仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

言葉の少ない会話の中で

2008年09月02日 16時14分37秒 | Weblog
 朝の音でアキコは目を覚ました。今日こそはヒデオより早く起きて朝の支度をするつもりだった。ヒデオにはかなわないな、と思った。ヒデオの彼女になるのは大変だ、とも思った。アキコはパイプのベッドを抜け出して、ヒデオの後ろに忍び寄った。ヒデオの部屋の小さな台所にところ狭しと二人分の朝食の用意がしてあった。腰を屈めて、ヒデオの背中に抱きついた。
「ワオッ。」
ヒデオは驚き、跳ねた。その勢いでアキコは尻餅をついた。
「何すんだよ。」
ヒデオの語気が荒くなった。アキコは涙目になった。コーヒーを入れかけていたヒデオはヤカンを持ったままだった。
「危ないからさー。」
涙がこぼれていた。ヤカンを持ったまま、ヒデオはアキコの頭を抱いた。
「泣くなよ。」
「ゴメンね。ゴメンね」
ヒデオはキッスした。アキコも唇を開いた。
「飯食べよ。」
アキコは肯いた。ベッドの前のテーブルに二人で朝食を運んだ。
「今日「ベース」に行くの。」
「ああっ、鍵、わたさなきゃ。」
「あたしも行くね。」
「ああ。」
二人の会話はそのくらいだった。朝食が済むとアキコが片付けをすると言い、ヒデオを見送った。まだ、朝の喧騒が始まる前の時間帯にヒデオもヒカルも動き出すのだ。車のクラクションが鳴って、窓から顔を出すと車窓から手が出ていた。
「いってらしゃい。」
アキコは声にならない声をかけ、手を振った。