主題の第1変奏では、独奏ヴァイオリンが3連音で華麗にオブリガートを付ける部分が特徴的です。
第1主題の第2変奏では金管楽器やティンパニが加わり、ダイナミックな盛り上がりを見せ、その後、第1ヴァイオリンに細かい音の動きが絡み合ってきます。続く第2主題の第2変奏はオーボエなどによってほとんど変奏されることなく歌われ、終結部となります。
第3楽章はメヌエット、アレグロ、変ホ長調の4分の3拍子。
メヌエット部は素朴な感じで堂々と始まった後にホルンなどが合いの手を入れる形で進んでいき、後半は対位法的に展開されます。同じく変ホ長調のトリオではクラリネットが第1ヴァイオリンに重ねてレントラー風のメロディを歌った後、いろいろな楽器が受け継いでいきます。
第4楽章は2つの主題によるロンド・ソナタ形式のフィナーレ、アレグロ・コン・スピリート、変ホ長調の2分の2拍子。
ホルンによる4小節の導入部の後で一旦休符が入り、その後、仕切り直しのような感じで第1主題が軽快に始まります。この主題のリズム動機は、その後繰り返し繰り返し楽章を通じて出てきて、ダイナミックに盛り上がりながら経過部に入っていきます。
第2主題は第1主題が少し発展したもので、その後も基本リズムを中心に、主題が対位法的に絡んだり、新しい動機を加えたり、様々なアクセントや和声を加えたり…と次々と登場する感じで曲は進んで行きます。その中で曲はいつの間にか巨大に成長していき、堂々と全曲が締められます。
そんなわけで、今日はハイドンの《交響曲第103番 変ホ長調》通称『太鼓連打』をお聴きいただきたいと思います。ハリー・クリストファー指揮によるヘンデル&ハイドン・ソサエティ・オーケストラの演奏で、『軍隊』や『ロンドン』と並ぶハイドンの名作交響曲をお楽しみください。