【前回の続きです。】
チョコレートハウスを出て、裏通りの風車前に停めておいた自転車を取りに戻った。
「さて…後1時間ちょいしかないけど、どっか行きたいトコとか有る?」
「食いもん!!食いもん売ってる店に行きてェ!!!」
ハンドル握って振り返り、ルフィは即答だ。
その如何にも「らしい」要望に、思わず微笑してしまう。
「OK!じゃ、ナビすっから、なるたけ数多く廻れる様、頑張って漕いでよ!運転手!!」
「ラジャー!!!」
ペダルを漕ぎ漕ぎ走らせる、走行距離が伸びてく毎に加速して行く。
緑の葉に赤い実を付けた、天然のクリスマス・ツリーの様な並木を過ぎ、美しい花々と女神の像で飾られた噴水の在る広場を縦断してく。
クリスタル橋を渡り、日中でも閑静な区画、ミュージアムスタッドへ。
昨日行ったオルゴール博物館、『オルゴールファンタジア』は、今日は休館だった。
昨日行っといて良かった…まァ知ってたからこそ、昨日の内に行っといたんだけどね。
「なァーー、昨日行ったオルゴールの博物館前に在るこの銅像って…誰の像だ??」
銅像を前にして一旦停止、振り返ってルフィが尋ねて来る。
オルゴールファンタジア前の一角は、猫の額程の狭さではあるけど広場になってい、中世の格好した1体の銅像が、小さな花壇に取巻かれる様立たされていた。
「さーー…私も詳しくは知らないけど、この建物ってオランダのユトレヒト大学講堂をモデルにしてんだって。だからそこの創立者とか、或いは初代学校長の像とかじゃないかしらね?」
「へー!これってオランダの建物をモデルにして造ったのかー!」
「ハウステンボス場内に在る建物は全て、オランダに実在する歴史的建造物をモデルに、なるたけ忠実に再現してあるって…来る前に説明しといたじゃないのさ。」
「へー!全部にモデル有んのかー!そうする意味は解んねーけど、すげーなー!」
バレエシアター『クリスタル・ドリーム』、『柿右衛門ギャラリー』、ストリートオルガンの工房『ピーレメント・ボウ』、鐘の博物館『カロヨン・シンフォニカ』、シーボルトが長崎に居た当時の資料を展示する『シーボルト出島蘭館』…その名の通りミュージアムの建ち並んだ区画を抜け、バス停の在る橋を渡って、再び場内1番のショッピング街、ビネンスタッドに入ってった。
街に入って先ず目に付くのは、見目麗しいオフホワイトのゴシック建築『スタッドハウス』と、その横で高く聳え立つクリスマス・ツリー。
場内のほぼ中心、昼のイベント会場にもされるこのスタッドハウス周辺は、さっきのミュージアムスタッドに在る広場とは段違いに広々としてて、正しく『広場』と呼ぶに相応しく思えた。
「…って事は、あの教会のモデルになった建物も、ちゃんとオランダに在るんだな?」
「そうよ。今では専ら結婚式を挙げる為の教会として使用されてるけど、元はゴーダの市役所『スタッドハウス』をモデルにして建てたんだって。」
館内は硝子の美術館『ギヤマン・ミュージアム』にもなってるスタッドハウス。
正面の鮮やかな花時計前では、今日も観光客が入替り立替り、記念撮影して行く。
…私達も来た最初の日から、写真を撮ったもんなァ。
3人の真ん中に写った人間は早死にするジンクスが有るって言ったら、ゾロが真ん中に立たされて。
ゾロ、凄く嫌そうな顔してたっけ……もう随分前に有った事の様な気がする。
