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「十三人の刺客」

 「十三人の刺客」を見に行って来た。


 残虐非道な大名でありながら、将軍の弟と言うだけで老中への就任が決まった明石藩藩主(稲垣吾郎)を暗殺せんと13人の刺客が送り込まれる、というストーリーであるが、まあ、なんとも大がかりな仕掛けで見る者を圧倒する映画であった。この映画が面白いかどうかは、ひとえに稲垣の暴虐さ加減にかかっていると思っていたが、確かに見ていて気分が悪くなるほどの悪行三昧、よくもこれだけ人倫の道を外れた行いができるものだと、ふつふつと怒りがこみ上げてくるばかりの凶悪な男を、SMAP・稲垣がよくも演じたものだと、まずは感心してしまった。思わず目を背けたくなる場面もいくつかあり、それを平然と演じる稲垣を見ていたら、「吾郎ちゃんていやらしい役をやらせたらすごいよ」と妻が見る前に言っていたのを思い出し、「恐るべし稲垣吾郎!」と慄然としてしまった。現世での刺激を求め、ひたすら狂気にひた走る独裁者がどれだけ無辜の民を蹂躙するものか、本当に見ていて胸糞が悪くなった。端正な顔をした稲垣だけに余計、その仕打ちの残虐さが強調され、こんな男なら万難を排してでも誅さねばならないと、役所広司率いる13人の刺客が一刻も早く稲垣を討ってくれるよう願った程だった・・。
 しかし、それでもやはり戦闘場面がノンストップで50分も続くのはきつかった。見終わった後、ものすごく疲れた気がした。それは刺客たちと一緒に戦ったせいなのかもしれないが、途中から誰が誰やらわからぬほど泥まみれ、汗まみれ、血まみれになった戦いは見る方にも限界があるように思う。同じ三池監督の「クローズ・ゼロ」シリーズで見慣れているとはいえ、今回の戦闘場面はよりパワーアップしていて、カメラの切り替えについて行くのも遅れがちになるほどで、いくらでも押し寄せてくる敵方に、もう十分だろう、と少しばかり食傷気味になってしまった。戦闘場面が最大の見せ場であるとしても、もう少し短くても十分よかったように思う。それはただ単に受け止める私にパワーが不足気味だというだけのことかもしれないが・・。
 
 それにしてもこの映画の豪華キャストには驚く。松方弘樹の殺陣の美しさには目を見張ったが、平幹二朗・松本幸四郎など大御所とも呼べる役者を惜しげもなく脇に配し、重厚な雰囲気をスクリーンに醸し出している。主君への忠節のため命を惜しまぬ鬼頭半兵衛役の市村正親も己の信ずる道に殉じる無骨な武士を好演していた。さらに、私にとっては「クローズゼロ」以来馴染みとなった山田孝之・高岡蒼甫・波岡一喜もそれぞれにいい味を出していたと思う。総じて役者個々は己に与えられた役回りを忠実に演じていたのだろうが、刺客として集められた者たちの人物像がはっきりせず、彼らが何のために戦おうとしたのかが最後まで伝わってこなかったのは少し残念だった。戦闘場面をもう少し削って、人間を描く時間に回したならば、映画に深みが増したように思う。・・。
 役所広司の懐の深い演技はさすがだったが、それでも私がこの映画で一番注目したのは、木賀小弥太役の伊勢谷友介だ。実写版「明日のジョー」での力石徹役に決まったのを知ってから、俄然気になる役者になったのだが、このところ彼をよく見かけるようになった。そんな彼が「まさに力石!」と言いたくなるほど引き締まった体躯に精悍な顔つき、今の時代には珍しい荒々しさでスクリーンを縦横に駆け回るのだから、どうしたって彼を目で追ってしまう。早く「明日のジョー」が見たいな、と今から楽しみで仕方がない。

 独裁者の狂気と言えば、カミュの戯曲「カリギュラ」を思い出してしまうが、稲垣吾郎演じる舞台「カリギュラ」も見てみたい気がする。
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