【前回の続きです。】
ギリギリ時間内で自転車を返却した後、ゾロとコテージで合流する為に、土産抱えてブルーケレンからクラシックバスに乗って行く事にした。
丁度入国して来た団体客と行き会い、車内は朝とは打って変った混雑振り。
それでもルフィは素早く1番前の席を確保して座る。
その後ろに座ったと同時にバスが発車、ガタゴト揺れながら、石畳の道を進み出した。
揺れるったってルフィの運転から比較すれば雲泥の差だわ。
滑らかに流れてく車窓からの景色を眺めつつ、その快適な乗り心地にほっとする。
「バスは良いわね……安全で、ちっとも揺れなくて。」
「そうかー?結構ゆれてると思うけどなァ??」
「……あんたの運転に較べりゃ天と地よ……この場合、勿論『天』はバスで、『地』はあんた………っつかねェ!!死ぬかと思ったわよ!!!はっきし言って!!!!」
「ナミが5分以内でとう着しろっつうから、すっ飛ばして走ってやったんじゃねェか。」
「だからってブレーキ1回も踏まずに爆走する!!?自転車じゃなくて、ジェットコースターにでも乗ったのかと思ったわよ!!!……本当に…よく、生きて辿り着けたものかと…ああ、生きてるって素晴しい…命が有るって、何て素敵な事なんだろう…!!」
「おんもしろかったよなァァ~~~♪俺、久々に思っ切し自転車漕いだぜ!!どうせなら初日っから乗り回したかったよなァ~~~。そうすりゃもっと色々廻れたかもしんねーし。…何でもっと早くに教えてくれなかったんだ??」
「え?そ、それは……最終日の予定に組み込んでたから…。」
「予定なんて変えりゃ良いじゃん。2日目に持って来てりゃ、1日中乗って廻れたぜ?」
「それじゃお金掛かっちゃうでしょ!?3時間超えたら延滞金付くんだから!!」
「良いじゃねェか、少しくれェ付いても。その分移動が楽になるんなら悪くねェ。」
「い、1日目はお茶飲んでイベント観て廻って、2日目はアミューズメント観て廻って、3日目は自転車借りて場内観て廻ろうって、決めておいたのよ!!」
「だから何で決めた通りに動かなきゃなんねェんだ?その場で行きてェ思ったトコ行って、やりてェ思った事やった方が楽しいんじゃねェか?」
「それじゃ効率良く全部廻れないじゃない!!」
「何で全部廻る必要有んだよ?廻れる訳無ェじゃん、2日ちょいで、こんな広いトコ。」
「あんたが全部廻りたいって言ったから、無理してでも行こうとしたんでしょォ!?」
「…まァ、そうだけどよォ~……廻り切れねェんだったら、好きなトコだけ行ったり、してたりした方が良かったんじゃねェかな~なんてな。」
無邪気に、ただ自分の考えをぶつけてるだけなのは解ってる。
ルフィの瞳に責めてる色は見えないし。
だけど……
「ルフィは……楽しくなかったんだ…今回の旅。」
「んん?…そんな事無ェぞ?すっげー楽しかったに決まってんじゃねェか♪」
「…でも、強引に引き摺られて、好きな様に廻れなくて、がっかりしてんでしょ?」
きっとゾロも、そう思ってんだ。
引き回されて、疲れるだけだって。
こんな所ちっとも面白くねェ、早く帰って寝ちまいてェなァって。
だから付いて来なかったんだ、いいかげん付き合い切れねェつって。
最初から、楽しみにしてたのは、自分だけだったんだわ。
1ヶ月前からガイドブック観たり、HP観たりして予定練ってたのに。
これでも一生懸命、2人が楽しめそうなコース考えたのに。
多分……3人で行く、最後の旅になるだろうからって。
だけど無駄だったんだ、全部!
誘うんじゃなかった…楽しんで貰えないなら、旅行なんかすんじゃなかった!!