「ナミ!ナミ!あそこ見ろ!!でっけーくつが置いてあっぞ!!」
花時計を見詰て懐かしく思い出してた所で、自転車が急発進する。
びっくりして正面を向き、ルフィの指す方向を見れば、確かにそこには、巨人用かと思える程にビッグサイズな黄色い靴が、ドカンと店先に置かれていた。
だけじゃなく、店の周り中カラフルに塗られた木靴がアチコチ並べられてるし、壁面にまでゴチャゴチャ吊るされてる。
「すっげーよなー!!こんなでっけーくつ、誰がはけんだろうなー!?」
「誰も履けやしないわよ、馬ァ鹿!唯のディスプレーだってば!此処『ホーランドハウス』は、木靴なんかのオランダ民芸品を売ってる店だから、そのシンボルとして置かれてるんでしょ。」
「へー、そんな店が在ったのかァ。」
「何言ってんの!最初の日に軽ぅく観て行ったじゃない!」
「へ?観たっけか??…う~~ん…いまいち覚えてねェなァ~~。」
「……まァ…あの時のあんたは、この直ぐ横の回転木馬に心奪われてたからね。」
場内の中心ビネンスタッドは、数多くの土産店が建ち並び構成されている。
中でも最も多彩な店が並ぶ専門店街は、小さな子供用プレイランド『キッズ・ファクトリー』、テント市場『ワールド・バザール』、そしてこの回転木馬『カルーセル』を、三角形に取り囲む風になっていた。
「そーそー!この回転木馬!良いよな~~~、楽しそうだ♪」
「楽しそうったって…小っさい子供用じゃないのさ。」
在り来りの、白馬や馬車に乗ってクルクルと回る回転木馬は、未だ昼前という事からか、小さい子供を連れた家族が数組のみ乗っていて、はっきし言ってガラガラだった。
「ガキ用でも楽しけりゃ良いじゃねェか!これ、パスポートで乗れんだろ?乗ろうぜェ♪」
「い・や!!乗りたきゃ1人で乗んなさいよ!!何なら写真撮ってビビに即写メしたげるわ!!」
「いーからいーから♪♪恥の旅はかき捨てっつうじゃんか♪♪」
「それ言うなら『旅の恥はかき捨て』よ!!兎に角!!い~~や~~~!!!!」
嫌だっつってるのに、ニコニコ笑顔で無理矢理抱えられて乗せられた。
年甲斐も無く、派手な鞍付けた白馬の上に、2人並んで跨って……前に乗ってた5歳位の女の子の、好奇な視線が痛かった。
ノスタルジックなオルガンのメロディーに合せて、馬車は上下に揺れながらクルクル回る。
心棒に摑まって周囲を見渡す…景色が流れて、回って行く。
ゆっくり、ゆっくり、風が心地良い。
結構楽しい…と言うより、懐かしかった。
ルフィと…ゾロと…3人でよく乗って…遊んだっけ。
前の女の子に、幼い頃の自分が重なって見えた。
その右には幼い頃のルフィ、そして左にはゾロ。
ああそうだ、近所の遊園地に、家族に連れられて、3人で遊びに行って……そしたら、必ず乗ってたんだ。
白馬の数が少なくて、けど3人共それに乗りたがって…1頭しか残ってなかった白馬に乗るのを…どうやって決めたんだっけ?
最初はジャンケンだったか……その前に、ゾロが降りたんだ。
そんで私とルフィでジャンケンして…私が勝って。
けどルフィは諦め付かなくて…2人摑み合いの喧嘩になっちゃって。
そしたらゾロが……ルフィ殴って止めたんだ。
「負けたんだろ?じゃあ、お前が降りろ」って――
……随分、私は、2人に頼って来たんだと思う。
ルフィに引張られて、後ろからゾロが付いて来てくれて。
春が来て、2人が居なくなったら……私は、どうするんだろう?
