ロースクール労働法 No.20
1 解雇
(1) 本件Y社は、Xを解雇したのか。Xが自主退職であれば、解雇の無効を述べる必要が無いため、検討する必要がある。
(2) 本件において、A社長は、Xに対して、給与課への配転か、退職かの二者択一を迫っている。XとY社との労働契約が秘書業務への限定契約であれば、Xを秘書として雇用継続する意思がないことを一方的かつ確定的にXに対して表示したものといえる。
(3) 本件、XとY社の契約は秘書の職種限定契約か。
Xは専門学校の秘書コースを修了し、他社で働いていたが、社長秘書業務希望の方という広告を見て、Y社の社長秘書として雇用されている。そして、5年という長期間秘書業務に就いている。確かに、5年間務めたからといって直ちに秘書業務限定契約があったとはいえない。しかし、A社長が二者択一を迫る段階まで、別の部署への配属を指示命令したわけではないことから、Y社がXの職種を社長秘書業務に限定していたものと見ることができる。
(4) したがって、Xは社長秘書業務の職種限定契約があったといえる。
そして、給与課への配転か、退職かを迫る二者択一の意思表示は、Xを社長秘書として継続して雇用する意思を欠く。また、Xとしては自己都合退職することや残業が多く職種が異なる給与課への配転についてメリットはなく、Xは継続する意思を有していたといえる。よって、A社長の行為は、解雇の意思表示といえる。
2 解雇権濫用
(1) 解雇権は、期間の定めのない雇用の場合、民法627条1項前段からいつでも解雇可能である。しかし、労働者に著しく不利益であるから、原則就業規則で定められていなければならない。もっとも、それ以外の場合も常に解雇できないわけではなく、客観的合理的な理由があり、社会通念上相当であれば解雇することも認められる(労契法16条参照)。
(2) 本件は、Y社はXが競合会社であるB社の社長の息子と結婚することになったためである。Y社はB社に企業秘密が流出することを懸念したことにより、解雇している。しかし、B社社長の息子は別の会社の平社員であり、B社との関係性は薄い。それにもかかわらず情報流出を懸念することは、抽象的な危険であるといえる。また、Xは労働契約上及び社長秘書という職種の特殊性から当然に秘密保持義務が存在するのであるから、XがB社社長息子と結婚することが直ちに情報流出に結び付くものではなく、Xを解雇するための理由としては客観的合理的な理由とは到底いえない。
(3) よって、解雇権濫用に当たる。
3 損害賠償請求
Xは職場復帰を求めておらず、解雇されなかったら得られたであろう賃金などの逸失利益を求めている。本来、解雇権が濫用であり無効とすれば、労働契約上の地位が喪失せず、賃金を得ることができるため、逸失利益とはいえない。しかし、Xは職場復帰を求めていないため、賃金に代わる逸失利益を請求している。したがって解雇権が無効であるため、一定程度の賃金請求に代わる逸失利益を求めることができる。
また、それに伴い、退職金も請求することができる。
さらに、突然後任のCへの引き継ぎを命令され、Xの意思に反することが明らかな二者択一を迫るY社の一連の行為は、Xに精神的苦痛を与えるものであるから、慰謝料請求権が生じる。
1 解雇
(1) 本件Y社は、Xを解雇したのか。Xが自主退職であれば、解雇の無効を述べる必要が無いため、検討する必要がある。
(2) 本件において、A社長は、Xに対して、給与課への配転か、退職かの二者択一を迫っている。XとY社との労働契約が秘書業務への限定契約であれば、Xを秘書として雇用継続する意思がないことを一方的かつ確定的にXに対して表示したものといえる。
(3) 本件、XとY社の契約は秘書の職種限定契約か。
Xは専門学校の秘書コースを修了し、他社で働いていたが、社長秘書業務希望の方という広告を見て、Y社の社長秘書として雇用されている。そして、5年という長期間秘書業務に就いている。確かに、5年間務めたからといって直ちに秘書業務限定契約があったとはいえない。しかし、A社長が二者択一を迫る段階まで、別の部署への配属を指示命令したわけではないことから、Y社がXの職種を社長秘書業務に限定していたものと見ることができる。
(4) したがって、Xは社長秘書業務の職種限定契約があったといえる。
そして、給与課への配転か、退職かを迫る二者択一の意思表示は、Xを社長秘書として継続して雇用する意思を欠く。また、Xとしては自己都合退職することや残業が多く職種が異なる給与課への配転についてメリットはなく、Xは継続する意思を有していたといえる。よって、A社長の行為は、解雇の意思表示といえる。
2 解雇権濫用
(1) 解雇権は、期間の定めのない雇用の場合、民法627条1項前段からいつでも解雇可能である。しかし、労働者に著しく不利益であるから、原則就業規則で定められていなければならない。もっとも、それ以外の場合も常に解雇できないわけではなく、客観的合理的な理由があり、社会通念上相当であれば解雇することも認められる(労契法16条参照)。
(2) 本件は、Y社はXが競合会社であるB社の社長の息子と結婚することになったためである。Y社はB社に企業秘密が流出することを懸念したことにより、解雇している。しかし、B社社長の息子は別の会社の平社員であり、B社との関係性は薄い。それにもかかわらず情報流出を懸念することは、抽象的な危険であるといえる。また、Xは労働契約上及び社長秘書という職種の特殊性から当然に秘密保持義務が存在するのであるから、XがB社社長息子と結婚することが直ちに情報流出に結び付くものではなく、Xを解雇するための理由としては客観的合理的な理由とは到底いえない。
(3) よって、解雇権濫用に当たる。
3 損害賠償請求
Xは職場復帰を求めておらず、解雇されなかったら得られたであろう賃金などの逸失利益を求めている。本来、解雇権が濫用であり無効とすれば、労働契約上の地位が喪失せず、賃金を得ることができるため、逸失利益とはいえない。しかし、Xは職場復帰を求めていないため、賃金に代わる逸失利益を請求している。したがって解雇権が無効であるため、一定程度の賃金請求に代わる逸失利益を求めることができる。
また、それに伴い、退職金も請求することができる。
さらに、突然後任のCへの引き継ぎを命令され、Xの意思に反することが明らかな二者択一を迫るY社の一連の行為は、Xに精神的苦痛を与えるものであるから、慰謝料請求権が生じる。