「おい、ナミ。さっきからおどろ線背負ってて暗ェぞ。車酔いかァ?」
「……悪かったわね……無理に引き回しちゃって……せめてもっと余裕有るコース考えてたら、ゾロも付き合う位はしてくれてたかしらね…。」
「ゾロ??……充分付き合ってる様に見えるけどなァ~。」
「付き合ってくれてないでしょ!?事実、今!!」
「この3日間、修行してるあいつ見たか?」
「え?……そう言われると……見てないよな……」
「あいつ、ひまんなると修行する奴なのに。修学旅行中なんか、皆して部屋でTV観てる横で腹筋やってて、サンジがうっとうしいっつってけってたもんな。」
…確かに、普段はTPO全く気にせず、ちょっとでも間が空きゃ、竹刀振り回したり、指1本で腕立て伏せするよな奴だけどさ。
「竹刀持って来て無いし、単に疲れてやる気起きなかったんじゃ?」
「夜ねる前には、部屋でちゃんと腕立てとかやってたんだ、実は。けど今回の旅行で、ナミの前じゃ1度もしてねェだろ?」
「ゾロなりに、私を気遣ってくれてるって事…?」
……でも結局、嫌々じゃあ……
「ゾロは素直じゃねェけど、俺と一緒で、嫌な事はぜってェしねェさ。だから、好きで付き合ってるとしか、思えねェんだけどなァ。」
ルフィの言う通りだとは、思う。
こいつら、基本的に自分の気持ちに忠実と言うか。
嫌な事頼まれれば、たとえ大統領からだとしても、きっぱり拒否する様な奴等だし。
つらつら考えてて、妙に視線がチクチクと刺さって来た。
正面見るとルフィが、シートからじぃぃっと真顔で、こっちを覗き込んでいる。
「な…何?何なの??」
「なァ………おめェ、また胸でかくなっただろ?」
無遠慮にしげしげと人の胸を見詰る。
「いや、さっき思っ切し背中に抱き付いてただろ?コート着てる上からでも判るなんて、すっげーデカパイだよなァ~って…うはははははははははははははははは…♪♪」
――ゴインッッ!!!!
「……真剣気に懸けた、私が馬鹿だったわ…!!!」
バスは目指してるスパーケンブルグに到着する手前で、何故か途中停車してしまった。
不思議に思い車窓から外を見ると、前でハーフェン橋が大きく跳ね上がっていた。
「ナ!!ナミ!!何やってんだあれ!?道が、橋が…上に持ち上がっちまってっぞ!!?」
「カナルクルーザーが橋の下通り抜けてくでしょ?あのクルーザーが通行出来る様、橋が高く持ち上がる仕組になってる訳!」
「ええ!?あの船、海出ちまえるのか!?俺達が乗ったのは出なかったじゃねェか!?」
「あれは通常のカナルクルーザーじゃなくて、『カナルカフェ』っつう水門巡りのコースを行くクルーザーよ。カナルカフェって言うのは、クルーザーの中でお茶やお酒を飲んだりしながら遊覧するってもので、中でも水門巡りコースを選ぶと、ああやって水門から海まで出て行けるみたいよ。」
「んな楽しそうなもん有ったんなら何で教えてくんなかったんだよ!!?乗りたかったぞ!!!俺は!!!」
「お金が2,000円掛かるし、予約も必要だし…こうゆう優雅な乗物、あんた達には不似合いだと思ったからよ!」
乗客の多くはカップルだって聞いてた。
所要時間40分掛けて、少グループでゆったりとお茶飲みつつ遊覧。
そんな中にルフィが入ってったら、ロマンチックな雰囲気ぶち壊して、他のお客から白い目で見られるの確実だもの。
「乗りたかった……すっげー乗りたかったのに…!!」
窓に張付きクルーザー眺め、ルフィはさめざめと悔し涙を流した。
「…もう少しあんたが落ち着きの有る大人になって、また此処に来る事が有ったら乗せてあげるわよ。」
船が通った後、ハーフェン橋はまたゆっくりと元に戻り、今度は左横のスワン橋が左右に開いて跳ね上った。
橋の横に在った信号が青に変り、通行を停めてた遮断機が上がると、一斉に人や車が道に流れる。
私達が乗ってたバスも橋を渡り、ホテルヨーロッパ前のレンブラント通りを走ってった。
「運河から海にって事は…ここの運河って海とつながってんのか?」
