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 先週の土曜日、塾の教室から窓の外を見たら、腕を回しながら派手な動作をしている男性がいた。野球帽をかぶってグローブをはめているように見えたから、キャッチボールでもやりながら歩いているのかなと思ったが、その人のほかに人影は見えない。変な人だな、と訝しんだが、その後も怪しい動きをする。橋を渡って、ガードレールを乗り越え、川の向こうに向かって、また腕を振り上げている。何をしているのだろう・・。
 どうも何かに向かって合図をしているようだ。しかも彼の視線は中空を向いている。そんなところに何がいるというのだろう・・。私も彼が向く方向にじっと目を凝らしてみた。すると・・、


 川の向こうのアパートの屋根に何かがいる。何だろう?・・・鳥だ。鳥がいるんだ。その鳥に向かって、その男の人は盛んに身振り手振りを繰り返している。ということは・・、あの鳥は鷹なのか?あの男性はひょっとしたら鷹匠なのか?
 俄然面白くなって、事務室からカメラをもって来た。その男性がどうやって屋根の上にいる鷹を手元に引き寄せるか、その様子を写真に収めようと思ったのだ。さすがに窓を開けて体を乗り出すようにして撮影するのは憚られたので、ガラス窓越しにこっそりと写真を撮ってみた。

 

 グローブだと思ったのは、鷹を載せるための手袋のようだ。鋭い爪に止まられても大丈夫な作りになっているのだろう。年配の鷹匠が鷹を片手に止まらせて、近くを散歩をしているのは何度も見たことがあるが、今日の男性はその人よりもかなり若い。ひょっとしたら、跡継ぎなのだろうか・・。一緒懸命鷹に向かって信号を送るが、鷹はまるで知らぬ顔をしている。このまま戻ってこないなんてこともあるのだろうか・・。
 見ていたら、その男性も少しずつ焦り始めた様子がうかがえたが、それでも辛抱強く待つ姿はさすがにプロだと思わせるものだった。禽獣を馴れさせるには忍耐強さが不可欠なんだろうな、と彼の姿を感心しながら見ていたら、屋根の上の鷹が大きく翼を広げたと思った次の瞬間、一気に男性の差し出していた腕に舞い戻ってきた。

 

 

 

 空中を羽ばたく姿を写真に収められなかったのは残念だが、辛抱強く待った甲斐あって、鷹を呼び戻すことができた男性のホッとした後ろ姿が印象的だった・・。あのままずっと戻ってこなかったら、どうするつもりだったんだろう。などと無責任なことを思ったのは、私が傍観者だからだろう。当人にしてみれば必死の思いの数分間だったはずだ。
 
 私としては、珍しいものが見られただけ儲けものだったが・・。
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