約3分程回転し、木馬はゆっくりと動きを停止した。
ルフィと2人降りて、ホーランドハウス前に停めておいた自転車にまた跨る。
「なつかしかったなーー♪俺とゾロとナミとで、よく乗って遊んだよな♪」
「……そうだね。」
「もっと長く乗ってたかったよなァ~~~、1時間くれェよォ~~~。」
「そんなに長く乗ってたら、目が回って倒れちゃうわよ。…それに、1回の時間が長いと、後の子供がその分待たされて、可哀想じゃない。」
「覚えてるか?回転木馬の1頭しか残ってなかった白馬取り合って、お前とゾロ、よくケンカしてたよなァ~!」
「違うわよ!!!あんたと私が取り合って喧嘩してたんでしょが!!!記憶を改竄すな!!!」
「んあ?………そうだったっけか??」
「あんた達、どぉぉも私とゾロは喧嘩ばっかしてるってイメージで見てるみたいだけど…実際には喧嘩まで発展するのは稀なんだからね!!」
私とゾロは、考え方が丁度正反対なせいか、よく言合いはする。
だけどお互い、執念深い性分じゃないから、あっさりと終らせて、後に遺恨も残さない。
第一、大抵の場合、喧嘩になる前に、ゾロが引いてくれた。
「事実、この旅行中、ずっとしてるじゃねェか。」
「だからむしろ今の状態のが珍しいんだってば!!!……大体ねー!あんたとゾロだってよく喧嘩してたでしょォ!?それこそ殴り合いの大喧嘩まで発展してさ!!」
「俺とゾロのケンカと、ゾロとナミとのケンカは違う!俺とゾロがケンカすんのは、どっちが上か決める為にしてんだ!けどゾロとナミは……何でケンカしてんだ?」
いきなり真剣な眼差しを向けられ、少し怯んだ。
「それは……だから……考え方の違いからというか……」
何故喧嘩すんのか?――改めて聞かれると、自分でも理由が解らず、戸惑ってしまう。
「ガキの頃から不思議だった。でも今は俺、何となく解る。」
「……解るって…?私達が喧嘩する理由が…?」
「気付くと変っちまうかもしんねェから、言ってやんねェけどな。」
にぃっっと音が聞えて来る様な、普段通りの能天気な笑み。
けれども黒目勝ちの瞳は、怖い位に真剣で。
前に向き直って、ゆっくりペダルを漕ぎ出す。
「……気付く?変る?誰が??何が??………全然解んない。あんた、今日おかしいわよ、ルフィ!」
「そうか~~~?俺はいつもと変んねェつもりだけどなァ~~~。」
「おかしい!!!すっごくおかしいわよ!!ずぅっと!!絶対!!」
背後から怒鳴っても馬耳東風、笑いながら通りを直進してく。
…駄目だこりゃ…こいつがこうゆう態度になったら、蹴っても殴っても相手してくんない。
解せなくはあったけど、追求を諦め、黙って放っとく事にした。
中世のオランダの街並みが続いてる様な『ルーベンス通り』。
並んでるお店の殆どは専門店、キャラグッズに香水にチューリップ染の布製品にマグカップに硝子製品と…バラエティ溢れるお土産が並んでて、本当だったらアチコチゆっくり観て行きたかった。
けどルフィは止らない、回転木馬を横切り、ワールド・バザールも横切り、ひたすら直進してく。
前を見て、何処を目指してるのか解った。
2階の窓から人形が顔を出して、鐘を鳴らしてるお店。
店の前では店員さんが1人、道行く人に、提げた篭から何かを出して配ってる。
「美味そうなにおいが向うからしてる!!なァナミ!!あれお菓子だろ!?寄ってみようぜ!!」
………まったく、鼻が利くんだから。
「『タンテ・アニー』、アニーおばさんの美味しいチーズケーキを売ってる店だって!外の県にまで名が知られてる店よ!…良いわ!私も丁度此処でお土産買って来る様、頼まれてたから!!」
店の前の建物、キッズ・ファクトリーの壁に寄せる様、自転車を停める。
降りて早速、ルフィは店員さんから、配ってた物を貰いに行った。
若い女性の店員さんが配っていたのは、チーズケーキを賽の目状に細かく切った物だった。
一口で食べると、ゴーダチーズをしっかりと焼き込んだ生地の中に、オレンジの風味が効いてて、とっても美味しく感じられた。
