瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

『何度も廻り合う』その40

2006年02月25日 11時09分04秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】





船内に入った途端、非難と好奇の視線で、体中チクチクと刺された。

迷惑懸けたのは確かなので、一応済まなそうに頭を垂れながら、奥へと進む。

最後部右端窓際席をしっかり確保したルフィが、ガキみたく船窓貼り付き景色を眺めてる。

その隣でゾロは、もう早眠りの体勢、瞼を固く閉じている。

座り直す間も無くエンジン音が轟き、高速船はゆっくりと岸から離れた。


少しづつ、少しづつ、街から離れて行く…


18世紀王宮の様な、『ホテル・デンハーグ』。

その後の森から頭だけ覗かした、『パレス・ハウステンボス』。

雄々しくマストをぴんと伸ばした、木造帆船『観光丸』。

場内何処よりも高く聳える塔、『ドム・トールン』。



…離れて行く…皆…皆…離れて行く…



「ナミ!!ナミ!!窓から観てみろよ!!夕陽がすっげーきれーだぞ!!!」


手を引っ張り、興奮した面持ちでルフィが叫ぶ。

覗いた窓からは……山を焦す様な、赤々とした夕陽。


「な!?まるで山火事みてェできれーだろ!!?」


「……確かにイメージとしてはそんな感じだけど……もちょっと別の例え出来ないのルフィ…?」



往路同様、暫くは緩い速度で進んでいた船が、急に駆け足になる。

ガタゴトと揺れが増し、波飛沫が窓に掛かる。

見えていた街並が、一気に離れて行った。




「楽しいトコだったな!!」


朗らかにルフィが笑う。

その頭上には、古ぼけた麦藁帽子が載っかっていた。

着ている服は赤のノースリーブ、履いてる靴はビーチサンダル。


全身に風を感じて辺りを見回す。

気付けば乗っている船は、見覚えの有る小型木造帆船。

海風にはためく、麦藁帽子を被った髑髏の海賊旗。

こちらからは見えないけど、船首はきっと愛嬌溢れる羊の顔。

継ぎ接ぎだらけの愛する船……ゴーイング・メリー号。


後部デッキから、皆と共に私は、沈む夕陽を、離れ行く島を、見送っていた。


「楽しかった…怖いもんちっとも居なかったし…平和で、美味い食いもんや飲みもんいっぱい有って…なのに3日しか居られないなんて…オレ、すっげ寂しいぞォォーーー!!!!」


右隣で船縁ぶら下がってたチョッパーが、ウルウル目で海に向かい叫ぶ。

トナカイの様な狸の様な、毛皮モコモコの愛くるしい姿。

頭に被った『×』帽子は名医の証、頼り甲斐有る我等が船医。


「また来たいよなァ~~~。来れるかなァ~~~?チーズやハムやソーセージやワイン……どれもこれも美味かったよなァ~~~。」

「バナナマフィンも美味かったよなァ~~~。後50個くれェ買って行きたかったよなァ~~~。」


そのチョッパーの横で、ルフィが同調する。


「オレ、お菓子の家見たぞ!!魔女が住んでて、サンタが訪ねて来るんだ!!」
「俺も見たぞチョッパー!!良いよなァ~~~。あんな家に1度住んでみてェ~~~。そんでエントツから丸かじりすんだァ~~~v」
「食っちまったら駄目だよルフィ!!住めなくなっちまうじゃんか!!!」

「寂しがってんじゃねェよてめェら!!!」


バタンと扉開いて、ウソップが飛び出して来た。

一体誰の真似なのか?……手にはギター、頭にはテンガロンハット、黒いグラサン掛けて、長鼻の下にはマジックで描いたチョビ髭、ベルボトムジーンズといったスタイルだ。


「幾つもの出会いと別れを繰り返し、人は大人になって行く。愛する者を残しても、ぐっと涙堪えて独り旅立つ……それが漢の生き様ってもんだぜェェ!!!」(キラーン)

