【受賞者や奈良在住作家の作品32点、人間国宝北村昭斎氏の遺作も】
なら工芸館(奈良市阿字万字町)で「日本伝統工芸近畿展in 奈良2024」が始まった。4月に京都市で開かれた第53回日本伝統工芸近畿展の入選作から、受賞作品や奈良市近隣在住作家の作品合わせて32点を展示している。6月2日まで。
近畿展では応募作品から2次の鑑査で201点が入選、その中から13点が受賞作品に選ばれた。「in 奈良」で展示中の受賞作は9点。日本工芸会支部長賞2点のうち甲斐幸太郎さんの木工作品「屋久杉と欅の蓋物」は2つの素材のコントラストと柔らかいフォルムが美しい。青江桂子さんの木芯桐塑布和紙貼り人形「悠久」は奈良の高松塚古墳に描かれた乙女をモチーフに制作したという。
奈良県知事賞を受賞した平谷悠律子さんの絣織着物は作品名が「光の丘」。イタリア⋅アッシジの丘にある教会と周りの家々の光景からヒントを得たそうだ。展示中の新人奨励賞3点のうち山本蓉子さんの乾漆螺鈿箱「春信(しゅんしん)」は漆黒の中に精細な螺鈿がきらめいて弧を描く。
螺鈿の重要無形文化財保持者(人間国宝)北村昭斎さんの木地螺鈿盆「陽春」も展示されている。白い椿の花6輪と蜜を求めて飛来した1匹のハナバチを螺鈿で表現した作品。北村さんは奈良市で制作に取り組んでいたが、昨年7月にご逝去、この作品が遺作となった。
奈良県内の作家の入選作品には陶芸が多くを占める。その中で武田朋子さん(天理市)の「白黒化粧大皿」、本多亜弥さん(同)の染付鉢「南天」、森田由利子さん(橿原市)の「線描幾何文花入」などが目を引いた。山本哲さん(生駒市)の螺鈿蒔絵匣(はこ)「夏衣」、木村美智子さん(奈良市)の木芯紙貼り人形「良弁杉」なども展示されている。
今回の「in 奈良」では伝統工芸近畿賞を受賞した浅井康宏さんの蒔絵螺鈿箱「太陽」が展示されていない。入賞13作品の中では最高賞ともいえ、京都での近畿展ではポスターなどでも”顔“として大きく取り上げられていた。浅井さんは昨年、作品が大英博物館に収蔵されるなど今注目を集める気鋭の漆芸作家。それだけに直接目にすることができず残念だった。その代わりというか、会場の一画では浅井さんのインタビュー動画が繰り返し流されていた。
実はこの作品、「in 奈良」のチラシには元々掲載されていなかった。一方、他の受賞12作品は写真入りで取り上げられていた。ところが、である。なんと、そのうち3つの作品も会場で見当たらなかったのだ。大阪府教育委員会賞受賞の田嶌紫雲さん、日本経済新聞社賞の中埜朗子さん、それに松下幸之助記念賞の松下洋介さんの作品。チラシ製作時点では、近畿賞以外の出展は大丈夫と踏んでいたのか。それにしてもどんな事情があったのだろうか?