【絶滅危惧種、万葉集には「姫由理」として1首】
ユリ科ユリ属の植物は世界に約100種が分布し、そのうち15種ほどが日本に自生する。ヒメユリは花を上向きに付けるスカシユリ系の1種で、6~7月頃、直立した細い茎の先に鮮やかな朱赤色の6弁花を数輪付ける。草丈は30~80cm、花径は5~8cm。ヤマユリやオニユリ、テッポウユリなどに比べると全体的に小ぶりで、可憐な花姿から姫百合と名付けられた。
主な分布域は本州の近畿以西と四国、九州で、明るい山地や草原に自生する。別名に「緋百合(ヒユリ)」や「光草(ヒカリグサ)」など。環境省は近い将来絶滅の危険性が高いとして絶滅危惧ⅠB 類に分類、都道府県レベルでも愛知県では絶滅、多くの西日本の府県でも絶滅危惧種に指定されている。黄色の花を付けるものもあり「黄姫百合」と呼ばれている。名前がよく似た「キバナノヒメユリ(黄花野姫百合)」はユリの仲間では花が最も小さいノヒメユリ(別名スゲユリ=菅百合)の変種で沖縄に自生する。
万葉集にはユリを詠んだ歌が11首ある。その万葉表記は大半が由理・由利・左由里など。ユリの種類の特定は難しく、ササユリまたはヤマユリではないかと推測されている。ただ「姫由理」と具体名を挙げて詠んだ歌が1首ある。「夏の野の繁みに咲けるひめゆりの知らえぬ恋は苦しきもの」(巻8-1500)。大伴坂上郎女が苦しい胸の内を野にひっそり咲くヒメユリにたとえて詠んだ(ただ、これもササユリではないかとする説も)。ヒメユリというと戦時中の「ひめゆり学徒隊」や沖縄県糸満市にある「ひめゆりの塔」を思い浮かべるかもしれない。その「ひめゆり」は学徒隊の母校2校の交友誌「乙姫」と「白百合」を組み合わせたもので、ヒメユリとは関係がない。