里帰りしたあと、しばらく心は故郷に残したままになる。いつものことだ。そして故郷の景色や空気を懐かしむ。
この時期になると福井県若狭では東大寺に清水を送る伝統神事「お水送り」が行われる。その清水が何日もかかって古都奈良に届くと東大寺二月堂の「お水取り」の行事となる。
百キロ以上、遠く離れた奈良東大寺まで地下深くで水脈がつながっているという物語を子供の頃に初めて教えられたとき度肝を抜かれた思いがしたものだ。古代人の想像力と壮大なロマンに圧倒されたからだ。
だから郷里武生で暮らしていた時は、お水送りの伝統神事のニュースに春の訪れを感じたものだ。若狭のお水送りが昨晩行われたというニュースに胸が躍り、春の足音が聴こえた。