仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

窓の外の灯りに照らされてⅢ

2008年06月03日 12時36分10秒 | Weblog
ミサキがベッドで眠り、床にヒカルが布団を敷いたのだが。この二人の関係は言葉のない、いや、言葉の少ない関係だった。挨拶はするものの、仕事のことも、部屋で過ごすミサキの時間のことも、会話としてはあまりなかった。その土曜日、二人は上機嫌だった。エレベーターを降りたところから、どちらからでもなくキッスをした。性的な交渉もその土曜日まで二人にはなかった。二人がしていることの重大さ、重大だと思えば重大なのだが、それを感じるよりも、逃げるということに重点が置かれたのか、二人でいることに何の違和感も感じていなかった。
 ドアの鍵を開け、中に入ろうとするヒカルの背中にミサキが飛び乗った。よろよろしながら、ヒカルはミサキをオンブするような格好で一番奥のリビングまでたどり着いた。そのままの状態でヒカルは倒れ込んだ。うつ伏せに倒れ込んだヒカルの背中に柔らかい感触が伝わった。しばらく、重なったまま時間がたった。ミサキはズリズリしながら、自分の顔をヒカルの顔の横に近づけた。下を向いたままのヒカルの耳にキッスをした。頬にキッスをした。顔を向けないヒカルの左目にもキッスをした。そのたびにヒカルが感じている柔らかい場所が動いた。両手を突いて、突然ヒカルは起き上がった。ミサキは思わず尻餅をついた。ヒカルはクルッと振り返り、驚いた表情のミサキの手を取った。正座をして向かい合うような格好で見つめ合った。自然と顔が近づき、口づけをした。まだカーテンを閉めるには早い時間に部屋を出た。その窓から、中央道の照明灯の灯りが差し込んだ。ヒカルは五反田の古着屋で買ったときから、お気に入りのスタジャンに手を掛けた。ミサキは抵抗することなく肩を窄めた。ワンピースのジッパーにヒカルの手がかかると今度はミサキがクルッと振り向いた。ジッパーを下げ、膨らんだ肩の部分に手を掛けるとミサキはゆっくりと立上った。ワンピースはミサキのからだの線をなぞるように足元に落ちた。ミサキの手持ちの下着は、ヒカルが夢想したのとは違い、中学生が親に揃えてもらうような定番品だった。が、この日のミサキは下北沢で買った赤のブラと申し訳程度の布でできた赤のショーツをつけていた。