ばぶちの仕事しながら司法試験を突破し弁護士になりました

仕事をしながら司法試験に合格したばぶち(babuchi)の試験勉強記録+その後です。

恐喝

2013年05月01日 00時34分58秒 | 刑法
刑法の恐喝や銀行振り込みのところは落としがちです。

恐喝は、いつの時点で既遂に達したかが結構問題になります。

また、被害者が誰かという点も見逃しやすいです。
三角恐喝の事案です。


銀行振り込みは、財産上の利益か、財物かの認定で、1項か2項かが分かれますので、注意ですね。

構成要件

2013年04月28日 18時46分03秒 | 刑法
傷害罪は、人の生理機能の侵害を意味します。

答案の添削とかには、人の生理機能の傷害が傷害罪です、と書かれたのがありましたが、添削者が間違っていますね。




賄賂罪は、公務への公正と社会の信頼であり、賄賂とは、公務員の職務行為との対価関係にあるかどうかで決します。

そのため、賄賂との対価関係にあればよく、人の需要、欲望を満たす一切のものが、賄賂の目的物となります。

誤想防衛の続き

2013年02月25日 23時43分39秒 | 刑法
先日の問題はひねると難しくなりそうです。


夜間、AはBを後ろから殴ってBは道に倒れ込んだ。Aはすぐさま逃げたが、甲がそれを見ていたため、Bを助けようとした。

しかし、BはAがさらに殴ってくるものと勘違いし、甲に殴り掛かった。しかも、Bは甲が殴ったものと思っており、その手を止めなかったため、甲は腹が立ったので、甲は持っていたナイフでBの顔面を切り付けた。

Bは顔を押さえつつ、よろけたため、後ろから自転車に乗ったCと接触し、Cも転倒した。

その際、BとCは地面に頭を強打し、死亡した。


甲は何罪か?



Bは誤想防衛で違法性が阻却されないため、Bの勘違いして殴り掛かる行為は急迫不正の侵害に当たります。

そこで、甲はBに対して、攻撃の意思と防衛の意思があるため、防衛の意思は否定されませんが、防衛行為の必要性と相当性のうち、相当性を欠きます。

そのため、傷害致死罪が成立し、過剰防衛による刑の減免が認められます。


一方、Cに対しては、Cは何ら攻撃をしていないため、甲にとっては誤想過剰防衛、あるいは、緊急避難にあたると考えられます。


誤想過剰防衛と考える場合には、過剰性の認識があれば故意あり、過剰性の認識がなければ故意が阻却され過失犯の成否が問題になります。

また、故意は規範に直面した場合の反対動機の形成の有無であり、規範は構成要件において類型化されていること、また、故意の個数は構成要件において抽象化されているため、問題になりません。

そして、甲は、Bに対して過剰性の認識があり、その結果、BとCに対して過剰な行為による結果が発生しているため、両者に対して故意犯が成立します。


さらに、36条2項の適用ないしは準用によって刑の減免があります。
(過剰性の認識がない場合は過失犯の成立があり、過失犯が成立されれば刑は免除されないのに、過剰性の認識があり故意が阻却されない場合に、36条2項によって刑の免除が認められるのは刑の不均衡として、刑の免除は認められず、減軽のみ認めるとする考えもあります。)



次に、Cとの関係では緊急避難と考える場合には、Bに対する過剰な防衛行為がCに及んでおり、また発生した結果との間に法益権衡が認められないことから、過剰避難になるかと思います。
なお、やむを得ずにしたとはいえず、補充性が否定される場合には、過剰避難も成立しないことも考えられます。


以上から、
Bに対しては傷害致死罪の過剰防衛による刑の減免。
Cに対しては傷害致死罪の成立+36条2項の刑の減免(減軽)。
又は、
Cに対しては傷害致死罪の成立+37条1項ただし書きの刑の減免。