見えるトコまで橋を観送りながら、ルフィが聞いて来る。
「そうよ。そうやって常に水を入替えて、運河の水の澱みを防いでんだって。だから此処の運河に流れてんのは海水なの。」
「へーーー…って事は、なめたらしょっぱいんだな。」
パレスに続く坂道手前、終点スパーケンブルグでバスは停まった。
着いた時には約束の時刻を数分過ぎていた。
とはいえゾロの事、どうせ未だ寝てんじゃないかと思い、特に慌てずルフィと2人、フォレストパークまでの石段をゆっくりと上った。
泊ってるコテージの前まで行くと……予想を裏切りゾロは、起きて扉寄っ掛かり、地べたに足投げ出して待っていた。
近付いた瞬間、如何にも不機嫌そうに顔を上げ、じろりと睨まれる。
――あっっ、眉間に皺寄ってる……待たされて怒ってるわね、こりゃ。
「遅ェ。10分遅刻だぞ。」
「悪ィ悪ィ♪途中でバスが信号待ちしちまったんだよ♪」
「…随分また買い込んだな、ルフィ。バッグの中全部詰めらんねェんじゃねェのか?」
「任せろ!!気合で入るさ!!!」
両手に提げた土産袋を、ゾロに向って得意気に、高々と持上げて見せる。
「バッグに気合求めたってしょうがねェだろ。」
「ジーパンはもう乾いたの?」
座ってる傍まで近付き言う。
見下ろされるのを嫌ってか、腰に付いた土埃をパンと手で叩き、ゾロが立ち上がった。
「いや、未だ完全に乾いちゃいねェ。…ドライヤー当てたりしたんだけどな。」
それで地べた座って待ってたんじゃ、さぞ冷たかったろうに。
「内側にタオル入れて水吸わせた?」
「いや…してねェ。そのまんま干してた。」
「それじゃ乾く訳無いじゃない、馬鹿。」
「まァいいさ。それこそ後は気合で乾かす。その内体温で乾くだろ。」
「…私のセーター貸したげるから、腰ん所に巻いといたら?」
「濡らしちまっちゃ悪ィからいいって……っつか、さっきから何妙に優しいんだよ!?気持ち悪ィな!!」
「着てて冷たくて寒いんじゃないかって心配してあげてんの!!悪い!?」
ふと黙り、顔を近付け、じぃーーっと見詰られる。
「ひょっとして……済まないとでも感じてんのか?」
「…す、済まないって何が…??」
「楽しかったか?ルフィと2人で観て廻って。」
「た、楽しかったけど?」
「おう!!楽しかったよなナミ!!2人乗りの自転車乗って、グルグル場内廻ってよ!!!」
「へェェ…そりゃあ、楽しく廻れて良かったな。」
「そ…そうだわね…。」
――だから何でそんな仏頂面して、人の顔凝視してくんのよっっ!?
「…ゾロが居なくてさびしがってはいたけどな、ナミは!」
「寂しがってなんかなかったわよっっ!!!」
「へェェェ…?」
意外そうな、でも少し嬉しそうに、一瞬にやけた。
……こいつでも置いてかれて、少しは寂しく感じてたのかしら?
「……良く眠れた?ゾロ。」
「…何でんな事聞いて来んだよ?」
「……別に……聞いちゃいけない事だった?」
「………そんな訳無ェだろ。」
気拙い……ひたすら気拙い沈黙が流れる。
「………あのさ……後4時間もしたら、帰っちゃうんだし…こっから先は、3人で廻ろう?」
――最後くらい、喧嘩しないで。
「……そういう約束だしな。その積りだ。」
顔を見合わせ、微笑んだ。
たったの3時間しか離れてなかったのに、凄く懐かしく感じた。
名残惜しくもチェックアウト。
荷物が多過ぎて纏め切れなかったので、フロントに電話して車で迎えに来て貰う事にした。
程無くして、チェックイン時と同じ、青いホテル車が到着。
迎えに来てくれたホテルスタッフの方に頼んで、コテージの前で3人、記念に写真を撮って貰う事にした。
3人横並びは不吉だっつうなら、縦並びはどうかとのルフィ案を採用し、入口前に立ってる緑の葉に赤い実付けた木の下で、3人縦に重なりポーズを取る。
1番下にゾロが屈んで、その肩の上に私が乗り、その私の肩の上乗って、船長帽被ったルフィが右手に短剣掲げ、ハイ、チーズ!