修学旅行生の口コミで、全国に人気が広がって行ったってのも、理解出来るわね。
「うんめェェェ~~~~!!!すんげェェうんめェェェ~~~~!!!――もっともらえねェかな?」
「止めて、見っとも無いから。」
真顔で相談して来るルフィにきっぱりと告げる。
「早く店入ろうぜ!!他にもししょくさせてもらえっかもしんねェ!!」
……まったくこいつは……悩みが無くてつくづく羨ましいというか……。
「……あのさァ……ルフィは…ゾロが一緒でなくて、寂しくない訳…?」
店に入り掛けてたルフィの足が止る。
振り向いた顔には、「?」が幾つも浮んでた。
いきなり何言い出すんだとばかりに首を傾げてる。
「や、ちっとも!…どうせすぐ、昼になったら会うんだし。」
「卒業したら?…春が来て、別れ別れになっちゃっても?」
「そんでも、2度と会えなくなるワケじゃねェだろ?」
――2度と会えなくなるかもしんないじゃないっっ。
「あんたそれでも親友かっっ!!?」
「ナミは、さびしいのか?」
「…………寂しくなんか、ないわよっっ。」
「………ふーーん……。」
暫し2人、無言で顔を見合わせてた。
けど直ぐにルフィは、くるりと180°向きを変えて、店ん中に駆け込んでった…。
……ウソップとサンジ君まで離れて行かなくて、心から良かったと思う。
2人まで離れて行っちゃってたら……私はきっと、泣き出してただろうから。
【その34に続】
写真の説明~、ストリートオルガン工房『ピーレメント・ボウ』の前に置かれた、アンティークなストリートオルガン。
日に何度か演奏して観せてくれたりする。
観られたらラッキーv
チョコレートハウスを出て、裏通りの風車前に停めておいた自転車を取りに戻った。
「さて…後1時間ちょいしかないけど、どっか行きたいトコとか有る?」
「食いもん!!食いもん売ってる店に行きてェ!!!」
ハンドル握って振り返り、ルフィは即答だ。
その如何にも「らしい」要望に、思わず微笑してしまう。
「OK!じゃ、ナビすっから、なるたけ数多く廻れる様、頑張って漕いでよ!運転手!!」
「ラジャー!!!」
ペダルを漕ぎ漕ぎ走らせる、走行距離が伸びてく毎に加速して行く。
緑の葉に赤い実を付けた、天然のクリスマス・ツリーの様な並木を過ぎ、美しい花々と女神の像で飾られた噴水の在る広場を縦断してく。
クリスタル橋を渡り、日中でも閑静な区画、ミュージアムスタッドへ。
昨日行ったオルゴール博物館、『オルゴールファンタジア』は、今日は休館だった。
昨日行っといて良かった…まァ知ってたからこそ、昨日の内に行っといたんだけどね。
「なァーー、昨日行ったオルゴールの博物館前に在るこの銅像って…誰の像だ??」
銅像を前にして一旦停止、振り返ってルフィが尋ねて来る。
オルゴールファンタジア前の一角は、猫の額程の狭さではあるけど広場になってい、中世の格好した1体の銅像が、小さな花壇に取巻かれる様立たされていた。
「さーー…私も詳しくは知らないけど、この建物ってオランダのユトレヒト大学講堂をモデルにしてんだって。だからそこの創立者とか、或いは初代学校長の像とかじゃないかしらね?」
「へー!これってオランダの建物をモデルにして造ったのかー!」
「ハウステンボス場内に在る建物は全て、オランダに実在する歴史的建造物をモデルに、なるたけ忠実に再現してあるって…来る前に説明しといたじゃないのさ。」
「へー!全部にモデル有んのかー!そうする意味は解んねーけど、すげーなー!」
バレエシアター『クリスタル・ドリーム』、『柿右衛門ギャラリー』、ストリートオルガンの工房『ピーレメント・ボウ』、鐘の博物館『カロヨン・シンフォニカ』、シーボルトが長崎に居た当時の資料を展示する『シーボルト出島蘭館』…その名の通りミュージアムの建ち並んだ区画を抜け、バス停の在る橋を渡って、再び場内1番のショッピング街、ビネンスタッドに入ってった。
