ようやく忙しい睦月の行事を終えた天皇の浮気心がむくむくと立ち上ります。どうにかして
“容姿絶妙無比”
の衣通郎媛に逢いたくて仕方ありません。媛のいる藤原宮までこっそりとやってきます。それが天皇の八年の2月の事です。今度の御幸は上手に造ろったのでしょう皇后の知られないようにこっそりとです。それも夕方のことです。密かに、媛のいる屋形を尋ね、恋しい媛の様子を、物陰から、こっそりと見ておられたのです。
するとどうでしょう。あれほど、姉の皇后のために天皇に逢うなんて、とんでもない死んだ方がましだと、深く思っていた衣通郎媛ですが、この頃になると、どのような心境の変化があったのかは知らないのですが
“是夕衣通郎媛恋天皇<コノユウベ ソトホリノイラツメ スメラミコトヲ シタミマツリ”
天皇を恋、そうです、早くお逢いしたいものだと、「慕われていた」のです。そして、その時、密かに歌われた歌が
“和餓勢故蛾 勾倍枳予譬奈利 佐瑳蛾泥能 区茂能於虚奈比 虚予比斯流志毛”
<ワガセコガ クベキヨヒナリ ササガニノ クモノオコナヒ コヨヒシルシモ>です。
「私の夫である天皇が来そうな宵ですね。蜘蛛がしきりに巣を作っております事」
ぐらいの意味です。天皇が密かに媛の様子を隠れて見ていた、丁度、その時のことです。何というタイミングのいい時でしょうかね????
なお。この「区茂能於虚奈比」についての、わが国古来からの俗信で、「蜘蛛の振る舞い。行い」は、恋しい人が尋ねて来てくれるということの前触れだと信じられていました。そのことがこの歌に歌われているのです。念のために????