…まるでピサの斜塔よろしく傾き、グラグラ揺れてバランス取るのに大変だった。
カメラ構えたホテルスタッフの方が笑ってしまい、シャッター切るのに時間掛かるし。
ルフィは雄叫び上げて暴れるし、私は重いと文句を言うし、ゾロは照れて顔隠そうとするし。
崩れる寸前シャッターが切られ、何とか無事に記念撮影を終える事が出来た。
【その36に続】
写真の説明~、泊ったコテージの前で。
緑の葉っぱに赤い実の生った木…南天に似た様なこの木の名前は何でしょか??(汗)
クリスマスシーズンに合ってて良いよなと思った訳でv
ギリギリ時間内で自転車を返却した後、ゾロとコテージで合流する為に、土産抱えてブルーケレンからクラシックバスに乗って行く事にした。
丁度入国して来た団体客と行き会い、車内は朝とは打って変った混雑振り。
それでもルフィは素早く1番前の席を確保して座る。
その後ろに座ったと同時にバスが発車、ガタゴト揺れながら、石畳の道を進み出した。
揺れるったってルフィの運転から比較すれば雲泥の差だわ。
滑らかに流れてく車窓からの景色を眺めつつ、その快適な乗り心地にほっとする。
「バスは良いわね……安全で、ちっとも揺れなくて。」
「そうかー?結構ゆれてると思うけどなァ??」
「……あんたの運転に較べりゃ天と地よ……この場合、勿論『天』はバスで、『地』はあんた………っつかねェ!!死ぬかと思ったわよ!!!はっきし言って!!!!」
「ナミが5分以内でとう着しろっつうから、すっ飛ばして走ってやったんじゃねェか。」
「だからってブレーキ1回も踏まずに爆走する!!?自転車じゃなくて、ジェットコースターにでも乗ったのかと思ったわよ!!!……本当に…よく、生きて辿り着けたものかと…ああ、生きてるって素晴しい…命が有るって、何て素敵な事なんだろう…!!」
「おんもしろかったよなァァ~~~♪俺、久々に思っ切し自転車漕いだぜ!!どうせなら初日っから乗り回したかったよなァ~~~。そうすりゃもっと色々廻れたかもしんねーし。…何でもっと早くに教えてくれなかったんだ??」
「え?そ、それは……最終日の予定に組み込んでたから…。」
「予定なんて変えりゃ良いじゃん。2日目に持って来てりゃ、1日中乗って廻れたぜ?」
「それじゃお金掛かっちゃうでしょ!?3時間超えたら延滞金付くんだから!!」
「良いじゃねェか、少しくれェ付いても。その分移動が楽になるんなら悪くねェ。」
「い、1日目はお茶飲んでイベント観て廻って、2日目はアミューズメント観て廻って、3日目は自転車借りて場内観て廻ろうって、決めておいたのよ!!」
「だから何で決めた通りに動かなきゃなんねェんだ?その場で行きてェ思ったトコ行って、やりてェ思った事やった方が楽しいんじゃねェか?」
「それじゃ効率良く全部廻れないじゃない!!」
「何で全部廻る必要有んだよ?廻れる訳無ェじゃん、2日ちょいで、こんな広いトコ。」
「あんたが全部廻りたいって言ったから、無理してでも行こうとしたんでしょォ!?」
「…まァ、そうだけどよォ~……廻り切れねェんだったら、好きなトコだけ行ったり、してたりした方が良かったんじゃねェかな~なんてな。」
無邪気に、ただ自分の考えをぶつけてるだけなのは解ってる。
ルフィの瞳に責めてる色は見えないし。
だけど……
「ルフィは……楽しくなかったんだ…今回の旅。」
「んん?…そんな事無ェぞ?すっげー楽しかったに決まってんじゃねェか♪」
「…でも、強引に引き摺られて、好きな様に廻れなくて、がっかりしてんでしょ?」
きっとゾロも、そう思ってんだ。
引き回されて、疲れるだけだって。
こんな所ちっとも面白くねェ、早く帰って寝ちまいてェなァって。
だから付いて来なかったんだ、いいかげん付き合い切れねェつって。
最初から、楽しみにしてたのは、自分だけだったんだわ。
1ヶ月前からガイドブック観たり、HP観たりして予定練ってたのに。
これでも一生懸命、2人が楽しめそうなコース考えたのに。
多分……3人で行く、最後の旅になるだろうからって。
だけど無駄だったんだ、全部!
誘うんじゃなかった…楽しんで貰えないなら、旅行なんかすんじゃなかった!!