街に入って先ず目に付くのは、見目麗しいオフホワイトのゴシック建築『スタッドハウス』と、その横で高く聳え立つクリスマス・ツリー。
場内のほぼ中心、昼のイベント会場にもされるこのスタッドハウス周辺は、さっきのミュージアムスタッドに在る広場とは段違いに広々としてて、正しく『広場』と呼ぶに相応しく思えた。
「…って事は、あの教会のモデルになった建物も、ちゃんとオランダに在るんだな?」
「そうよ。今では専ら結婚式を挙げる為の教会として使用されてるけど、元はゴーダの市役所『スタッドハウス』をモデルにして建てたんだって。」
館内は硝子の美術館『ギヤマン・ミュージアム』にもなってるスタッドハウス。
正面の鮮やかな花時計前では、今日も観光客が入替り立替り、記念撮影して行く。
…私達も来た最初の日から、写真を撮ったもんなァ。
3人の真ん中に写った人間は早死にするジンクスが有るって言ったら、ゾロが真ん中に立たされて。
ゾロ、凄く嫌そうな顔してたっけ……もう随分前に有った事の様な気がする。
「ナミ!ナミ!あそこ見ろ!!でっけーくつが置いてあっぞ!!」
花時計を見詰て懐かしく思い出してた所で、自転車が急発進する。
びっくりして正面を向き、ルフィの指す方向を見れば、確かにそこには、巨人用かと思える程にビッグサイズな黄色い靴が、ドカンと店先に置かれていた。
だけじゃなく、店の周り中カラフルに塗られた木靴がアチコチ並べられてるし、壁面にまでゴチャゴチャ吊るされてる。
「すっげーよなー!!こんなでっけーくつ、誰がはけんだろうなー!?」
「誰も履けやしないわよ、馬ァ鹿!唯のディスプレーだってば!此処『ホーランドハウス』は、木靴なんかのオランダ民芸品を売ってる店だから、そのシンボルとして置かれてるんでしょ。」
「へー、そんな店が在ったのかァ。」
「何言ってんの!最初の日に軽ぅく観て行ったじゃない!」
「へ?観たっけか??…う~~ん…いまいち覚えてねェなァ~~。」
「……まァ…あの時のあんたは、この直ぐ横の回転木馬に心奪われてたからね。」
場内の中心ビネンスタッドは、数多くの土産店が建ち並び構成されている。
中でも最も多彩な店が並ぶ専門店街は、小さな子供用プレイランド『キッズ・ファクトリー』、テント市場『ワールド・バザール』、そしてこの回転木馬『カルーセル』を、三角形に取り囲む風になっていた。
「そーそー!この回転木馬!良いよな~~~、楽しそうだ♪」
「楽しそうったって…小っさい子供用じゃないのさ。」
在り来りの、白馬や馬車に乗ってクルクルと回る回転木馬は、未だ昼前という事からか、小さい子供を連れた家族が数組のみ乗っていて、はっきし言ってガラガラだった。
「ガキ用でも楽しけりゃ良いじゃねェか!これ、パスポートで乗れんだろ?乗ろうぜェ♪」
「い・や!!乗りたきゃ1人で乗んなさいよ!!何なら写真撮ってビビに即写メしたげるわ!!」
「いーからいーから♪♪恥の旅はかき捨てっつうじゃんか♪♪」
「それ言うなら『旅の恥はかき捨て』よ!!兎に角!!い~~や~~~!!!!」
嫌だっつってるのに、ニコニコ笑顔で無理矢理抱えられて乗せられた。
年甲斐も無く、派手な鞍付けた白馬の上に、2人並んで跨って……前に乗ってた5歳位の女の子の、好奇な視線が痛かった。
ノスタルジックなオルガンのメロディーに合せて、馬車は上下に揺れながらクルクル回る。
心棒に摑まって周囲を見渡す…景色が流れて、回って行く。
ゆっくり、ゆっくり、風が心地良い。
結構楽しい…と言うより、懐かしかった。
ルフィと…ゾロと…3人でよく乗って…遊んだっけ。
前の女の子に、幼い頃の自分が重なって見えた。
その右には幼い頃のルフィ、そして左にはゾロ。
ああそうだ、近所の遊園地に、家族に連れられて、3人で遊びに行って……そしたら、必ず乗ってたんだ。
白馬の数が少なくて、けど3人共それに乗りたがって…1頭しか残ってなかった白馬に乗るのを…どうやって決めたんだっけ?
