仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

瞳の奥を覗かれてⅡ

2008年06月18日 14時00分29秒 | Weblog
ミサキはそこまで話すと言葉に詰まった。涙が流れていた。ミサキの胸元をみて話を聞いていたヒロムは様子が変わったのに気づき、フッと顔を上げた。ミサキの視線はまっすぐ前を向いていた。そこにいるヒロムの何処かに焦点があっているわけではなく、はるかかなたを見ていた。ヒカルの部屋で泣いていた時のように表情は変えずに涙が瞳からこぼれていた。この状況はヒロムのシュミレーションになかった。ヒロムはこの面談に入る前に「聞き上手になる」、「GORO-口説きのテクニック」などなど女性と話すための資料を勉強し、ヒトミを練習台にして、何度もシュミレーションをした。だが、女性から話し出し、泣き始めるというのは考えられなかった。しかも表情も変えずに・・・・
 今回の手法はうまく言っていると思っていた。情報を得るために研究した成果が出ていると思っていた。
 ミサキの焦点がヒロムの瞳に合った。今日は黒縁メガネをしていなかった。ミサキの近視の瞳は澄んでいた。その澄んだ瞳がヒロムの瞳をとらえた時、ヒロムの思惑が見透かされたしまうのではないかとヒロムは一瞬不安になった。が、ミサキの視線はヒロムの瞳と交差したかと思うとそのままテーブルの上にのせた手の上に頭から落ちていった。ミサキは音も立てずに静かに泣いた。ヒロムは困った。今日は結束していなかった。さらさらとミサキの髪が流れ落ちた。ヒロムは手を伸ばして、ミサキの髪に触れた。髪をすくようにしながら、頭を撫でた。意図したわけでなく、自然と手が動いていた。しばらく動かないミサキ、ヒロムの手を一度、左手で押さえて頭を少し上げ、右手でヒロムの腕を取った。電気が走った。ヒロムの腕を両手で包むように持って、頭を起こし、ヒカルの掌を自分の頬にくっつけた。ヒロムの腕はいっぱいに伸びていた。
「ここで、お話するの止めましょう。」
二人は行き着けなった喫茶店にいた。
「えっ、どういうこと」
「誰もいないところで話したいの。」
「それじゃ、部屋に戻ろうか。」
「部屋には戻りたくないの。」
そう言いながら、ミサキの右手はヒロムの腕を微妙なタッチで擦っていた。