といった感じでしょうか。



Cに対してはちょっと自信がありません。




※3月5日追記

Cに対しては、大阪高判平成14年9月14日の判例が想起されます。

大阪高判の事例を本事例に即しますと、以下のようになるでしょうか。


甲は、Bから暴行を受けているCを助けようと自動車を急後退させたが、Cを轢過し、死亡させた。

判例は、被告人はが主観的には正当防衛だと認識している以上、Cを死亡させた行為については、故意非難を向け得る主観的事情は存在しないというべきであるから、いわゆる誤想防衛の一種として、過失責任を問い得ることは格別、故意責任を肯定することはできない。



とすると、誤想防衛の一種として故意責任を阻却するのですから、誤想過剰防衛の一種も含まれるのではないか、と見ることもできそうです。


ただ、あの事例は、本件に関していえば、Bに対する正当防衛が成立していた事例であり、過剰防衛の場合は射程外ですので、Cに対して誤想過剰防衛の一種としても故意は阻却しないのもありだと思います。

誤想防衛

2013年02月24日 21時49分52秒 | 刑法
誤想防衛の話です。


誤想防衛は、正当防衛としての構成要件があると思ったのに、実際は無かった場合のことです。

この場合、故意説からは、違法性阻却事由の錯誤であり、反対動機の形成の機会がなかったのであるから、故意責任は認められない、と言えます。


以下のような勘違いしそうな事例に気を付けなければなりません。


夜間、AはBを後ろから殴ってBは道に倒れ込んだ。Aはすぐさま逃げたが、甲がそれを見ていたため、Bを助けようとした。

しかし、BはAがさらに殴ってくるものと勘違いし、甲に殴り掛かった。しかも、Bは甲が殴ったものと思っており、その手を止めなかったため、甲もBを殴り返し、Bは全治1週間の怪我を負った。

甲は何罪か?



この問題で、このような回答は間違っています。

甲は、暴行し、Bは傷害を負ったため、傷害罪が成立する可能性がある。
しかし、甲は、Bが殴ってきたので、これを止めるために殴り返している。この時、BはAが殴り掛かってきたと思い、誤想防衛である。

誤想防衛は、違法性阻却事由の錯誤に当たり、故意が阻却され、犯罪は成立しない。

そこで、Bの殴り掛かる行為は、急迫不正の侵害とはいえず、正当防衛は成立しない。
では、緊急避難が成立し、違法性が阻却されないか。



















勘違いしやすいのが、Bが殴り掛かってきたのが誤想防衛であり、故意が阻却し、犯罪が成立していないことです。

この場合であっても、Bの違法性は阻却されないため、Bの殴り掛かってきた行為は急迫不正の侵害であり、甲は、正当防衛が成立する可能性は否定されないことです。


犯罪が成立しないのは、どの点かに注意しないと見落としてしまいますね。

承継的共同正犯

2013年02月24日 21時39分23秒 | 刑法
承継的共同正犯は、著名な論点です。

通常、結合犯について議論がされ、強盗罪や詐欺罪の時に問題になりやすいです。


昨年、最高裁判例として、傷害罪の承継的共同正犯が出たそうです。


最高裁判例



甲、乙がAを暴行していて傷害を負い、途中から丙が加担して、Aがさらに重篤な傷害を負った場合、丙に、甲、乙が発生させていた結果も合わせた重篤な傷害結果を帰責できるか、という問題です。


詳しくは、以下のとおり。
【裁判要旨】
「他の者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に,被告人が共謀加担した上,更に暴行を加えて被害者の傷害を相当程度重篤化させた場合,被告人は,被告人の共謀及びそれに基づく行為と因果関係を有しない共謀加担前に既に生じていた傷害結果については,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負う。」


論文的には、このような感じでしょうか。

 承継的共同正犯は、共同正犯が一部実行全部責任として、正犯として処罰されるのは、相互に意思の連絡の下、互いの行為を利用補充し合って犯罪を実現したことにある。すなわち、共同実行の意思と共同実行の事実である。
 また、承継的共同正犯の場合、先行行為を積極的に利用した場合には、後行行為とを互いに利用補充し合う関係にあるといえることから、承継的共同正犯を肯定する。


 傷害罪の場合、先に傷害結果が発生したところに丙が加担したのは、甲、乙の先行行為による傷害結果を積極的に利用しようとする意図ではなく、単に丙の暴行の動機、契機に過ぎないのであって、共同実行の意思も事実もないといえる。