最初はジャンケンだったか……その前に、ゾロが降りたんだ。
そんで私とルフィでジャンケンして…私が勝って。
けどルフィは諦め付かなくて…2人摑み合いの喧嘩になっちゃって。
そしたらゾロが……ルフィ殴って止めたんだ。
「負けたんだろ?じゃあ、お前が降りろ」って――
……随分、私は、2人に頼って来たんだと思う。
ルフィに引張られて、後ろからゾロが付いて来てくれて。
春が来て、2人が居なくなったら……私は、どうするんだろう?
約3分程回転し、木馬はゆっくりと動きを停止した。
ルフィと2人降りて、ホーランドハウス前に停めておいた自転車にまた跨る。
「なつかしかったなーー♪俺とゾロとナミとで、よく乗って遊んだよな♪」
「……そうだね。」
「もっと長く乗ってたかったよなァ~~~、1時間くれェよォ~~~。」
「そんなに長く乗ってたら、目が回って倒れちゃうわよ。…それに、1回の時間が長いと、後の子供がその分待たされて、可哀想じゃない。」
「覚えてるか?回転木馬の1頭しか残ってなかった白馬取り合って、お前とゾロ、よくケンカしてたよなァ~!」
「違うわよ!!!あんたと私が取り合って喧嘩してたんでしょが!!!記憶を改竄すな!!!」
「んあ?………そうだったっけか??」
「あんた達、どぉぉも私とゾロは喧嘩ばっかしてるってイメージで見てるみたいだけど…実際には喧嘩まで発展するのは稀なんだからね!!」
私とゾロは、考え方が丁度正反対なせいか、よく言合いはする。
だけどお互い、執念深い性分じゃないから、あっさりと終らせて、後に遺恨も残さない。
第一、大抵の場合、喧嘩になる前に、ゾロが引いてくれた。
「事実、この旅行中、ずっとしてるじゃねェか。」
「だからむしろ今の状態のが珍しいんだってば!!!……大体ねー!あんたとゾロだってよく喧嘩してたでしょォ!?それこそ殴り合いの大喧嘩まで発展してさ!!」
「俺とゾロのケンカと、ゾロとナミとのケンカは違う!俺とゾロがケンカすんのは、どっちが上か決める為にしてんだ!けどゾロとナミは……何でケンカしてんだ?」
いきなり真剣な眼差しを向けられ、少し怯んだ。
「それは……だから……考え方の違いからというか……」
何故喧嘩すんのか?――改めて聞かれると、自分でも理由が解らず、戸惑ってしまう。
「ガキの頃から不思議だった。でも今は俺、何となく解る。」
「……解るって…?私達が喧嘩する理由が…?」
「気付くと変っちまうかもしんねェから、言ってやんねェけどな。」
にぃっっと音が聞えて来る様な、普段通りの能天気な笑み。
けれども黒目勝ちの瞳は、怖い位に真剣で。
前に向き直って、ゆっくりペダルを漕ぎ出す。
「……気付く?変る?誰が??何が??………全然解んない。あんた、今日おかしいわよ、ルフィ!」
「そうか~~~?俺はいつもと変んねェつもりだけどなァ~~~。」
「おかしい!!!すっごくおかしいわよ!!ずぅっと!!絶対!!」
背後から怒鳴っても馬耳東風、笑いながら通りを直進してく。
…駄目だこりゃ…こいつがこうゆう態度になったら、蹴っても殴っても相手してくんない。
