く~にゃん雑記帳

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<奈良市写真美術館> 入江泰吉×工藤利三郎「斑鳩展」が開幕

2021年07月11日 | 美術

【同時に越沼玲子と辻田美穂子の「新鋭展」も】

 入江泰吉記念奈良市写真美術館で7月10日「入江泰吉×工藤利三郎 斑鳩展」が始まった。聖徳太子の没後1400年を記念した企画展の第2弾。奈良を拠点に全国各地の古美術写真を残した工藤利三郎(1848~1929)と、戦後法隆寺など斑鳩の堂塔や仏像、景観などを撮り続けた入江泰吉(1905~92)の写真の数々を「斑鳩」をキーワードに紹介する。同時に「新鋭展」として越沼玲子(あきこ)の「自然のなかで、息をする」と辻田美穂子の「カーチャへの旅」も開催。会期は8月22日まで。

 工藤利三郎は徳島出身で、東京在勤中に日本の古美術を取り巻く厳しい惨状を知ったのを機に文化財を写真に記録しようと写真術を習得し、1883年ごろ故郷で写真館を開業。その後奈良に転居し、93年に猿沢池の畔に古美術写真専門の「工藤精華堂」を開いた。撮った写真は北は中尊寺(岩手)から南は臼杵石仏群(大分)まで広範囲にわたり、1908年から19年かけて出版した『日本精華』全11巻には1065点の写真が掲載されている。奈良市写真美術館が所蔵する工藤のガラス原板1025点は2008年に国登録有形文化財に登録された。(写真は工藤利三郎「法隆寺中門」1893~1902年頃)

 展示中の工藤の写真は明治後期に撮影された法隆寺の五重塔や中門、夢殿、法輪寺の三重塔など15点。解体修理や再建の前の100年以上遡る姿を見ることができる。中には法隆寺の金堂内陣の仏像やその後に焼損した壁画の写真も。金堂の須弥壇には明治~大正時代、現在安置されている釈迦三尊像や薬師像、四天王像などのほか、玉虫厨子や普賢延命像、弥勒半跏像、聖観音立像なども所狭しと並べられていたそうだ。工藤の写真集『日本精華』も第1~第4輯が公開されている。

 新鋭展の越沼玲子は茨城出身で、2014年にコニカミノルタフォトプレミオ特別賞受賞。暗く静寂な森の写真からは木々の息遣いまで聞こえてきそうな気配が漂う。「自然の中では、昼は多くを教えられ、よく見えない夜や闇では、根源的なものを強く感じる」という。辻田美穂子は大阪出身で、2010年に初めて祖母の故郷サハリン(樺太)に渡航。以来、北海道を拠点にしてサハリンを撮り続けている。タイトル「カーチャへの旅」のカーチャは病院で働いていた祖母が日本に引き揚げる1948年までロシア人から呼ばれていたという愛称。

 62年ぶりに帰郷する祖母に付き添って渡った2010年。日本統治時代の遺構は少なく、祖母から話に聞いていたかつての面影はあまり見られなかった。「それでも祖母はその景色を愛おしそうに長い間見つめていた。祖母には恵須取(えすとる)の街が確かに見え、私には全く見えなかった。けれどもその視線の先をどうしても見たくて私の旅が始まった」。恵須取にはかつて王子製紙の工場があり、約4万人の日本人が暮らしていたという。3回目の訪問時に初めて日本出身の女性と知り合った。日本人は今ではこの女性と兄弟の3人だけになってしまったそうだ。

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