「おい、ナミ。さっきからおどろ線背負ってて暗ェぞ。車酔いかァ?」
「……悪かったわね……無理に引き回しちゃって……せめてもっと余裕有るコース考えてたら、ゾロも付き合う位はしてくれてたかしらね…。」
「ゾロ??……充分付き合ってる様に見えるけどなァ~。」
「付き合ってくれてないでしょ!?事実、今!!」
「この3日間、修行してるあいつ見たか?」
「え?……そう言われると……見てないよな……」
「あいつ、ひまんなると修行する奴なのに。修学旅行中なんか、皆して部屋でTV観てる横で腹筋やってて、サンジがうっとうしいっつってけってたもんな。」
…確かに、普段はTPO全く気にせず、ちょっとでも間が空きゃ、竹刀振り回したり、指1本で腕立て伏せするよな奴だけどさ。
「竹刀持って来て無いし、単に疲れてやる気起きなかったんじゃ?」
「夜ねる前には、部屋でちゃんと腕立てとかやってたんだ、実は。けど今回の旅行で、ナミの前じゃ1度もしてねェだろ?」
「ゾロなりに、私を気遣ってくれてるって事…?」
……でも結局、嫌々じゃあ……
「ゾロは素直じゃねェけど、俺と一緒で、嫌な事はぜってェしねェさ。だから、好きで付き合ってるとしか、思えねェんだけどなァ。」
ルフィの言う通りだとは、思う。
こいつら、基本的に自分の気持ちに忠実と言うか。
嫌な事頼まれれば、たとえ大統領からだとしても、きっぱり拒否する様な奴等だし。
つらつら考えてて、妙に視線がチクチクと刺さって来た。
正面見るとルフィが、シートからじぃぃっと真顔で、こっちを覗き込んでいる。
「な…何?何なの??」
「なァ………おめェ、また胸でかくなっただろ?」
無遠慮にしげしげと人の胸を見詰る。
「いや、さっき思っ切し背中に抱き付いてただろ?コート着てる上からでも判るなんて、すっげーデカパイだよなァ~って…うはははははははははははははははは…♪♪」
――ゴインッッ!!!!
「……真剣気に懸けた、私が馬鹿だったわ…!!!」
バスは目指してるスパーケンブルグに到着する手前で、何故か途中停車してしまった。
不思議に思い車窓から外を見ると、前でハーフェン橋が大きく跳ね上がっていた。
「ナ!!ナミ!!何やってんだあれ!?道が、橋が…上に持ち上がっちまってっぞ!!?」
「カナルクルーザーが橋の下通り抜けてくでしょ?あのクルーザーが通行出来る様、橋が高く持ち上がる仕組になってる訳!」
「ええ!?あの船、海出ちまえるのか!?俺達が乗ったのは出なかったじゃねェか!?」
「あれは通常のカナルクルーザーじゃなくて、『カナルカフェ』っつう水門巡りのコースを行くクルーザーよ。カナルカフェって言うのは、クルーザーの中でお茶やお酒を飲んだりしながら遊覧するってもので、中でも水門巡りコースを選ぶと、ああやって水門から海まで出て行けるみたいよ。」
「んな楽しそうなもん有ったんなら何で教えてくんなかったんだよ!!?乗りたかったぞ!!!俺は!!!」
「お金が2,000円掛かるし、予約も必要だし…こうゆう優雅な乗物、あんた達には不似合いだと思ったからよ!」
乗客の多くはカップルだって聞いてた。
所要時間40分掛けて、少グループでゆったりとお茶飲みつつ遊覧。
そんな中にルフィが入ってったら、ロマンチックな雰囲気ぶち壊して、他のお客から白い目で見られるの確実だもの。
「乗りたかった……すっげー乗りたかったのに…!!」
窓に張付きクルーザー眺め、ルフィはさめざめと悔し涙を流した。
「…もう少しあんたが落ち着きの有る大人になって、また此処に来る事が有ったら乗せてあげるわよ。」
船が通った後、ハーフェン橋はまたゆっくりと元に戻り、今度は左横のスワン橋が左右に開いて跳ね上った。
橋の横に在った信号が青に変り、通行を停めてた遮断機が上がると、一斉に人や車が道に流れる。
私達が乗ってたバスも橋を渡り、ホテルヨーロッパ前のレンブラント通りを走ってった。
「運河から海にって事は…ここの運河って海とつながってんのか?」
見えるトコまで橋を観送りながら、ルフィが聞いて来る。
「そうよ。そうやって常に水を入替えて、運河の水の澱みを防いでんだって。だから此処の運河に流れてんのは海水なの。」
「へーーー…って事は、なめたらしょっぱいんだな。」
