古代国家の見方が変わる?と題しまして、虎尾達哉さんの『古代日本の官僚』の紹介、連載5回目で最終回です。
今回は、本書で引用されていた史料で、かねうりきちじが一番衝撃を受けたものを紹介したいと思います。
それは何かというと、天皇の決裁を得るために上申した文書が臭かったということを伝えるもので、『類聚符宣抄』ものに収められているものです。
まずは原文を。
応勘内案事
内侍宣。有勅。進奏之紙、臰悪者多。自今以後、簡清好者、応充奏紙。
若不改正、執奏少納言必罪之者。当番案主、宜知意勘之、不可遺忘。
延暦九年五月十四日
かねうりきちじの読み下しはこんな感じ。
内案を勘ずべき事
内侍宣す。「勅あり。『進奏の紙、臰悪なるもの多し。今より以後は、
清好なるものを簡(えら)び、奏紙に充てるべし。もし改正せざれば
執奏の少納言、必ずこれを罪す』といえり。当番の案主は意を知り、
これを勘ずべし。遺忘すべからず。
延暦九年五月十四日
この時の天皇は桓武。
都を平安京に移し、東北地方に兵を派遣したことで知られています。
伝記としては、以下の3書が入手しやすいと思いますが、最新の西本昌弘さんの日本史リブレット人シリーズのものでは、副題が「造都と征夷を宿命づけられた帝王」とあるように、古代の天皇の中では専制君主の印象が強い方です。
桓武天皇―造都と征夷を宿命づけられた帝王 (日本史リブレット人)
桓武天皇 (人物叢書)
桓武天皇:当年の費えといえども後世の頼り (ミネルヴァ日本評伝選)
その桓武の言葉が、二重括弧『 』内です。虎尾さんの現代語訳では「私のもとに進められる奏紙には、悪臭を放つものが多い。今後は臭わないきれいな紙だけを選んで奏紙とせよ。もし、これを改めないなら、奏上を行う少納言を処罰する」とされています(p.108)。
首都移転こそしていませんが、1400億円といわれる宮殿を作り(詳しくはこちら)、ウクライナへの侵攻を命じたロシアのプーチン大統領に、官僚が臭い上申文書を提出するでしょうか。。。。
ま、現代と古代とでは感覚が違うとは言え、次のことも気になります。
それは、「臭い紙」を取り次ぐ少納言に直接文句を言っているのではなく、内侍が取り次いでいるのです。
内侍とは、天皇の側仕えの女官で、天皇への奏上や、その逆に天皇から発せられた言葉を取り次ぐことなどを仕事としています。
たぶん桓武は一人になった時に、持ち込まれた上申書を1枚1枚めくりながら「臭いなぁ。決裁書はきれいな紙にしてくれないかなぁ」とつぶやいたのではないでしょうか。
そしてそのつぶやきを内侍が聞いて取り次いだ。。。そんな光景が目に浮かびます。
この光景と「造都と征夷を宿命づけられた帝王」とは、どうしても結びつきません。
臭い奏紙から、虎尾さんは「官人たちに天皇への畏怖や過剰な君臣関係がない」事を読み取っています。
臭い紙を生産する朝廷お抱えの紙鋤き工人、その紙を使って上申書を作成する実務官人、作成された臭う上申文書をぬけぬけとと天皇に届ける高級官僚。
そして、自らの言葉は内侍を経由して伝えることになっているとはいえ、直接少納言に「臭いんだよ!」といえなかった天皇。
どうでしょうか、とても古代の日本が専制国家だとは言えない気がします。
本書を読んで、まさに目が開かれた思いです。
そんな本書をぜひ皆さんに読んでいただきたいです。
今回は、本書で引用されていた史料で、かねうりきちじが一番衝撃を受けたものを紹介したいと思います。
それは何かというと、天皇の決裁を得るために上申した文書が臭かったということを伝えるもので、『類聚符宣抄』ものに収められているものです。
まずは原文を。
応勘内案事
内侍宣。有勅。進奏之紙、臰悪者多。自今以後、簡清好者、応充奏紙。
若不改正、執奏少納言必罪之者。当番案主、宜知意勘之、不可遺忘。
延暦九年五月十四日
かねうりきちじの読み下しはこんな感じ。
内案を勘ずべき事
内侍宣す。「勅あり。『進奏の紙、臰悪なるもの多し。今より以後は、
清好なるものを簡(えら)び、奏紙に充てるべし。もし改正せざれば
執奏の少納言、必ずこれを罪す』といえり。当番の案主は意を知り、
これを勘ずべし。遺忘すべからず。
延暦九年五月十四日
この時の天皇は桓武。
都を平安京に移し、東北地方に兵を派遣したことで知られています。
伝記としては、以下の3書が入手しやすいと思いますが、最新の西本昌弘さんの日本史リブレット人シリーズのものでは、副題が「造都と征夷を宿命づけられた帝王」とあるように、古代の天皇の中では専制君主の印象が強い方です。
桓武天皇―造都と征夷を宿命づけられた帝王 (日本史リブレット人)
桓武天皇 (人物叢書)
桓武天皇:当年の費えといえども後世の頼り (ミネルヴァ日本評伝選)
その桓武の言葉が、二重括弧『 』内です。虎尾さんの現代語訳では「私のもとに進められる奏紙には、悪臭を放つものが多い。今後は臭わないきれいな紙だけを選んで奏紙とせよ。もし、これを改めないなら、奏上を行う少納言を処罰する」とされています(p.108)。
首都移転こそしていませんが、1400億円といわれる宮殿を作り(詳しくはこちら)、ウクライナへの侵攻を命じたロシアのプーチン大統領に、官僚が臭い上申文書を提出するでしょうか。。。。
ま、現代と古代とでは感覚が違うとは言え、次のことも気になります。
それは、「臭い紙」を取り次ぐ少納言に直接文句を言っているのではなく、内侍が取り次いでいるのです。
内侍とは、天皇の側仕えの女官で、天皇への奏上や、その逆に天皇から発せられた言葉を取り次ぐことなどを仕事としています。
たぶん桓武は一人になった時に、持ち込まれた上申書を1枚1枚めくりながら「臭いなぁ。決裁書はきれいな紙にしてくれないかなぁ」とつぶやいたのではないでしょうか。
そしてそのつぶやきを内侍が聞いて取り次いだ。。。そんな光景が目に浮かびます。
この光景と「造都と征夷を宿命づけられた帝王」とは、どうしても結びつきません。
臭い奏紙から、虎尾さんは「官人たちに天皇への畏怖や過剰な君臣関係がない」事を読み取っています。
臭い紙を生産する朝廷お抱えの紙鋤き工人、その紙を使って上申書を作成する実務官人、作成された臭う上申文書をぬけぬけとと天皇に届ける高級官僚。
そして、自らの言葉は内侍を経由して伝えることになっているとはいえ、直接少納言に「臭いんだよ!」といえなかった天皇。
どうでしょうか、とても古代の日本が専制国家だとは言えない気がします。
本書を読んで、まさに目が開かれた思いです。
そんな本書をぜひ皆さんに読んでいただきたいです。
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