解せなくはあったけど、追求を諦め、黙って放っとく事にした。
中世のオランダの街並みが続いてる様な『ルーベンス通り』。
並んでるお店の殆どは専門店、キャラグッズに香水にチューリップ染の布製品にマグカップに硝子製品と…バラエティ溢れるお土産が並んでて、本当だったらアチコチゆっくり観て行きたかった。
けどルフィは止らない、回転木馬を横切り、ワールド・バザールも横切り、ひたすら直進してく。
前を見て、何処を目指してるのか解った。
2階の窓から人形が顔を出して、鐘を鳴らしてるお店。
店の前では店員さんが1人、道行く人に、提げた篭から何かを出して配ってる。
「美味そうなにおいが向うからしてる!!なァナミ!!あれお菓子だろ!?寄ってみようぜ!!」
………まったく、鼻が利くんだから。
「『タンテ・アニー』、アニーおばさんの美味しいチーズケーキを売ってる店だって!外の県にまで名が知られてる店よ!…良いわ!私も丁度此処でお土産買って来る様、頼まれてたから!!」
店の前の建物、キッズ・ファクトリーの壁に寄せる様、自転車を停める。
降りて早速、ルフィは店員さんから、配ってた物を貰いに行った。
若い女性の店員さんが配っていたのは、チーズケーキを賽の目状に細かく切った物だった。
一口で食べると、ゴーダチーズをしっかりと焼き込んだ生地の中に、オレンジの風味が効いてて、とっても美味しく感じられた。
修学旅行生の口コミで、全国に人気が広がって行ったってのも、理解出来るわね。
「うんめェェェ~~~~!!!すんげェェうんめェェェ~~~~!!!――もっともらえねェかな?」
「止めて、見っとも無いから。」
真顔で相談して来るルフィにきっぱりと告げる。
「早く店入ろうぜ!!他にもししょくさせてもらえっかもしんねェ!!」
……まったくこいつは……悩みが無くてつくづく羨ましいというか……。
「……あのさァ……ルフィは…ゾロが一緒でなくて、寂しくない訳…?」
店に入り掛けてたルフィの足が止る。
振り向いた顔には、「?」が幾つも浮んでた。
いきなり何言い出すんだとばかりに首を傾げてる。
「や、ちっとも!…どうせすぐ、昼になったら会うんだし。」
「卒業したら?…春が来て、別れ別れになっちゃっても?」
「そんでも、2度と会えなくなるワケじゃねェだろ?」
――2度と会えなくなるかもしんないじゃないっっ。
「あんたそれでも親友かっっ!!?」
「ナミは、さびしいのか?」
「…………寂しくなんか、ないわよっっ。」
「………ふーーん……。」
暫し2人、無言で顔を見合わせてた。
けど直ぐにルフィは、くるりと180°向きを変えて、店ん中に駆け込んでった…。
……ウソップとサンジ君まで離れて行かなくて、心から良かったと思う。
2人まで離れて行っちゃってたら……私はきっと、泣き出してただろうから。
【その34に続】
写真の説明~、ストリートオルガン工房『ピーレメント・ボウ』の前に置かれた、アンティークなストリートオルガン。
日に何度か演奏して観せてくれたりする。
観られたらラッキーv