山内 圭のブログ(Kiyoshi Yamauchi's Blog)

英語教育、国際姉妹都市交流、ジョン・スタインベック、時事英語などの研究から趣味や日常の話題までいろいろと書き綴ります。

読書案内:アルベール:カミュ『ペスト』(新潮文庫)宮崎峯雄訳

2021-02-21 22:27:33 | 日記
新型コロナウイルス感染症の流行で再びベストセラーになったというこの書、僕も一応読んでみました。

これを購入したのが、今年度4月にほとんどの授業が遠隔授業となり、自宅で仕事をすることが多くなり、読書の時間が取れそうだと思ったから(実際は、遠隔授業の授業にかなりの時間が取られ、やっぱり読書の時間がたっぷり取れるということはなかったのですが)です。

この書が出版されたのは、1947年、舞台はアルジェリアのオランという町。

この書を読んでみようというもう一つの理由は、アルジェリアのスタインベック研究者からアルジェリアでのスタインベック国際学会(コロナが流行している現在、実施がどうなるか白紙のようですが)にも誘われていることでした。

この話は、架空の話を書いたもので、実際の疫病の流行について書いたものではありませんが、現在の新型コロナウイルス感染症が蔓延する状況とかなり似通った社会の様子が絵が描かれています。

いくつか気になった表現を引用しておきます。

・天災というものは人間の尺度とは一致しない、したがって天災は非現実的なもの、やがて過ぎ去る悪夢だと考えられる。ところが、天災は必ずしも過ぎ去らないし、悪夢から悪夢へ、人間のほうが過ぎ去って行くことになり…

・わが市民たちも人並以上に不心得だったわけではなく、謙虚な心構えを忘れていたというだけのことであって、自分たちにとって、すべてはまだ可能であると考えていたわけであるが、それはつまり天災は起りえないと見なすことであった。

・彼らは取り引きを行うことをつづけ、旅行の準備をしたり、意見をいだいたりしていた。ペストという、未来も、移動も、議論も封じてしまうものなど、どうして考えられたであろうか。彼らは自ら自由であると信じていたし、しかも、天災というものがあるかぎり、何びとも決して自由ではありえないのである。

・この病を終息させるためには、もしそれが自然に終息しないとしたら、はっきり法律によって規定された重大な予防措置を適用しなければならぬ。

・商業もまたペストで死んだ

・彼らの最初の反応は、たとえば、施政当局に罪を着せることであった。

・あるカフェが「純良な酒は黴菌を殺す」というビラを掲げたので、アルコールは伝染病を予防するという、そうでなくても公衆にとって自然な考え方が、一般の意見のなかで強まってきた。

・彼の住んでいる界隈の大きな食料品屋が、うんと高い値で売るつもりで食料品をストックしていて

・ペストにもいい効能がある。人の眼を開かせ、考えざるをえなくさせる

なかなか人間社会の鋭い洞察が描かれています、あるいは、人間は何年たっても変わらないんだということもよくわかります。

カミュは、この小説の出版後、約10年でノーベル文学賞を受賞しました。





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