トントン、トントン、トントントン
同じリズムで
トントン、トントン、トントントン
ミサキは飛び起きた。目まいがした。フラフラしながら玄関に向かった。
トントン、トントン、トントントン
鍵穴に鍵の入る音がした。ミサキはドアノブに手を伸ばそうとしたが、玄関の前で座り込んだ。ヒカルがドアを開けると、窓からの明りが逆光となって黒い塊のよう見えるミサキが目の前にいた。垂れた頭に後ろ髪が覆いかぶさり顔を見ることはできなかった。
「ミサキ、ミサキ、どうしたの。」
ヒカルは腰を落として、ミサキの肩に手をやり覗き込んだ。
「見ないで!」
ミサキは顔をそむけた。
「凄い顔なの。凄い顔になってしまったもの。」
ヒカルはわけが解らなかった。明りを点け、覗き込もうとするとミサキは顔を手で隠した。
「どうしたの。」
「えっ、」
ヒカルは立ち上がらせ、洗面所に連れて行った。顔を隠しているミサキの手を取り、鏡を向かせた。
「どこがすごい顔なの。」
二人で鏡を覗くと少し目は腫れているが、普段のミサキの顔があった。
「フフっ、」
二人は笑った。ヒカルが電気もつけないでどうしたのか、と聞くと、ミサキは気分が悪くなって寝てしまったと言った。気づくとヒカルのノックの音がしていた、と続けた。
「ラーメンでも食べに行こうか。」
ヒカルが言うと、ミサキはうれしそうに肯いた。ミサキは短パンをブカブカのジーンズに着替え、スタジャンをはおり、ヒカルは着替えもせずに出かけた。ミサキはヒロムが来たことを言い出すことができなかった。
次の火曜日、ヒトミは来なかった。と言うよりもその季節必要なヒロムの衣類はほとんどがヒトミの部屋に移動していた。
その火曜日、呼び鈴がなった。ヒロムだった。ミサキはドアを開けた。
「外に出よう」
ヒロムが言った。
「えっ。」
ヒカルは家着のままのミサキを見て、一瞬表情を曇らせた。
「下にいるから、降りてきて。」
ミサキはヒカルのネルシャツとブカブカのジーンズをはいてサンダルを突っ掛けた。エレベーターを降りるとヒロムがけむたそうに煙草を吸っていた。ミサキを確認すると歩き出した。ミサキはヒロムを追いかけた。ヒロムは甲州街道を渡り、駅前の喫茶店に入った。ミサキも後に続いた。ヒロムは一番奥の席に座った。初老の品のいい女性が1人で店番をしていた。ヒロムがコーヒーを頼むと笑顔で答えた。コーヒーが運ばれるまでしばらく沈黙が続いた。ミサキは水のグラスを見ながら、心臓の音が大きくなるのを感じていた。コーヒーが運ばれると、ヒロムは品のいい女性に目配せをした。女性は微笑み、二人が視界に入らないカウンターの奥にはいった。
「この前は驚かせてしまったかな。」
穏やかな話し方だった。
「どう、あの部屋は慣れた。」
ミサキは伏目がちに肯いた。
「そう、ならよかった。」
ヒロムはコーヒーを口にした。ミサキはヒロムの変化が気になった。
「プッ、ハッ、ハッ、ハッ、」
ヒロムは突然、噴き出した。ミサキはヒロムの顔を覗き込んだ。その日のヒロムは小奇麗な格好をしていた。髭も剃り、ブルーのシャツに綿のパンツをはいていた。好青年とまではいかないがそれなりに清潔感があった。
同じリズムで
トントン、トントン、トントントン
ミサキは飛び起きた。目まいがした。フラフラしながら玄関に向かった。
トントン、トントン、トントントン
鍵穴に鍵の入る音がした。ミサキはドアノブに手を伸ばそうとしたが、玄関の前で座り込んだ。ヒカルがドアを開けると、窓からの明りが逆光となって黒い塊のよう見えるミサキが目の前にいた。垂れた頭に後ろ髪が覆いかぶさり顔を見ることはできなかった。
「ミサキ、ミサキ、どうしたの。」
ヒカルは腰を落として、ミサキの肩に手をやり覗き込んだ。
「見ないで!」
ミサキは顔をそむけた。
「凄い顔なの。凄い顔になってしまったもの。」
ヒカルはわけが解らなかった。明りを点け、覗き込もうとするとミサキは顔を手で隠した。
「どうしたの。」
「えっ、」
ヒカルは立ち上がらせ、洗面所に連れて行った。顔を隠しているミサキの手を取り、鏡を向かせた。
「どこがすごい顔なの。」
二人で鏡を覗くと少し目は腫れているが、普段のミサキの顔があった。
「フフっ、」
二人は笑った。ヒカルが電気もつけないでどうしたのか、と聞くと、ミサキは気分が悪くなって寝てしまったと言った。気づくとヒカルのノックの音がしていた、と続けた。
「ラーメンでも食べに行こうか。」
ヒカルが言うと、ミサキはうれしそうに肯いた。ミサキは短パンをブカブカのジーンズに着替え、スタジャンをはおり、ヒカルは着替えもせずに出かけた。ミサキはヒロムが来たことを言い出すことができなかった。
次の火曜日、ヒトミは来なかった。と言うよりもその季節必要なヒロムの衣類はほとんどがヒトミの部屋に移動していた。
その火曜日、呼び鈴がなった。ヒロムだった。ミサキはドアを開けた。
「外に出よう」
ヒロムが言った。
「えっ。」
ヒカルは家着のままのミサキを見て、一瞬表情を曇らせた。
「下にいるから、降りてきて。」
ミサキはヒカルのネルシャツとブカブカのジーンズをはいてサンダルを突っ掛けた。エレベーターを降りるとヒロムがけむたそうに煙草を吸っていた。ミサキを確認すると歩き出した。ミサキはヒロムを追いかけた。ヒロムは甲州街道を渡り、駅前の喫茶店に入った。ミサキも後に続いた。ヒロムは一番奥の席に座った。初老の品のいい女性が1人で店番をしていた。ヒロムがコーヒーを頼むと笑顔で答えた。コーヒーが運ばれるまでしばらく沈黙が続いた。ミサキは水のグラスを見ながら、心臓の音が大きくなるのを感じていた。コーヒーが運ばれると、ヒロムは品のいい女性に目配せをした。女性は微笑み、二人が視界に入らないカウンターの奥にはいった。
「この前は驚かせてしまったかな。」
穏やかな話し方だった。
「どう、あの部屋は慣れた。」
ミサキは伏目がちに肯いた。
「そう、ならよかった。」
ヒロムはコーヒーを口にした。ミサキはヒロムの変化が気になった。
「プッ、ハッ、ハッ、ハッ、」
ヒロムは突然、噴き出した。ミサキはヒロムの顔を覗き込んだ。その日のヒロムは小奇麗な格好をしていた。髭も剃り、ブルーのシャツに綿のパンツをはいていた。好青年とまではいかないがそれなりに清潔感があった。