よって、丙が加担する前の傷害結果については、丙は帰責されない。

過失の共同正犯の意義

2013年01月03日 12時05分53秒 | 刑法
以前、過失の共同正犯を検討しました。

過失の共同正犯参照。


これを論じる意義について考えてみます。

●両者に因果関係が否定され過失の単独犯が成立しない場合。

この場合は、両方合わさって因果関係が肯定されるなら、共同正犯として処罰可能になりますので、過失の共同正犯を認める必要があります。


●一方に因果関係が否定され過失の単独犯が成立しない場合

この場合は、当該一方に対して因果関係を肯定するため、共同正犯を成立させることで、両者が処罰可能になりますので、過失の共同正犯を認める必要があります。


●両者に因果関係が肯定され過失の単独犯がそれぞれ成立する場合

この場合は、実体法上は過失の共同正犯を認める意義がないとも思えます。
しかし、訴訟法上、立証が容易になるとか、量刑に影響するとかの意義がありますので、過失の共同正犯が肯定できるなら成立させた方がいいと思います。

ただ、過失の単独犯がそれぞれ成立するため、過失の共同正犯を認める必要はない、とするのもアリだとは思います。

窃盗の機会、強盗の機会

2013年01月03日 11時57分05秒 | 刑法
新年あけましておめでとうございます。

今年は合格する年にします。



過去問は本当に重要です。


暴行、脅迫が窃盗の機会に問題になるのは、事後強盗罪。

暴行、脅迫が強盗の機会に問題になるのは、強盗致死傷罪。


●窃盗の機会
時間的・場所的な近接性
密接的な関連性

これがあれば、事後強盗罪が成立。

ただ、これを認定するために、窃盗の機会に行われた暴行、脅迫といえるかどうかを評価する必要があります。


●強盗の機会
時間的・場所的な近接性
密接的な関連性

因果関係

これがあれば、強盗致死傷罪が成立。

ただ、これを認定するために、強盗の機会に行われた暴行、脅迫といえるかどうかを評価する必要があります。

また、強盗の機会の場合、負傷、死亡結果との因果関係が必要になります。


強盗の機会に行われた暴行、脅迫がある。
これによって、負傷、死亡結果が発生したといえる因果関係がある。
といえる場合に、強盗致死傷罪が成立します。


もちろん、殺意があれば、強盗殺人罪です。

過失の共同正犯

2012年12月18日 19時34分30秒 | 刑法
しっかり復習が必要な過失の共同正犯です。


共同正犯は、一部実行全部責任であり、正犯として処罰し得るのは、互いに意思の連絡の下、相互に利用補充し合って、いわば各自の行為が一体となって犯罪を実現したことに一部実行全部責任の根拠があるといえる。

そのため、共同正犯といえるためには、
共同実行の意思
共同実行の事実
が必要となります。


【共同実行の事実】
過失を客観的結果予見可能性を前提にした客観的注意義務(結果回避義務)違反として実行行為性を認める。
この注意義務違反を共同でなし得る。


【共同実行の意思】
不注意な行為を共同し合う心情が共同実行の意思と認められる。


まとめると、
相互に安全を確かめ合う共同の注意義務(結果回避義務)が課せられ、それに共同して違反した場合には、共同実行の意思及び共同実行の事実が認められる。

ただし、共同の注意義務(結果回避義務)があり、これを相互に違反したとは、相手方にも守らせるような義務を相互に含む注意義務の場合に限定することになる。




客観的結果予見可能性あるか?
↓あり
客観的結果回避義務があるか?
↓あり
客観的結果回避義務は相互に義務を監視し合う関係か?
↓関係である
客観的結果回避義務に違反したか?
↓した
過失の共同正犯あり

の順番で検討するといった感じでしょうか。

刑法の答案の書くとき

2012年12月09日 17時31分37秒 | 刑法
いまさらながら答案の書き方ですが、~と考える、と書くと、理由が必要だと思います。

しかし、判例とかが使っている定義とかの場合で、判例以外の説が存在する場合は、~という、と書くと限定している感じなので、~と考える、と書いてしまいますが、理由が特に思いつかない場合が多々あります。