「うおおおっっ!!!ウソップカッコエェェーーーー!!!!」
「良いぞォォ~~~!!!漢・キャプテンウソップゥゥ~~~~!!!!」

「…っつう訳で聴いて貰うぜ…!!キャプテェ~ンウソップ様が歌う別れのバラード!!!てめェらしっかり声援頼むぜェェ!!!!」

「さよならは別ァ~れェ~のォ~言葉じゃなくゥてェ~♪」
「「ヒュー!!ヒュー!!」」
「再び逢うまァ~でェ~のォ~遠い~約束ゥ~♪」
「「ヒュー!!ヒュー!!」」
今を~嘆ェいてもォ~胸を~痛ァ~めてもォ~ほんのォ~夢ェの途中ゥ~~♪…ジャンジャンジャンジャンジャカジャカジャジャン♪――どうしたどうしたァ!!?声が小さいぜてめェらァァ!!!!」

「ウソップ、ルフィ、チョッパー、あんた達、煩い。」

「ナミさん…!!」


背後からそっ…と肩を抱かれる。

振り返ると、右の瞳をキラキラと輝かせたサンジ君が立っていた。

気障ったらしい黒スーツと黒ネクタイ、咥えた煙草からはハート型した煙。

その煙が私に掛からぬ様、決して風上には立たない、見上げたフェミニスト根性。


「今度来た時は君と、あの海辺佇む、ホテルデンハーグに泊りたい…!!

 宿泊する部屋は勿論、窓から海を見渡す、デラックスハーバービューツインだ。

 寄り添い紺碧の海を見詰ながら、2人の夢について語合おう。

 いっその事、結婚式も挙げてしまおうか?

 幸い、あそこには教会も用意されてると言うし。

 そうだ!ハネムーンはその後でも良いさ!!

 昼に太陽の祝福を受けた2人は、夜には月と星の祝福を受けるんだ。

 満天の星を映した夜の海を背景に、2人きりで乾杯をしよう。

 夜も更けて…『そろそろシャワーを浴びて寝ないかい?』と俺が誘う。

 君は『いやんv初めてなのに、一緒にだなんて恥かしいvサンジ君からどうぞv』と、初々しく拒むだろう。

 その仕草に惜しく思いつつも、心トキメカセながら先にシャワーを浴びる俺。

 逸る胸を抑え、腰にバスタオルを巻いて出て来ると、ベッドの上には――」

「――誰も居らずもぬけの殻。

 間抜けな花婿さんがシャワーを浴びてる間に、花嫁さんは貰った御祝儀ごっそり持って、彼方へと逃げてしまいましたとさ!」


サンジ君の足元で、縁に寄っ掛かってたゾロが、茶々を入れる。

親父シャツに緑の腹巻に、左腕には黒バンダナ、左耳には3連ピアスといった、ダサさを超越したファッション。

右の腰には勿論、3本の真剣を差していた。


「話横取りして勝手に哀しい展開に変えてんじゃねェよ毬藻ォォォ!!!!」
「台詞長ェんだよてめェはァァ!!!!出番無かった腹いせかァ!!!?クルクルラブリン!!!!」
「煩ェェ!!!!毬藻は毬藻らしく独り寂しく湖底沈んで眠ってろっっ!!!!早よ帰れ故郷の湖に!!!!」

