生まれてから10歳まで、北海道の厚岸という港町で過ごした。父は役場の職員で、母は専業主婦だった。
小学校に上がるまで、町営の保育園に通った。送り迎えはもっぱら父のバイクで、幅広の荷台にまたがり父の背中に必死にしがみつきながら通った。
その保育園に「にしのせんせい」はいた。
今思うとレスリングの伊調姉妹の妹の方に似てたな。
美人でやさしくてあったかくていい匂いのする、西野先生。
保育園ではいつも先生のエプロンの端っこを握り、くっついて歩いた。
そんなある日のこと、自宅の風呂釜が壊れたかなにかして、突然家族で銭湯に行くことになった。
銭湯へもバイクで向かった。父と、母と、オレの3人乗りだった。
銭湯に行くのはあの日が生まれて初めてで、着くと母親のあとについて女湯の方に向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、洗い場に入って母のとなりに腰掛けると、なんと、反対隣に、西野先生が座っていた。
「あら、はまちゃん」
その姿が鮮烈で、まぶしくて、うれしくて、固まった。
母と姉以外で、知っている女の人の裸を見るのは初めてだった。
先生の方はいつもと変わらず、
他愛のない話から始まって、
一緒に湯船につかって100まで数えたり、
風呂上がりにカツゲンのふたをとってもらったりした。
その日以来、ますます西野先生の事が好きになり、
「オレと結婚してくれ」
と、4歳でプロポーズし、
「大きくなったらね」
とかわされ、母に、
「どうやったら早く大きくなれるの?」
と聞いたら
「牛乳飲んどけ」
と言われたのを覚えている。
翌年の卒園式の時、先生の足にしがみついて泣いた。
もう会えないなんて、これで人生終わりだと思った。
でも小学校に入学したらしたで、そっちのほうが楽しくて、
西野先生のことはすぐ忘れてしまった。
初恋の人、にしのせんせい。
TVで伊調選手が出るたびに思い出します。