【裸姿の愛らしい人形や和紙の衣裳をまとった雛人形など60点】
人形作家として関西を中心に長く活躍した黒川和江さんの作品展が「なら工芸館」(奈良市阿字万字町)で始まった。「黒川和江 御所人形六十年の軌跡」展(2月26日まで)。黒川さんは20代後半から人形作りに没頭し、日本伝統工芸展などで受賞を重ねた。後に同展の鑑査委員や日本工芸会近畿支部人形部会長、奈良県美術展覧会審査員なども務め、伝統工芸の継承・発展に尽くしてきた。今展は奈良県下で開く初の個展。ところが残念なことに2022年10月に逝去されたということで、生前を偲ぶ回顧展となった。
黒川さんは1932年広島県生まれ。60年に京都の人形作家、面屋庄三氏(十三世面庄)に師事し、その後、人間国宝(重要無形文化財保持者)の桐塑人形師、林駒夫氏に入門して技を磨いた。1994年には第41回日本伝統工芸展で出品作『月光』が日本工芸会会長賞を受賞した。〝張抜胡粉(はりぬきごふん)〟という技法で横笛を手に月を見上げる裸童を表現した作品。当時の総評は「高い格調、形の単純化等が的確に表現され、冴え冴えとした仕上がりは見る者を共に月光の世界へ誘うような佳品」と絶賛している。
今展の展示作は愛らしい裸形や豪華な衣装をまとった人形など60点。御所人形は木彫の型の上に貝殻を砕いた純白の胡粉を厚く塗り重ねて成形する。頭が大きくて真っ白い肌色の幼児の裸姿のものが多い。子どもの健やかな成長への願いが込められているという。その名は江戸時代、宮廷や公家など高貴な人たちの間で愛玩されたことに由来するそうだ。
裸形の展示作品には一つひとつ『月の雫』『砂ずりの富士』『明日香の風』『雪舞い』などロマンチックなタイトルが付けられていた。『雛彩色 犬筥(いぬばこ)』は雌雄一対の犬を表現した箱型で、雛飾りとしても飾られることが多いという。『桐塑和紙貼 立ち雛』は桐の木粉にノリを混ぜた練り物で成形し、和紙を貼って仕上げた立ち姿の雛人形。赤と金色を基調とした和紙の煌びやかな輝きが美しい。
桐塑和紙貼の作品は他に『農婦』『舞妓』『十三詣り』なども。力士をかたどった4体の作品は『関取』と『相撲』の2つが和紙貼で、『初場所』と『闘志』の2つは和紙の代わりに布を使った桐塑布貼。『立ち児 童女・若宮・童子』と名付けられた作品3点はふくよかな表情と豪華な着物の衣装が目を引いた。