仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

微笑みは涙より悲しくてⅡ

2008年09月17日 17時44分12秒 | Weblog
 三人はしばらく無言で焼きうどんを頬張った。ミサキのローション系の臭いがヒデオに妙な記憶を思い出させた。
 ヒデオが関わった家の棟上げ式の日のことだった。施主は少ないが皆で分けてくれと監督に祝儀を出した。監督はそれを配分することなくポケットに入れた。式が終わり、ヒデオは日雇と片付けをしていた。最後に監督に報告に行くと、日雇に封筒の日当を渡し、日雇労働者特別保険に印紙を貼り終わった監督が声を掛けてきた。祝い酒のせいか機嫌がよく、これから付き合えと言われた。いつもなら断るのだが、親方が譲ってくれた現場の監督なのでそんなわけに行かず、ビール一杯のヒデオが運転をして川崎に繰り出した。監督は行きつけの店があるらしく、道案内はスムースだった。店の裏の駐車場に車を入れて、玄関、玄関と言いたくなるような
造りの門をくぐると監督が三万円を手渡して、残りは自分で出せと言われた。監督は指名するお嬢が決まっているらしく、それとも来るつもりで連絡しておいたのか
直ぐに通された。ヒデオは指名なさいますかと聞かれたが解らないので、お任せした。しばらくして髪の毛を頭の上で一つに束ねたお嬢がヒデオの手を引いた。ヒデオは何も解らず、お嬢にされるがままにしていた。服を脱がされ、シャワーを浴びせられ、マットの上に寝かされた。身体のいろんな部分を使って、ヒデオの身体を洗ってくれた。ヒデオは感じなかった。最後に手を使い、自身を愛撫してくれても、起たなかった。口を使っても、泡攻めにあっても、特殊なローションも自身を起たせはしなった。
「私、下手ですか。」
涙目でお嬢が聞いてきた。ヒデオはそんなことはない。きょうは自分が疲れているだけだと慰めた。
「もういいですよ。」
「でも、まだ時間あるし。」
「じゃあ、普通に背中を流して下さい。」
背中を流しながら、お嬢は自分のことを話し出した。自分はアナウンサーになりたくて上京した。親に反対され、家出同然で上京したため、金が必要になった。最初はウエイトレスをしていたが、専門学校の授業料や師事する先生の個人レッスンを受けるためには金が足りず、スナックで働くようになり、それでも足りず、キャバレーになり、サロンになり、気づいたら、ここで働いていた。金は手に入るようになったが、今度は気力が出なくなってしまった。もう少し金が貯まったら、足を洗い、学校に戻るつもりだといっていた。
「頑張ってください。」
ヒデオは最後、笑顔でそういった。お嬢は胸のふくらみや柔らかさが解るようにヒデオの背中に抱きつき綺麗な笑顔で言った。
「今度は疲れてないときに来てね。」
服を着せてもらい、部屋を出る時、お嬢は名刺をポケットに差し込んで、指名してねと言いながら首筋にキスをした。痛いくらいのキスでマークが付いた。監督から預かった金に一万くらい足して会計を済ませ、外に出た。黒のチョッキと蝶ネクタイの男が追いかけてきて、
「お連れ様は延長されるそうですので、先に帰ってくれとのことです。」
と、言われた。鼻を突くローションの臭いが身体中から立ち込めた。ヒデオは駐車場の隅で吐いた。