【日本固有種、学名の中に「ケイスケ」の名前!】
キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。近畿、中国、四国、九州の林床や渓流沿いなどに自生する。まだ雪の残る寒さの厳しい時期に咲く早春植物で、1本の茎に1輪の花を付けることから「雪割一華(一花とも)」という優美な名をもらった。花は径3cmほど。花弁のように見えるのは萼片で、10~20枚から成る。
ユキワリイチゲは秋に芽を出して葉を広げていく。厳しい中で一冬を乗り越えた根元の根出葉は傷ついてボロボロ。それだけに試練に耐えて春を迎えた花は可憐な中にもどこか誇らしげ。花は日が差すと開き、陰ると閉じる。同じ仲間にシュウメイギク、ニリンソウ、キクザキイチゲ、ハクサンイチゲなど。ユキワリイチゲには淡紫色の花から「ルリ(瑠璃)イチゲ」という別名もある。ただ関東など東日本に分布するキクザキイチゲも「ルリイチゲ」や「ルリイチゲソウ」と呼ばれており少々紛らわしい。
日本固有種のユキワリイチゲには「Anemone keiskeana(アネモネ・ケイスケアナ)」という学名が付けられている。これは江戸末期から明治時代にかけて植物学の分野でも活躍した理学博士の伊藤圭介(1803~1901)にちなむ。伊藤は25歳の時、シーボルトと出会ったのを機に長崎・出島で勉学、シーボルトから贈られたカール・ツンベルク著『フローラ・ヤポニカ(日本植物誌)』を基に『泰西本草名疏(たいせいほんぞうめいそ)』(1829年)を著した。
日本で「おしべ」や「めしべ」「花粉」といった言葉が使われたのはこの本が最初といわれる。伊藤は他にも『日本植物図説』などを残した。そうした業績を讃えシーボルトらによって「ケイスケ」と命名された学名の植物はユキワリイチゲのほかにも多い。スズラン、アシタバ、イワナンテン、シモバシラ、マルバスミレ……。伊藤の出身地、名古屋市にある東山動植物園の植物会館内には「伊藤圭介記念室」が設けられている。