パレスに続く坂道手前、終点スパーケンブルグでバスは停まった。
着いた時には約束の時刻を数分過ぎていた。
とはいえゾロの事、どうせ未だ寝てんじゃないかと思い、特に慌てずルフィと2人、フォレストパークまでの石段をゆっくりと上った。
泊ってるコテージの前まで行くと……予想を裏切りゾロは、起きて扉寄っ掛かり、地べたに足投げ出して待っていた。
近付いた瞬間、如何にも不機嫌そうに顔を上げ、じろりと睨まれる。
――あっっ、眉間に皺寄ってる……待たされて怒ってるわね、こりゃ。
「遅ェ。10分遅刻だぞ。」
「悪ィ悪ィ♪途中でバスが信号待ちしちまったんだよ♪」
「…随分また買い込んだな、ルフィ。バッグの中全部詰めらんねェんじゃねェのか?」
「任せろ!!気合で入るさ!!!」
両手に提げた土産袋を、ゾロに向って得意気に、高々と持上げて見せる。
「バッグに気合求めたってしょうがねェだろ。」
「ジーパンはもう乾いたの?」
座ってる傍まで近付き言う。
見下ろされるのを嫌ってか、腰に付いた土埃をパンと手で叩き、ゾロが立ち上がった。
「いや、未だ完全に乾いちゃいねェ。…ドライヤー当てたりしたんだけどな。」
それで地べた座って待ってたんじゃ、さぞ冷たかったろうに。
「内側にタオル入れて水吸わせた?」
「いや…してねェ。そのまんま干してた。」
「それじゃ乾く訳無いじゃない、馬鹿。」
「まァいいさ。それこそ後は気合で乾かす。その内体温で乾くだろ。」
「…私のセーター貸したげるから、腰ん所に巻いといたら?」
「濡らしちまっちゃ悪ィからいいって……っつか、さっきから何妙に優しいんだよ!?気持ち悪ィな!!」
「着てて冷たくて寒いんじゃないかって心配してあげてんの!!悪い!?」
ふと黙り、顔を近付け、じぃーーっと見詰られる。
「ひょっとして……済まないとでも感じてんのか?」
「…す、済まないって何が…??」
「楽しかったか?ルフィと2人で観て廻って。」
「た、楽しかったけど?」
「おう!!楽しかったよなナミ!!2人乗りの自転車乗って、グルグル場内廻ってよ!!!」
「へェェ…そりゃあ、楽しく廻れて良かったな。」
「そ…そうだわね…。」
――だから何でそんな仏頂面して、人の顔凝視してくんのよっっ!?
「…ゾロが居なくてさびしがってはいたけどな、ナミは!」
「寂しがってなんかなかったわよっっ!!!」
「へェェェ…?」
意外そうな、でも少し嬉しそうに、一瞬にやけた。
……こいつでも置いてかれて、少しは寂しく感じてたのかしら?
「……良く眠れた?ゾロ。」
「…何でんな事聞いて来んだよ?」
「……別に……聞いちゃいけない事だった?」
「………そんな訳無ェだろ。」
気拙い……ひたすら気拙い沈黙が流れる。
「………あのさ……後4時間もしたら、帰っちゃうんだし…こっから先は、3人で廻ろう?」
――最後くらい、喧嘩しないで。
「……そういう約束だしな。その積りだ。」
顔を見合わせ、微笑んだ。
たったの3時間しか離れてなかったのに、凄く懐かしく感じた。
名残惜しくもチェックアウト。
荷物が多過ぎて纏め切れなかったので、フロントに電話して車で迎えに来て貰う事にした。
程無くして、チェックイン時と同じ、青いホテル車が到着。
迎えに来てくれたホテルスタッフの方に頼んで、コテージの前で3人、記念に写真を撮って貰う事にした。
3人横並びは不吉だっつうなら、縦並びはどうかとのルフィ案を採用し、入口前に立ってる緑の葉に赤い実付けた木の下で、3人縦に重なりポーズを取る。
1番下にゾロが屈んで、その肩の上に私が乗り、その私の肩の上乗って、船長帽被ったルフィが右手に短剣掲げ、ハイ、チーズ!
…まるでピサの斜塔よろしく傾き、グラグラ揺れてバランス取るのに大変だった。
カメラ構えたホテルスタッフの方が笑ってしまい、シャッター切るのに時間掛かるし。
ルフィは雄叫び上げて暴れるし、私は重いと文句を言うし、ゾロは照れて顔隠そうとするし。
崩れる寸前シャッターが切られ、何とか無事に記念撮影を終える事が出来た。
【その36に続】
写真の説明~、泊ったコテージの前で。
緑の葉っぱに赤い実の生った木…南天に似た様なこの木の名前は何でしょか??(汗)
クリスマスシーズンに合ってて良いよなと思った訳でv