私の大好きなパリ在住の画家、早川俊二氏の個展が3年ぶりに日本で行われる。早川氏は、1950年長野生まれの59歳。1974年に渡仏して以来、35年間もパリで画家として自身の進むべき道を黙々と模索しながら、一歩一歩精進されている。
今回の個展の作品の代表作が早川氏よりメールで届いた。写真だが、思わず息をのんでしまうほど神々しい色彩の美しさ。本物に出会ったら、どう感じるのだろうか。1人でも多くの方に早川作品を見てもらいたいので、今回の投稿で、早川さんの許可を経て、個展の前に3点紹介しよう。
「まどろむアメリー 1」2008年 写真提供 早川俊二
「「光と陰」とは、絵の具では「白と、黒・茶」になりますが、僕はそれらの絵の具の性質と溶剤のバランスに向かい合い、長い年月を要しています。迷いなく外に向かう光の強さと、目立たぬ存在でありながら静かにうちに向かう陰の強さ、という関係で世界が釣り合うような絵をイメージしています。頭の中では、これらの絵の具と溶剤を自由に思いのままに使いこなせた時には、僕の求めている世界、空間が、自然に生まれ出てくるものと見えています。幾つもの越えねばならぬ壁はありますが、この3年間の中でまた一歩、望む世界に近づけたように感じています。」(早川俊二)氏本人の個展案内文より
「静物 (アフリカの壷、貝、碗)」2008年 写真提供 早川俊二
「この作品は、物が置いてある床部と背景にあたる部分の境目が、向かって壷の左側に認められるが、右側にはほとんどない。モチーフを俯瞰ではなく、ほぼ水平に見ている図としては、挑戦である。3個のモチーフのそれぞれの位置にも注目したい。それぞれの位置が、そこに物自らを落ち着かせ、空間を生んでいる。その空間は、揺らぎを伴いながら広がりを創り出している。」(伊藤厚美)「AS アート・スクエアの会」会報誌 2009年3月号 VOL31より
私が早川さんと出会ったのは、1992年の日本での初個展の英字新聞、ジャパン・タイムズでの取材だった。当時アラフォーに突入したばかりの早川さんは、まだ日本では無名で、話を聞きながら、純粋にご自身の芸術を磨かれている若き修行僧のような印象を受けた。黒目がちの大きな目が彼の芸術に対する純粋さを映しだしていた。
その時のジャパン・タイムズの私のアートレビューを振り返ると、「In search of the universality of beauty 」(「美の普遍性を求めて」)という見出しで(1992年12月6日付)、1枚の少女の絵を紹介している。
「私は、美の普遍性を求めたい。それは、我々が実在としてつかむことができない神のようなものだ。」と語る早川さんの言葉で記事は始まっている。早川さんの幾度も塗り込められたであろう分厚い絵肌の中で、浮き出てくる「アトランティック」という少女の存在感は、白黒の新聞の紙面で、あたかも彫刻のように浮き出ていた。その吸引力はそれまで味わったことのないほど強いもので、だからこそ、どうしても記事にしたかったのだ。
その後、何回か彼の個展を拝見した。アートの専門家ではない私でも、早川さんの絵画を見ると、なぜか穏やかな気持ちになれ、その絵画の持つ不思議な魅力に磁石のように引き込まれ、気持ちが一体となれた。そういう絵というのは、なかなかない。パリの町で、早川絵画を見い出したアスクエア神田ギャラリーの画廊主、伊藤厚美氏とも親しくなり、「よくぞパリにいた日本人画家を発掘したものだ」と感心したものだ。
その後、1997年にアスクエア神田ギャラリーの個展で発表した「アフリカの壷」という作品が、読売新聞の日曜版の第一面の芥川喜好氏による「絵は風景」という人気コーナーで、1ページにわたってカラーで大きく取り上げられ、日経新聞や朝日新聞などでも個展がたびたび紹介されるようになり、一般のアート愛好家にも早川氏の存在が知られるようになる。