「国の起源を知る上でも、興味深いサンプルだったわね。」


左隣に立ってたロビンが微笑む。

風に吹かれ、はらりと広がる漆黒の髪。

同姓の私でも憧れる、彫像の様に整った容貌。

髪と同じ色した瞳は、理知を宿してきらりと輝く。


「かつて栄えた大国も、一日にして成された訳では無い。あの国の歴史は未だ浅いけど…ひょっとして私達は、綿々と続いてく国史の内の序章を、垣間見たのかも知れないわ。」

「始まりは全て0から、か…。」


希望と理想に溢れた、良い国だった。

エコロジー&エコノミー、自然と文化の共存……成功すれば良いなと思う。

その試みは必ずや、未来に生きる人達の指針となる。



刻々と、夜に染められて行く空。

濃紺の世界で、稜線のみが、薄桃色に輝いてる。

船は波を蹴散らし、真直ぐに航行してく。




「ぜってェ、また来ような!!」


何時の間にか近くに、ルフィが来て笑ってた。

さっきまで被ってた、麦藁帽子は消えている。


見回せば、居るのは帆船の上でなく、振動鳴り響く、高速船の中。

最奥窓際から並んだ席には、ルフィ、ゾロ、私の3人。


……ウソップ、サンジ君、チョッパー、ロビンの姿は、何処にも無かった。



「今度来たら忘れず馬車乗るぞ!!チョコレートフォンデュも食う!!タクシーにも乗りてェなァ~!!カナリカフェだったか!?あれも乗りてェよなァ~!!後キッズ何とか!!ガキ用遊園地でも1ぺん観てェ!!あ!!キャプテンショップ!!今度はゆっくり観るぞ!!そんで明かり点いたきれーなシャンデリアも観なくちゃな!!……こうして考えると、まだまだし残した事、沢山有るよなァァ~~~!!」

「…それだけじゃなく、知ってるか?地下にゃ迷路まで在るんだぜ!」

「地下に迷路ォォ!??」
「ゾロ、起きてたの?」


間で熟睡してると思ってたゾロが、むくりと身を起こす。


「…ルフィの声が煩くて寝付けやしねェ。安眠妨害極まりねェよ。」


その右腰に、3本の真剣は差してない。


「上ばっか歩いてて気付かなかったんだろ?今度来たら、俺が道案内してやるよ!」


妙に優越感たっぷりに、ニヤケる。


「へー!!そんなトコまで在ったのかァァーーー!!面白そうだな♪」

「あんたに道案内お願いしたら、それこそラビリンスみたいに、一生抜け出せなくなりそう…。」

「どういう意味だよそりゃ!!?」

「それを言うなら私だって…あんた達、飛ぶ魚を目の前で見た事有る?」

「「飛ぶ魚??」」

「飛魚よ!この海には沢山居て、ピョンピョン飛んでるトコ見たわ、私!」

「飛魚ってアレか!?羽の生えた魚か!?うわっっ、すっげー観てェェ~~~!!何で俺達にも観せてくんなかったんだよ!?」
「呼んでもあんた達、部屋に鍵掛けて、狸寝入りカマしてたんじゃないの!!!」

「まァ良いじゃねェか。次に来る時の為に、楽しみ色々残しといたっつう事でよ。」


ゾロが珍しくも、朗らかに笑う。


「そうだな!!全部、次来た時の宿題だな!!」


ルフィも力いっぱい、声立てて笑った。


「………そうだね。」



夕陽は沈み、街ももう見えない。

すっかり薄暗くなった空の下、波飛沫立てて、船は高速で進む。



被ってた帽子の鍔に触れた。


ルフィに渡された、『誓いの帽子』。




「……また来よう!!

 今度は…皆で…!!





ハウステンボスまでは何マイル?

お船に乗って行けるかな?

行って帰って来られるさ

波が高く荒れなけりゃ

お船に乗って行けるとも






【終】





写真の説明~、以前話に出した、ハウステンボスのオリジナルチューリップ、その名も『ハウステンボス』。

ピンク色してフリンジ付いてて可愛いっしょv



…改めてブログ上で、お礼を言う積りですが……

まったりさん、

ちばさん、

ふくちゃん、

ぐらさん、

ウロウロさん、

勝手にでは有りますが(汗)、資料として貴ブログを大いに参考にさせて頂きました。

有難う御座いました。(礼)

そして、此処までお読み頂いた皆さんにも、有難う御座います。(礼)

お陰で何とか、最後まで書き切る事が出来ました。

本当に有難う御座いました。


あ、追伸…最後のフレーズはマザーグースのパロディ、深い意味は無いです…まぁ、洒落で。(苦笑)

後、ウソップが歌ってるのは来生氏の『夢の途中』です、言わんでも解るでしょうが。(汗)
コメント (10)
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