仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

ほんとに誰でもいいの

2008年09月22日 16時56分10秒 | Weblog
 車の中は静かだった。
「マサミ、何の仕事してるんだろ?。」
アキコが独り言のようにつぶやいた。ヒデオは何も言わなかった。しばらくしてやはり独り言のようにヒデオが言った。
「女の肉体労働かな。」
「なーに、それ。」
「なんでもない。」
また、沈黙が始まった。目黒通りから環七に入ったところで、
「解った。」
アキコが突然、叫んだ。おぼどろいたヒデオのハンドルがぶれた。隣の車に思い切りクラクションを鳴らされた。
「なんだよ、急に、」
ヒデオが叫んだ。
「なんでもない。」
また、沈黙した。
「仁に会わなくてよかったの?」
返事がなった。
「ねえ、仁に会いたかったんじゃないの?。」
「おまえは?。」
「うん。」
沈黙。
「ヒデオ、今日、お風呂は・・・・」
「まだだよ。」
「どうする?。」
「オレはコインシャワーでもいいけどアキコは・・・・」
そうこうしているうちにアキコのアパートに着いた。
「上がる?。シャワーだけだけどあるよ。」
アキコの部屋にはトイレほどの大きさのシャワー室があった。
「車、小学校の前なら止められるよ。」
「止めてくるよ。」
アキコは部屋に入り、玄関に散乱した靴を片付けた。アキコの部屋はヒデオの部屋に比べたら雑然としているようにも思えるがそれなりに整ってはいた。時折、時間がなく、着替えた洋服が床に落ちていたりはするのだが。その日も床にはブラウスとスラックス、ブラ等が落ちていた。アキコはそれらを拾い上げ、押入れに詰め込んだ。アキコの部屋にはテーブルはなく、床にすのこを敷いて、テーブルクロスをかけてあった。が、小学生が使うような勉強机は窓際にあり、医学書や看護に関する本がのっていた。六畳くらいはあるのだろうが、衣装ケースと整理ダンスが壁面を占拠し、動くスペースは限られていた。ノックの音がした。
「はい。」
ドアを開けると真新しいガラ袋を持ったヒデオがいた。
「上がって。」
「こんな時間でもシャワー使えるの?。」
「大丈夫よ。みんな、使っているもの。」
シャワー室は台所の横のトイレと並んであった。当然、服を脱ぐのは台所と言うことになった。台所と六畳を仕切るガラス戸は外されていた。ヒデオはなぜか照れくさかった。
「一緒には入れないから、ヒデオ、先に入って。」
そういいながら、アキコは、服を脱ぎだした。ブラウスのボタンを外していたアキコが振り向きヒデオに近づいた。
「電気は・・・こっちね。」
ヒデオはマサミからの連想が後を引いているのか、反応するヒデオ自身を感じていた。後ろからアキコに抱きついた。ヒャーとアキコが跳ねた。
「何するのよー。」
けして、拒否をするという感じではなかった。クルっと振り向くとおどけた表情で言った。
「シャワーを浴びてからにしよう。」