例えば、傷害罪で、
生理機能障害説が人の生理機能を害するような場合に限定するべきだとするのに対し、
完全性毀損説が生理機能の障害はもとより、身体の外貌に重大な変化を生じさせたような場合にも傷害とするべきである
とする点で異なります。

この場合、前者の説を取る場合に理由を書かずに、
「傷害とは人の生理機能を害することをいうと考えるところ、本件甲は~」と書いてしまうと、理由が書いていません。

このような場合に、理由も一言必要だと思うのですが、刑法の場合、あまり理由が思いつかない場合もあります。


他にも、違法性の実質は、社会的相当性を逸脱した法益侵害又はその危険にあることをいうと考える、と書くと、理由がありません。

このページには、
「違法性判断においては法益侵害以外の要素、特に社会倫理的な観点をも取り入れなければ多くの複雑な利害が絡む現代社会においては行為の違法性の程度を適切に判断なし得ない。従って結果無価値のほかに、行為無価値の要素(行為の種類・方法・行為者の意図・目的などの要素)をも含めて法規範の基礎となっている社会倫理秩序に照らし違法性を決定するべきである。そこで違法性の実質は社会的相当性を逸脱した法益の侵害またはその危険性であると考える。」
とあり、これらの理由をまとめる必要があるかもしれません。


法益侵害及び社会倫理秩序に照らし違法性を考慮すべきであるから、違法性の実質は、社会的相当性を逸脱した法益侵害又はその危険にあることをいうと考える。
このような感じでしょうか。

法益侵害及び社会倫理秩序に照らし違法性を考慮すべきであるから、違法性の実質は、社会的相当性を逸脱した法益侵害行為又はそれを惹起したことをいうと考える。



こういう風に理由を常に述べることが必要なんですが、定義のような形で覚えているものの理由付けが出てこない場合があり、その時は仕方ないので、後から学習しなければ、と思います。

なりすましの罪

2012年11月09日 00時10分58秒 | 刑法
先日書いたなりすましについて、他人の名前を自己と偽って、すなわち、虚偽の名前を登録すれば、電磁的記録不正作出罪に当たる可能性があります。


人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利に関する電磁的記録を不正に作った場合に成立します。


客体は、電磁的記録であり、人の事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関するものです。

電磁的記録は一定のシステムのもとで用いられて証明機能を果たすものですから、人の事務処理の用に供するものに限ることになります。


なりすましのために登録することは、人の事務処理の用に供するために使用されるといえるので客体に当たりそうです。


これを不正に作出すれば本罪が成立しえるといえそうです。


ただ、実害が少なく、違法性が小さいといえそうなため、可罰的違法性がないといえるかもしれません。

事例から刑法を考える

2012年10月21日 22時37分48秒 | 刑法
事例から刑法を考えるをやり終えました。

本当に疲れる問題集でした。

明らかに新司法試験を超えている問題や解説が多々あります。

著者の要求するレベルがものすごく高い。


ただ、私は今まで刑法は判例を徹底してやってきていませんでした。旧司時代の刑法短答を知っている方なら判例より学説が重要というのはよく知っているかと思います。

しかし、予備試験、新司法試験の短答は判例が重要なキーになりますし、判例を知らずして短答では点が伸びません。

何となくの知識しかなかったのですが、この問題集をこなしていくうちに刑法判例百選、山口厚教授の刑法総論、各論をかなり読み込みました。

特に山口厚教授の刑法総論、各論は問題集とリンクする部分がかなりあり、理解が深まりました。


しかし、パチンコの体感器の問題とかは鬼ですね。山口厚教授の本にも載っていませんし、判例百選にも載っていません。
しかし、重要だということで、解説を何度も読みました。

