仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

瞳の奥を覗かれてⅣ

2008年06月20日 14時24分31秒 | Weblog
ジャージに着替えた女子が勧誘先の資料を持って入ってきた。男子も着替えていた。既にブラを外してリラックスしている女子のジャージから乳首の隆起がはっきり解るのを男子は見ていた。二人は膝を突き合わせて、勧誘ルート、時間帯、不在者対応についてまじめに話し合った。汗ばむ季節だった。風呂は活動前に銭湯に行くのが通常だった。その日、その女子は銭湯に行きそびれた。話が終わりに近づいたころ、男子はその臭いでおかしくなり始めていた。部屋に散らばった資料の中から、女子の脇にあるものを取ろうとして男子の手の甲が女子の乳首に触れた。
「アンッ、」
艶かしい声だった。それがスタートの合図になり、男子は女子を押し倒した。ジャージを捲くり上げ、乳首を吸った。左手で女子の両手を頭の上で押さえ、右手は下腹を這った。女子自身に触れると荒々しく刺激した。女子は呻いた。さらに男子の手は、女子の下半身を露わにした。男子が自分でズボンを下げ、挿入しようとした時、
「それをしたら、堕落する。」
女子が言った。男子はハッとして身体を離した。二人は挿入することなく慰めあった。
 「教え」のテキストの中には「悪しき混血につながる交わり」は否定していたが、それ以外の行為についての記述はなかった。彼らはそれを理由に自分たちを慰めあった。それは「互いの奉仕」と呼ばら、慣例化していった。管理部は大体のことを把握していたが、勧誘実績が伸びたことで黙認した。先輩に教えられるがままにミサキも「互いの奉仕」を覚えていった。が、それはミサキにとって意図的なものではなく、義務、あるいは儀式のようなものだった。
 そのときの自分が、今、ヒロムの前にいる自分と重なった。ミサキは自分のしていることを悔やんだ。ヒロムとの会話の中で自分が教えを離れ「堕落」していくのをヒシヒシと感じた。そして、「堕落」した自分が何故、ヒカルを選んだのだろうという疑問がわいてきた。自分は「教え」の厳しさ、勧誘生活の厳しさに耐えきれず、ただ逃げ出したかったのではないのか。ヒカルでなくてもそこから自由に慣れれば誰でもよかったのではないか。自分は「堕落」し、欲獣と化した。
「欲獣と化した人間は善悪の判断もできず、あらゆるものを食い尽くす。」
それが自分ではないのか。ミサキは以前とは別人のようなヒロムで自分を試していた。それは厳格な言葉で意識したのではない。ミサキはこの状況の中で自分がしたことに気づいた。
 ミサキは涙を堪えながら、ヒロムのベルトを外し、ジッパーを下げた。ヒロム自身は硬直はしているのだが、ヒカルのとは違いトランクスの中で隠れていた。ボタンを外し、中から取り出し、ミサキは左手でやさしく握り、頭を右手の掌で撫でた。そして、右手で握り直そうとした時、ヒロム自身は勢いよく発射した。それは行為を凝視していたヒロムの顔にかかった。
「アラッ、」
ミサキは思わず声を出した。不思議なことにミサキの手には一滴もかからなかった。発射の勢いが良過ぎたのか、ヒロムのシャツと顔がすべてを受け止めた。驚いたのはヒロムの方だった。何が起こったのか、解らなかった。頭が段々理解し始めると恥ずかしさと惨めさが一緒になってヒロムを襲った。ヒロムは突然立ち上がると
「何を笑っているんだよ。」
と言って、そこにあったティッシュで顔を拭き、部屋を出て行った。ミサキは笑っていなかった。ヒロムが部屋から出て行くの見て慌てた。所持金がなかった。ヒロムを追いかけた。ヒロムは既にエレベーターに乗っていた。ドアが閉まった。三階だった。非常口を探して階段を降りた。
 ヒロムは会計のところにいた。相手の顔は見えないのだが、もうお帰りですかと言われたような気がした。ヒロムは値段を確かめることなく鍵と一緒に一万円を置いて外に出た。後ろから笑い声が聞こえるような気がした。
 ミサキは階段室のドア越しにヒロムが金を払うのを見た。なぜか、ほっとした。ヒロムが出て行くのを確認してミサキも家路に着いた。