仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

瞳の奥を覗かれてⅢ

2008年06月19日 13時07分59秒 | Weblog
ヒロムは困った。ヒロムの予想にはなかった展開だった。もっと困ったのはミサキの右手だった。ヒロムの右腕がヒロム自身になってしまったかのように快感が体中を走り回った。ヒロム自身もそのウネリに反応し、ズボンを膨らませた。ミサキの視線はヒロムに向けられるわけではなく、どこか遠くの場所を見ていた。ヒロムが手を引こうとした。ミサキの身体がガクッとまえに倒れそうになった。ハッとして、ミサキは慌てて手を離した。ヒロムはスッと手を引いた。
「ドッ、ドッ、どこに行きたいの。」
今までのヒロムとは思えない感じになってしまった。ミサキは我に返った。見つめているヒロムの瞳に気づいた。何をしようとしているのか自分でも解らなかった。また、ヒロムの視線を逃れようと下を向いた。
「どこでもいいの。」
ヒロムは困った。そんな場所をこの辺では知らなかった。M大の近くに休憩云々と書いてあるテルホを見たことがあった。そんな場所に行っていいものか。冷静になれない自分を何とかコントロールしようとするのだが、言葉は勝手に口を出た。
「アアッ、じゃあ、出ようか」
そういうと二人は店を出た。
 ヒロムは駅に向かった。無言のままミサキが後についた。切符を二枚買い、ミサキに手渡した。電車に乗り、結局、井の頭線に乗り換え、神仙で降りた。「ベース」の初めのころに行ったテルホの前に来た。そこまで、何の会話もなかった。「ベース」では会話のないのが当たり前だった。だが、この日の沈黙は、ヒロムの頭を狂わせるほど、長く感じた。ミサキが理解できなかった。ヒロムの計画では、T会の情報が得られればいいだけの話だった。それは徐々に成功していた。この展開はこれからどうなるのか、ミサキに対して性的に何か欲するものがあるわけではなかった。その右手以外は・・・・・・
「入る・・・」
ミサキは目を合わせず、肯いた。
 どこでもいいので、目に入った部屋のボタンを押して鍵を取った。部屋は一番小さな部屋だった。入り口の横にユニットバス、その先に小さなテーブルがあり、椅子が一つ、後はベッドだけの部屋、ベッド脇の壁が鏡張りになっていた。
ヒロムはこんな部屋に来るのは初めてだった。ミサキはこんなところへ来たことがなかった。ヒロムはその小さい椅子に座った。ミサキはベッドの端に腰掛けた。ヒロムも女性と二人きりでこんなところにきたことはなかった。そのことしか意図しないこの部屋で、ミサキの右手の感触を思い出すとヒロム自身がズボンの中で蠢き始めた。
「ここでいいの。」
今にも、ミサキに襲い掛かりそうな情動を抑えて、聞いた。ミサキは答えなかった。
 情動がヒロムを行動に移させた。ミサキの腕を引き、無理やり抱き寄せ、口付けようとした。ミサキは腕を胸の前で組み、ヒロムの唇が近づくと、ドンと跳ね除けた。予期せぬ行動にヒロムの身体はバランスを崩し尻餅をついた。
「ハッ、ハッ、ハッ、」
笑いが出た。ヒロムは体勢を整えてミサキのほうに向き直った。ミサキはヒロムを押し除けた勢いで座り込んでいた。
「そういう意味じゃなかったの」
ミサキはイヤイヤをするように頭を振った。
「君が二人きりになりたいと言ったんだよ」
ミサキはブルブル震えながらたちあげった。
「ごめんなさい。私、帰ります。」
そう言って、振り向いたミサキの右手をヒロムが取った。
「それはないだろう。」
ヒロムの右手には力が入っていた。それは従うしかないほどの威圧感があった。グッと引いて振り向かせた。下から見上げるようにミサキを見た。恐怖がミサキの顔をこわばらせた。
「座りなよ。」
ミサキは言われるままに膝を落とした。
「ねえ、触ってよ。君の右手のせいでこんなになっちゃったよ。」
そういうとヒロムは股を開き、ミサキの右手を自身に押し付けた。
「どうすればいいの」
涙が出そうになった。
「気持ちよくしてよ」
ミサキの頭の中で寮での生活が蘇った。
 極端な禁欲生活の中で寮の男子たちは抜け道を探し当てた。食事も、書物も、テレビの番組も、すべてが管理下にあり、自由ということばはほとんどなかった。彼らは二階に女子がいることで性的な欲求から来るストレスを感じないわけがなかった。就寝時間も活動が終わるのが深夜なので、二時三時は当たり前だった。それでも寝付けない彼らは自慰で慰めていた。
 ある日、その日の勧誘がうまくいかなかったペアの男子が部屋で作戦会議をしようと同行した女子を誘った。