パチスロのメダルを体感器で取得すると、いつが既遂かというのは深い洞察力が必要です。


この本で理解力が深まった分野は、
被害者の同意
不法領得の意思
横領と背任の区別
共犯
住居侵入
過失
です。

これらの分野に苦手意識がある人は読むことで理解が深まると思います。

ただ、生半可な知識では混乱するおそれがあるので、旧司短答ぐらいの学説の錯綜具合を知っている方でなければおススメできません。

こちらの方が全部の問題について参考答案を作ってらっしゃいます。
非常に参考になりました。

平成23年度合格者



工藤講師もあまりおススメしていませんでした…。

工藤講師のブログ




むしろこちらをススメています。
ロースクール演習 刑法

緊急避難

2012年10月21日 10時27分53秒 | 刑法
共同正犯の事案で、両者に緊急避難が成立するのは、検討を慎重にしなければならなさそうです。


緊急避難の要件に正当防衛と異なり、補充性と法益権衡が要求されているからです。



甲と乙は並んで街を歩いていた。

前から車が暴走してきた。

左側は空き地であり、右にベビーカーを引いた親子がいたので、甲は左の空き地によければ大丈夫と思っており、客観的に左の空き地に避ければ問題なかったが、乙は甲よりも右側にいたため、空き地に避けるのでは間に合わなかった。

そして、乙が右によけろと言ったので、甲と乙はとっさに親Aとベビーカーに乗っていた赤ちゃんBを突き飛ばして難を逃れた。

親子ABは骨折などの傷害を負った。




共同正犯の場合、違法性阻却事由は個別に考えると、甲には左によければ大丈夫と思っており、実際にも左側に空き地がありやむを得ずにしたとはいえず補充性が認められない。そのため、親子ABに対する傷害罪が成立する。

一方、乙は空き地に逃げられず右にしか避けられないため緊急避難により不可罰になります。

はたしてこれは妥当なんでしょうか。


補充性の要件を緩めて、やむを得ずというのは、とっさになされるものなので、別の回避方法があってそれを思っていても、他方の共同正犯かつ緊急避難者が別の回避方法がないと判断したならば、全体として補充性は満たされる、とかでしょうか?

不自然ですね。


なので、甲は補充性がなくても過剰避難が成立するとしかない気がします。


この補充性がないなら過剰避難は成立しないとする考えもあり、これを採用するなら、やはり甲は傷害罪2罪(観念的競合)が成立してしまいます。

相当因果関係

2012年10月18日 23時54分46秒 | 刑法
刑法で悩みが尽きない議論の一つが相当因果関係ではないでしょうか。

事例から刑法を考える事例13で難しすぎる話がありました。



相当因果関係において、いかなる説を採用するかという考えもありますが、そもそもどの段階の事例かということも考えなくてはなりません。


一言に相当因果関係といっても意味が異なります。


折衷的相当因果関係説などは、行為時の特殊事情をどの範囲で斟酌すべきかという問題です。

なので、行為時に偶然的に発生した事情は除外し、行為時に行為者が特に認識していた事情を排除する必要はないため、行為時に一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎に一般人を基準に判断します。


一方、行為後に介在した異常な事態をどの範囲で斟酌すべきかという問題に危険の現実化を用いるべきです。


類型化すると、以下のようになります。

①行為時の特殊事情(相当性説)
②行為後の特殊事情
(1)被害者をことさら脆弱な状態に置いた類型
介在事情が突飛なものである場合であっても危険の現実化を認める。
(2)介在事情を誘発した類型
介在事情のリスクを許されないほど、ことさらに高めることで危険の現実化を認める。
(3)介在事情をはじめから無視できる類型
介在事情がなくても行為が直接的に具体的結果を引き起こすだけの力を持っている類型である。

大阪南港事件は②(3)の類型である。

事例検討

2012年10月18日 23時47分57秒 | 刑法
先日の下記の罪責の検討です。



甲はパスタ屋に入った。

好物のニンニクの効いたペペロンチーノを頼み食べた。

しかし、財布がないことに気付いた。

トイレの場所を聞いて外にあったらトイレに行く振りをして逃げようと思い、店員にトイレはどこですか?と聞いたら、
『店の外に出て角を曲がったところです。』
と言われたので、トイレに行って来ます、といい、店を出てすぐに逃げた。

しかし、勘定がまだだったので逃げたのに気付いた店主が金を払えと追い掛けて来たので、甲は店主を殴って倒し、逃げた。

後日街で店主にすれ違い、店主に金を払えと詰め寄られたためまた殴って逃げた。

甲の罪責は?







