小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

オバマと民主党

2008年10月27日 | 国際・政治

 金融危機に端を発した世界的な経済不安のなかで、アメリカと日本においてエポックメーキングが起きようとしている。アメリカの大統領選挙はどうやら初めての黒人大統領が誕生する気配が濃厚だ。

オバマが黒人と言っても、これまでの黒人の政治家とは全く違う経歴をもっているようだ。父親はケニヤ系のアフリカ人。母親は白人。その後、両親は離婚し、再婚した父親の母国インドネシアで生活し、さらにアメリカに戻り母親の祖父母(白人)のもとで少年期から青年期にかけてエリートになるべく教育を受ける。コロンビア大学からハーバードのロースクールに進む。そして、弁護士へ。黒人とはいえ典型的なエスタブリッシュメントへの道程だ。

ただ、彼はシカゴでソーシャルワーカーもやっている。それなりの紆余曲折もあるようだ。


そして、上院議員になって2期目。私が得たオバマ情報で考える限り、彼は一見黒人であるがその言動は従来の黒人の活動家とは思えない。

彼を支持する背景に、社会的に差別されてきたというような強力なマイノリティ集団はない。

オバマはその出自でもわかるように、そのアイデンティティが曖昧である。アメリカのどこに所属しているのか分からない。


しかしそれがオバマの強みであり、言い換えればどこにも所属できるという立ち位置の柔軟性がある。黒人層にも中低所得者層やスパニッシュ系の移民層のどの集団にもコミュニケーションできる。

だからインターネットを使った選挙活動が巧を奏し、あらゆる人たちから支持をとりつけることができた。現在のアメリカ人のサラダボール的な意識の総和、その象徴がオバマといえるかもしれない。

 たぶんオバマはこのままの勢いでいけば大統領になるだろう。金融危機をどういう形で終息させ、未来への明るい出口のストーリーを示すことができるか、これは未知数である。さりながら全世界が、オバマによる変革を期待していることは確かだ。

 

 

 さあ、日本だ。解散総選挙が喧伝されているものの、麻生新総理は金融危機の打開を優先すべきだとして、解散の素振りは見せず水面下で自民党政権の延命をいろいろ画策しているようだ。

 そんななか巷の噂では、自民党はもはや見限られたという見方が都市部よりも地方で固まっているようである。

 民主党が政権をとることは、現実のものとなるかもしれない。

 そこで私は民主党に言っておきたいことがある。

 このブログに書いても届かないことは明白であるが、私自身のために書いておく。

「護憲平和」「親米愛国」など左右の立場からのスローガンはあるが、これらの言葉は日本人の捩れた国民感情を適切に表現している。


戦後、安保条約というアメリカの傘のもと、日本は経済的発展のみに集中してこられた。あたかも属国としての立場に甘んじ、金を出せと言えば金を出し、軍隊を出せと言えば自衛隊を派遣し、理不尽ともいえる「年次改革要望書」を突きつけられれば唯々諾々として、日本はアメリカのご機嫌を損ねないように応えてきた。

どれもこれも、アメリカに依存することがこの日本の平和を維持し、国益を助長する高度な政治的判断だと言われている。

 「アメリカこけたら日本もこける」とはよく言ったものだ。ここには主権国家としての誇り、自前の政策などはさらさらない。


戦後約60年、もうそろそろ日本は完全に自立し、自ら選択し、そのことの結果責任も自ら落とし前をつける、一人前の国家となるべきではないか。もし民主党が政権をとったら景気対策、年金問題など喫緊の課題に着手するだろうが、以上に書いてきた国家的自立のプラットフォームをなんとしてでも提示してもらいたい。

なぜなら、オバマはたぶん日本を弟分の国家として捉えていない。

中国、韓国などと同じように相対的に、あくまでも客観的に見ているだろうと思われる。だから、日本が国家としてアメリカと対等な関係を構築する場合、立憲主義と民主主義の確固たる根拠を改めて示すべきだ。