芥川氏は、そのときの記事で、「自然で柔らか 空間の不思議」と題して、その絵をこう表現している。「さわさわと、空気の粒子が手に触れんばかりに粒立って視界を侵している。そのなかに影のように壷はあらわれる。むしろ、空気の粒子がそこだけ壷のかたちに凝集して周囲と連続しているという感覚だ。つまり壷と空間はほとんど同質のものに見える。粒立つ空気の摩擦によるものか、画面は内側からほのかな熱と光を発して適度な温かみをたたえている。そのまま包みこまれてしまいそうな、快適な深みをもつ空間が生まれている。こんな絵に接するのは初めてという気がする」(1997年12月7日付読売新聞日曜版より)「さほど広くはないが清潔な印象の画廊の壁面で、絵は周囲の空気とひそかに通じあいながら静かに燃焼していた。様式を主張するのでも、描かれるものを強調するのでもない、もっと自然で柔らかな吸引力にみちた画面だ。」と芥川氏は続く。
早川氏の空間表現の巧みさ、そして、「内なる光をもつ」作品(佐藤よりこ氏)と批評家は指摘する。専門的な解釈は批評家に任せて、言葉に邪魔されることなく、私たちは早川作品とじっくり対話しよう。そう、世の中のさまざまな煩わしいことから離れて、自分自身ともゆっくり向き合えるような時間と空間を作り出す威力が早川絵画にはあるのだ。
「まどろむアメリー 2」2008年 写真提供 早川俊二
早川さんは、東京の創形美術学校を卒業して、1974年パリに渡り、パリ国立美術学校で、彫刻の教授であるマルセル・ジリ氏の下で、1976年から1981年の間、デッサンの勉強をした。西欧美術の巨匠作品に囲まれながら、黙々とデッサンに励んだ早川氏。1983年、パリにて初個展。1984年、グループ展として、FIACに出展するが、絵の具の研究の必要性から出展活動を止める。(アスクエア神田ギャラリー個展案内より)その後、30代からは、20年以上もの長い月日を絵の具の製作研究に費やす。気の遠くなるような時間だ。最後の個展から今回の個展まで3年もの月日が必要だったのは、その絵の具の改良にまたしても時間がかかったという。
中3のときに、セザンヌの絵画に出会って以来、この道をめざしたという早川さんだが、やはり朝型人間。毎日、明け方の3時から4時ごろから7時ぐらいまでが一番集中して作品にとりくむことができるという。ときには2時ぐらいから始めるというから、並みの人間ではまねができない。絵描きとしての早川さんを生活面や精神面で長年ささえ続けてきた奥様、結子さんと2人で菜食主義を貫き、無駄なものをすべてそぎ落として、芸術家としてまい進されている。最初に早川俊二の才能を見出した結子さんという存在がなければ、この稀有な早川絵画の世界は開花されなかっただろう。女性の力というものはすごい!早川さんは、今こそ基本にもどって、自然を大事にする日本文化や日本人の感性をもっと世界に訴えていくべきだと言う。この100年に一度の経済危機と言われる現代の日本で、日本人が忘れてしまっていた大事なものがすべて見直されている中、早川さんの絵画、そして生き方は、私たちの心をとらえて離さないであろう。
早川俊二展 PART I 大作展 3月24日(火)~4月8日(水)
PART II 小品展 4月14日(火)~5月2日(土)
会場:アスクエア神田ギャラリー
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町1-8 伊藤ビル4F(本郷通り)
TEL: 03-3219-7373 FAX: 03-3219-7375
E-mail: kanda-gallery@asquare.jp
URL: http://asquare.jp
今回の個展の作品の代表作が早川氏よりメールで届いた。写真だが、思わず息をのんでしまうほど神々しい色彩の美しさ。本物に出会ったら、どう感じるのだろうか。1人でも多くの方に早川作品を見てもらいたいので、今回の投稿で、早川さんの許可を経て、個展の前に3点紹介しよう。
「まどろむアメリー 1」2008年 写真提供 早川俊二
