あるビルが朝のニュースでテレビに映っている。
まさにそこに行くために今、着替えをしていたりする。
テレビと日常生活のリンク。近所の火災現場中継みたいだ。
支度して外に出る。
出勤途中、綾瀬はるか似の女の子が笑顔で駆け寄ってきた。
「すみませ~ん」
(オ、オレ?)という意味で自分で自分を指差すと、綾瀬はるかはにっこりうなずいて、なおも近づいてくる。
何だろうとワクワクし、なぜかこっちも頬がゆるむ。
彼女は数秒で至近距離に近づき、そしていきなり後ろ手で隠していたマイクを目の前に突き出した。
「今回の人事、どう思われますか?」
塀の陰から照明とカメラの人が飛び出してくるのが見えた。
(ど、どう思われるかって言ったって、知るかそんなもん)
「あ、えーっと、あの、別にオレが決めた事じゃないんで」と言うのが精一杯だった。
走って逃げる。何でオレが逃げなきゃならんのか。
事務所に入ってから、あれがTV放送されたらどうしようとドキドキする。
なぜか北海道の景色が頭に浮かぶ。
知床でコンブ漁やってる従弟が観たら腰抜かすんじゃないか。
(別にオレが決めた事じゃないんで)
我ながら間抜けな答えだ。
オレじゃなくて、「わたくし」と言うべきだったか。
だって、とっさに何にも思いつかなかったんだもん。
MDで竹童さんの「じょんがら中節」聴いてたんだもん。