検討すべき罪責
・2項詐欺罪
・2項強盗罪
・暴行罪


2項詐欺罪
甲はパスタのお代を払わずに逃げるつもりで店員にトイレの場所を聞き、トイレに行ってきますと言っている。

トイレに行く振りをして逃げようとしている点で欺く行為があり、店員はトイレに行きたいのだと錯誤に陥り、トイレの場所を教え甲に行かせているという処分がある。

しかし、店員には、甲に支払いを免れさせるための処分をしていたとはいえないが、このような場合に処分意思が必要か。

詐欺罪は錯誤に陥った被害者が処分行為をするものであり、この点において瑕疵ある意思に基づく処分を行っている。
そして、欺く行為が行為者の債務を免れるためになされており、結果的に債務が免除される結果となる処分行為があれば、それだけで瑕疵ある処分意思であり足りるといえ、その処分を債務者に対して免除させることまでの意識は必要とはいえないと考える。

よって、債務免除のための処分意思までは必要ではなく、客観的に処分行為を行えば債務者が債務を免除されることになれば、錯誤に基づいた処分といえる。

本件は、トイレに行かせていることによって、結果的に債務者に債務が免除されるきっかけを与えている処分行為であるといえる。

もっとも、店主が気付いており債務が免除されるに至っていないため、2項詐欺未遂罪が成立するにとどまる。


2項強盗罪
店主に金を払えと言われており、これを免れるために暴行を加えている。
店主は倒されているのであり、甲の暴行によって店主は反抗抑圧されているため、強盗罪の暴行に当たる。

そして、飲食店での出来事であり、ここで逃げられると店主が後日甲に会うことはまず考えにくいため、債権者たる店主の債権の行使が不可能になる確率が高く、あるいは著しく困難になる。
よって、逃げた時点で債務の支払いが免れたといえ、2項強盗罪が成立する。


暴行罪
後日、甲はたまたま店主と町ですれ違い、店主から代金を請求されている。甲は代金を支払っておらず債務は依然存在する。

そして、甲は債務の支払いを免れる目的で暴行を加えて店主は倒れていることから、店主は反抗抑圧されており、その後甲は逃げたため債務を免れたといえ、暴行罪ではなく、2項強盗罪が成立する。


ここで、先に2項強盗罪が成立したのに、さらに2項強盗罪が成立するのは、同じ財産に対する罪であり二重評価になるとも思えるが、後の暴行は先の暴行とは時間的場所的接着性もなく別個独立した犯罪と考えるべきであり、同一の財産に向けられてはいるが同一に評価できず、2度の2項強盗罪と評価すべきである。財産的価値は一つしか無い点は、量刑で考慮すべきと考える。

もっとも、先の2項詐欺未遂と2項強盗罪とは、時間的場所的接近があること、同一の財産に対して向けられていることから包括一罪と考え、後の2項強盗罪とは併合罪の関係になる。




※2項詐欺罪は処分意思必要説なら犯罪不成立です。
※全部を2項強盗罪の包括一罪とする考えもあると思います。しかし、それは時間的場所的近接性がなく、なぜ別個の犯罪と構成しないのか、財産的価値が同一であれば、別の日に何度暴行をしても一罪になるのかを説明しないといけないと思います。

刑法事例

2012年10月16日 22時53分09秒 | 刑法
刑法事例

特に問題集にあるわけではないので、解答もありません。

ただ、後日検討します。




甲は、A宅に侵入し、机の引き出しから現金10万円と銀行のキャッシュカードを盗んだ。

しかし、キャッシュカードの暗証番号がわからず、現金を下ろせなかった。

3日後、Aのblogを発見した。

Aのblogのコメント欄に、
年齢が私と近そうですね。誕生日はいつですか?
と尋ねたところ、
○月○日です。
と返事が返ってきた。

そこで盗んだキャッシュカードをATMに入れてこの誕生日を暗証番号として入れたところ、正しく入力されたと表示されたため、甲の自分の口座に50万円を振り込んだ。


甲の罪責は?