【実業家が母の菩提寺として瀬戸内海の生口島に建立】
平等院鳳凰堂、日光東照宮の陽明門、室生寺の五重塔、石山寺の多宝塔……。耕三寺(広島県尾道市瀬戸田町)の境内には、これら全国各地の有名寺院の歴史的建造物をそっくり模した堂塔が所狭しと林立する。本堂裏手の小高い場所には大理石約3000トンを使ったという真っ白な石の庭園。そこには不思議な異空間が広がっていた。
耕三寺は本州側から向かうと、しまなみ海道の生口島北インターを降りて車で約10分の距離、「平山郁夫美術館」のすぐそばにある。浄土真宗本願寺派の寺院だが、その歴史はそれほど古くはない。大正~昭和時代に大阪で特殊鋼管の製造会社を興して財を成した金本福松氏(のちに耕三寺耕三、1891~1970)が母の菩提を弔うため1935年に得度し、翌年から堂宇の建設に着手した。
鮮やかな色彩の山門をくぐり、右手の受付で入場料金(大人1400円、65歳以上のシニア1200円)を払って石段を登る。高くそびえる五重塔は〝女人高野〟奈良・室生寺の国宝五重塔を模したという。さらに階段を上ると孝養門。日光東照宮の陽明門をそっくりそのまま再現したもので、その精緻な造りから耕三寺は〝西日光〟とも呼ばれる。本堂の左手には多宝塔、右手には八角円堂や救世観音大尊像(高さ約15m)が立つ。本堂は京都・宇治の平等院鳳凰堂、多宝塔は大津・石山寺の塔をモデルにしている。堂塔など15棟は国登録有形文化財。境内ではハスの花もちょうど見頃を迎えていた(8月18日まで「夏蓮祭」開催中)。
本堂の裏手に広がる大理石の庭園は「未来心の丘」と名付けられている。広島県世羅町出身の彫刻家杭谷一東氏(くえたにいっとう、1942~)がイタリア中西部のトスカーナ州カッラーラ産の大理石約3000トンを使い12年の歳月をかけて築き上げた。開園は2000年秋。広さ約5000㎡の丘には大小様々なモニュメントが配置されており、最も高い所に立つ「光明の塔」からは眼下に瀬戸田の町並みや瀬戸内の海が広がる。インスタ映えスポットとして若者たちの人気を集めているそうだ。