「「光と陰」とは、絵の具では「白と、黒・茶」になりますが、僕はそれらの絵の具の性質と溶剤のバランスに向かい合い、長い年月を要しています。迷いなく外に向かう光の強さと、目立たぬ存在でありながら静かにうちに向かう陰の強さ、という関係で世界が釣り合うような絵をイメージしています。頭の中では、これらの絵の具と溶剤を自由に思いのままに使いこなせた時には、僕の求めている世界、空間が、自然に生まれ出てくるものと見えています。幾つもの越えねばならぬ壁はありますが、この3年間の中でまた一歩、望む世界に近づけたように感じています。」(早川俊二)氏本人の個展案内文より
「静物 (アフリカの壷、貝、碗)」2008年 写真提供 早川俊二
「この作品は、物が置いてある床部と背景にあたる部分の境目が、向かって壷の左側に認められるが、右側にはほとんどない。モチーフを俯瞰ではなく、ほぼ水平に見ている図としては、挑戦である。3個のモチーフのそれぞれの位置にも注目したい。それぞれの位置が、そこに物自らを落ち着かせ、空間を生んでいる。その空間は、揺らぎを伴いながら広がりを創り出している。」(伊藤厚美)「AS アート・スクエアの会」会報誌 2009年3月号 VOL31より
私が早川さんと出会ったのは、1992年の日本での初個展の英字新聞、ジャパン・タイムズでの取材だった。当時アラフォーに突入したばかりの早川さんは、まだ日本では無名で、話を聞きながら、純粋にご自身の芸術を磨かれている若き修行僧のような印象を受けた。黒目がちの大きな目が彼の芸術に対する純粋さを映しだしていた。
その時のジャパン・タイムズの私のアートレビューを振り返ると、「In search of the universality of beauty 」(「美の普遍性を求めて」)という見出しで(1992年12月6日付)、1枚の少女の絵を紹介している。
「私は、美の普遍性を求めたい。それは、我々が実在としてつかむことができない神のようなものだ。」と語る早川さんの言葉で記事は始まっている。早川さんの幾度も塗り込められたであろう分厚い絵肌の中で、浮き出てくる「アトランティック」という少女の存在感は、白黒の新聞の紙面で、あたかも彫刻のように浮き出ていた。その吸引力はそれまで味わったことのないほど強いもので、だからこそ、どうしても記事にしたかったのだ。
その後、何回か彼の個展を拝見した。アートの専門家ではない私でも、早川さんの絵画を見ると、なぜか穏やかな気持ちになれ、その絵画の持つ不思議な魅力に磁石のように引き込まれ、気持ちが一体となれた。そういう絵というのは、なかなかない。パリの町で、早川絵画を見い出したアスクエア神田ギャラリーの画廊主、伊藤厚美氏とも親しくなり、「よくぞパリにいた日本人画家を発掘したものだ」と感心したものだ。
その後、1997年にアスクエア神田ギャラリーの個展で発表した「アフリカの壷」という作品が、読売新聞の日曜版の第一面の芥川喜好氏による「絵は風景」という人気コーナーで、1ページにわたってカラーで大きく取り上げられ、日経新聞や朝日新聞などでも個展がたびたび紹介されるようになり、一般のアート愛好家にも早川氏の存在が知られるようになる。
芥川氏は、そのときの記事で、「自然で柔らか 空間の不思議」と題して、その絵をこう表現している。「さわさわと、空気の粒子が手に触れんばかりに粒立って視界を侵している。そのなかに影のように壷はあらわれる。むしろ、空気の粒子がそこだけ壷のかたちに凝集して周囲と連続しているという感覚だ。つまり壷と空間はほとんど同質のものに見える。粒立つ空気の摩擦によるものか、画面は内側からほのかな熱と光を発して適度な温かみをたたえている。そのまま包みこまれてしまいそうな、快適な深みをもつ空間が生まれている。こんな絵に接するのは初めてという気がする」(1997年12月7日付読売新聞日曜版より)「さほど広くはないが清潔な印象の画廊の壁面で、絵は周囲の空気とひそかに通じあいながら静かに燃焼していた。様式を主張するのでも、描かれるものを強調するのでもない、もっと自然で柔らかな吸引力にみちた画面だ。」と芥川氏は続く。