 その嚆矢が憲法9条の改定問題である。絶対平和主義の象徴のように言われ、世界に冠たる平和憲法を持っていると自画自賛する人も多い。とはいえ、GNP3パーセントの防衛費を使う自衛隊が存在し、ポスト冷戦以降も巨額の思いやり予算を費消する在日米軍が駐留する。

ロック、ルソー、ホッブズ、カントなど古の社会契約論者からみても、ある国が絶対平和憲法を声高に唱えたところでそれは幻想にしか過ぎない、と冷笑されるに違いない。飢えた猛獣がいる草原で、私は平和主義だと泰然としているカモシカの運命はいかに・・(拙い比喩だな)。

敗戦後まもなくの日本において、私たちの親世代はこの平和憲法を何の疑いもなく受容し、金科玉条としてきた。アメリカの庇護の下、それは確かに現実でありえた。

 オバマ政権下でそれが可能か、私たちはよくよく考えてみなければならないだろう。


識者によれば「集団的自衛権を憲法で否定しておくというのは、合理的自己拘束として、充分にありうる選択肢」(長谷部恭男)という意見もある。分かるようで分からない。合理的自己拘束とはなにか。国家間の利害関係を解決する手段として、局地的とはいえ「戦争」がいまだに存続しているなか、根拠のない性善説に依拠した法体系は有効か。その合理性はあるのか。

 こういった議論を、民主党はこの際、国民レベルで遡上にのせるべきである。そして私たちの合理的な「自己決定」と「自己責任」を確認しなければならないだろう。

 二番目が行政機構、立法機関その構造改革だ。

現在、日本の4、5世帯のうち一世帯が税金で食べていると言われる。つまり一般家庭の3,4世帯が公務員・準公務員及び行政に依存する民間団体の家族一世帯を養っていることになる。これは異常な状態である。


国会で審議されることのない特別会計が、一般会計の3倍近くもあり、そのため特殊法人、公益法人が潰してもつぶしても生まれてくる。

かつて司馬遼太郎が「日本の統治機構について」、結局日本の政府の本質は「太政官からすこしも変わっていない」ことに気づき衝撃をうけた、と書いていた。

敗戦後、財閥も農地も、教育も根本から解体されたのに、明治以来の日本官僚はそのまま生き続けてきた。明治維新の頗る優秀な「太政官」とその支援者が何世代にも亘って日本を担ってきたのだ。これには文句のつけようがない。

しかし、自己保身の拡大と、大衆の無知に付け込んで税金を食いつぶす人間と組織を乱造したことは糾弾すべきだろう。

さらに、太政官の末裔が政治家となり、はたまた2世,3世の政治家を難なく送り出す構造を定着させたのは、彼らの権力志向と世渡りの知恵の凄さを実感せずにはいられない。

民主党代表もその口であるが、これら行政機構の構造改革はぜひ実現してほしい。

以上の2点は2,3年でできるわけがない。

議論、調査、幾多のシミュレーションを試行する息の長い仕事になる。

 

 

アメリカ大統領がオバマになる。日本政府が民主党になる。ここにはなんら相関関係はない。しかし、国家と国家の正常な対等関係を築くには、これまでの矛盾を解消し、しかるべき基本的な枠組みを構築すべきだろう。ましてや現在の金融危機が世界大恐慌に拡大する最悪の事態におよぶ場合、民主党のオバマは、まず自国の国益を優先させるだろうし、これまで以上の負担を日本に肩代わりさせる冷淡さをもっている、と私は思う。どこかの共和党のおぼっちゃまとは違うのだ。

 

 最後に日本の民主党に望むことがある。

教育の荒廃をなんとかしてほしい。個性の尊重とか、日本の伝統とか、日本人としての品格を磨くとか、抽象的な教育論はいい加減やめて、事実を客観的に把握する素養や、与えられた対象に対して冷静に判断できる能力をもつ若者を育ててもらいたい。このままだと他者に依存し、他人の考えに乗っかるだけのパラサイトな大人が増えるばかりである。




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