仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

言葉の少ない会話の中でⅡ

2008年09月03日 16時13分15秒 | Weblog
 現場にキリがつき、車に乗ったとき、ヒデオはヒカルに「ベース」に行くかと聞いた。ヒカルは手を合わせて、断った。ヒデオはそうかと言うと近くの駅でヒカルを降ろした。車の中でヒデオは気持ちの澱みができるのを感じた。思考が必要となり、結論を出さなければいけないことに苛立ちに似たものを感じた。
 「ベース」に着いた。演劇部と数人の常任がいた。
「ヒデオさん。」
演劇部はうれしそうな顔でヒデオを見た。ヒデオは作り笑いを浮かべている自分に気づいた。
「ヒロムは」
「まだ、です。最近、ヒロムさんは9時過ぎでないと来ないんですよ。」
「今日は演劇部が開けたの。」
「ハイ」
うれしそうな顔で答えた。彼らにはここが居場所なのかも知れない。ヒデオは今「ベース」に集う人々と自分に微妙な違いがあるように感じた。
 何を話していいか、解らなかった。ヒデオは無口な人ということになっていた。「神聖な儀式」に向かっていたころは、楽だった。自分の役割があり、それをするだけで満足が得られた。
 今は・・・・
 ヒデオには組織はいらなかった。
 何かを期待されることも嫌だった。期待するのも嫌だった。誰が偉くて、誰が強くて、そんなことはどうでもよかった。共有すること、時間と空間を共有すること、誰でもない誰かでいながら、そこに存在することを確認できるのがヒデオにとっての「ベース」だった。
 彼らは僕らを組織の中心だと思い、僕らが何かを企て、導いてくれることを期待している。それは俺じゃない。ヒロムが企て、何かに導こうとしている。その何かは、俺にはわからない。
言葉で考えるのが苦手なヒデオが思考していた。