早川氏の空間表現の巧みさ、そして、「内なる光をもつ」作品(佐藤よりこ氏)と批評家は指摘する。専門的な解釈は批評家に任せて、言葉に邪魔されることなく、私たちは早川作品とじっくり対話しよう。そう、世の中のさまざまな煩わしいことから離れて、自分自身ともゆっくり向き合えるような時間と空間を作り出す威力が早川絵画にはあるのだ。
「まどろむアメリー 2」2008年 写真提供 早川俊二
早川さんは、東京の創形美術学校を卒業して、1974年パリに渡り、パリ国立美術学校で、彫刻の教授であるマルセル・ジリ氏の下で、1976年から1981年の間、デッサンの勉強をした。西欧美術の巨匠作品に囲まれながら、黙々とデッサンに励んだ早川氏。1983年、パリにて初個展。1984年、グループ展として、FIACに出展するが、絵の具の研究の必要性から出展活動を止める。(アスクエア神田ギャラリー個展案内より)その後、30代からは、20年以上もの長い月日を絵の具の製作研究に費やす。気の遠くなるような時間だ。最後の個展から今回の個展まで3年もの月日が必要だったのは、その絵の具の改良にまたしても時間がかかったという。
中3のときに、セザンヌの絵画に出会って以来、この道をめざしたという早川さんだが、やはり朝型人間。毎日、明け方の3時から4時ごろから7時ぐらいまでが一番集中して作品にとりくむことができるという。ときには2時ぐらいから始めるというから、並みの人間ではまねができない。絵描きとしての早川さんを生活面や精神面で長年ささえ続けてきた奥様、結子さんと2人で菜食主義を貫き、無駄なものをすべてそぎ落として、芸術家としてまい進されている。最初に早川俊二の才能を見出した結子さんという存在がなければ、この稀有な早川絵画の世界は開花されなかっただろう。女性の力というものはすごい!早川さんは、今こそ基本にもどって、自然を大事にする日本文化や日本人の感性をもっと世界に訴えていくべきだと言う。この100年に一度の経済危機と言われる現代の日本で、日本人が忘れてしまっていた大事なものがすべて見直されている中、早川さんの絵画、そして生き方は、私たちの心をとらえて離さないであろう。
早川俊二展 PART I 大作展 3月24日(火)~4月8日(水)
PART II 小品展 4月14日(火)~5月2日(土)
会場:アスクエア神田ギャラリー
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町1-8 伊藤ビル4F(本郷通り)
TEL: 03-3219-7373 FAX: 03-3219-7375
E-mail: kanda-gallery@asquare.jp
URL: http://asquare.jp
「アルカディアを求めて」のブログからのリンクもありがとうございます。
早川さんのデッサンを紹介してくださって、ファンとしてうれしい限りです。
早川俊二画伯をご紹介された本ブログとても素晴らしく、要領よく纏められており助かりました。
このブログを引用したく宜しく admit お願い致します。引用日時は、2011.9.21.です。
URLは http://ameblo.jp/ofuk-286s/ アルカディアを求めて
以上。
yooo-shiさん、記事、今シコシコ書いてますが、とてもとてもご期待にはそえられませんが、イージーゴーイングのKuniでやってみます。それにしても、早川さんって、やさしいね!お兄さんみたいな存在です。
長命寺の桜餅を持参したHです。
相変わらず早川さんの絵は素晴らしいです。
持って帰りたかったです(笑)
早川さんからお話も伺い、その精神性にも感動でした。目指されているものをこの先どのように追求なさっていくのか、どう表現が変化されていくのか、大いに楽しみにさせていただきまーす。
もちろん、KUNIさんの記事も心待ちにしていますよー♪ 頑張って!と、言うよりも今回はテイク・イット・イージーかな?(笑)