「いやー、すまない、すまない、」
ヒロムは笑いを堪えて続けた。
「その格好が、・・・・」
ミサキは、慌てて出てきた。化粧品も持っていなかった。髪を黒ゴムで一つに結束して、コンタクトは痛いので、黒縁メガネで出てきた。普段は家着、と言ってもタンクトップに短パンだったり、ガボッとかぶれるヌーヌーみたいなやつだったり、外出する時の洋服はヒカルと買ったワンピースしかなかった。でも、それはヒカルと出かける時以外は着たくなかった。そう、ミサキは、ここのところ、一人で出かけるのは近所の買い物くらいで、家着にスタジャンでよかった。
「着るものないの。」
ヒロムが言うと、ミサキはうつむき加減に肯いた。
「買いのもに行こう。」
ミサキは困った。新しい服が在ったら、ヒカルはなんて思うのだろう。ヒカルにはヒロムがきたことをまだ話していない。それに服が買えるほど、余分お金は預かっていなかった。困っていると
「行こう。」
ヒロムが立ち上がろうとした。ミサキは中腰になって、ヒロムの右手を取った。そのとき、ヒロムはミサキの右手からヒカルが感じたのと同様の電気が走るような感覚に捕らわれた。ミサキは意識したわけではなかった。座らせようと嘆願する気持ちが、ミサキの右手を隠微な右手にした。ヒロムは、ビクンとして手を払い、座り直した。ミサキはハッとして、中に浮いた手を引っ込め、座った。
「何、」
ヒロムは性的な快感にはなれていなかった。「ベース」で行われる儀式は性的なものとは違うものと解釈していた。性的なものはむしろ自慰行為によってのみ感じてきたようなところがあった。そんなヒロムにとって、ミサキの右手は性的な快感に導くような感触を与えた。ミサキはうつむいたままだった。
「買い物なんか行かなくていいです。」
ボソッとつぶやくようにミサキが言った。フンっと鼻を鳴らし、苛立ってきそうな気分を押さえてヒロムはグラスの水を含んだ。
「今のは何。」
「いえ、あなたが立ち上がろうとしたから、」
しばらく沈黙が二人包んだ。ミサキは下を向き、右手で左手を撫でていた。ヒロムの目はその右手を見ていた。つぶやくようにヒロムが言った。
「君は、その手で、ヒ・・・」
そう言いかけて、ヒロムは言葉を飲み込んだ。またしばらく、沈黙があり、ヒロムは静かに質問を始めた。今までとは違い、初めて会ったもの同士が共通点を探すように・・・
「ミサキはどこの出身なもの、云々・・・」
というように話を進めた。考えてみれば、ヒカルの出身も会員書を作るといって、集計するまでは知らなかった。だから、ヒロム自身は白々しさを感じさせないように言葉を選んだ。ミサキは名前で呼ばれるのに抵抗を感じた。そうすることが当然のように話すヒロムの話し方に少しづつ慣れた。ミサキはメガネを外した。そうすれば相手の顔もはっきりは見えない。そのほうが話しやすかった。メガネを外したミサキを見てヒロムはドキッとした。化粧などしなくとも、その顔は整い、美しかった。先ほどの右手の感触がよみがえった。少し言葉に詰まったがヒロムは続けた。
ヒロムが何故、変わったか、それはヒトミを使って、女性との話し方を練習したからだろう。名古屋なら、電車を一度乗り換えるだけで自分の田舎からいけるなど、直接的な質問は、その日は避けた。ミサキの警戒心が少し薄れたのか、ポツ、ポツといった感じで答えた。ヒロムはミサキの生い立ち程度の情報を得たところで、時計を見た。二時間くらいが過ぎていた。ヒロムは話をまとめ、
「今日はありがとう、また、来るよ。」
と言うと腰を上げた。会計をして外に出た。ミサキも後に続いた。駅のに向かいながら、ミサキの耳もとにフッと口を寄せ、
「今度、ヒカルに言っといてよ。僕が洋服を提供するって、じゃあ。」
そういうと振り向き、切符売り場に足早に歩き出した。ミサキはドキドキしている自分に気づいた。ミサキは不思議な気がした。違うに人と話をしたような気がした。ヒカルに話していいものか、最初にヒロムが来たときに話ができなかったことが悔やまれた。ヒカルに話すことができないと感じる自分がいた。
ヒロムは笑いを堪えて続けた。
「その格好が、・・・・」
ミサキは、慌てて出てきた。化粧品も持っていなかった。髪を黒ゴムで一つに結束して、コンタクトは痛いので、黒縁メガネで出てきた。普段は家着、と言ってもタンクトップに短パンだったり、ガボッとかぶれるヌーヌーみたいなやつだったり、外出する時の洋服はヒカルと買ったワンピースしかなかった。でも、それはヒカルと出かける時以外は着たくなかった。そう、ミサキは、ここのところ、一人で出かけるのは近所の買い物くらいで、家着にスタジャンでよかった。
「着るものないの。」
ヒロムが言うと、ミサキはうつむき加減に肯いた。
「買いのもに行こう。」
ミサキは困った。新しい服が在ったら、ヒカルはなんて思うのだろう。ヒカルにはヒロムがきたことをまだ話していない。それに服が買えるほど、余分お金は預かっていなかった。困っていると
「行こう。」
ヒロムが立ち上がろうとした。ミサキは中腰になって、ヒロムの右手を取った。そのとき、ヒロムはミサキの右手からヒカルが感じたのと同様の電気が走るような感覚に捕らわれた。ミサキは意識したわけではなかった。座らせようと嘆願する気持ちが、ミサキの右手を隠微な右手にした。ヒロムは、ビクンとして手を払い、座り直した。ミサキはハッとして、中に浮いた手を引っ込め、座った。
「何、」
ヒロムは性的な快感にはなれていなかった。「ベース」で行われる儀式は性的なものとは違うものと解釈していた。性的なものはむしろ自慰行為によってのみ感じてきたようなところがあった。そんなヒロムにとって、ミサキの右手は性的な快感に導くような感触を与えた。ミサキはうつむいたままだった。
「買い物なんか行かなくていいです。」
ボソッとつぶやくようにミサキが言った。フンっと鼻を鳴らし、苛立ってきそうな気分を押さえてヒロムはグラスの水を含んだ。
「今のは何。」
「いえ、あなたが立ち上がろうとしたから、」
しばらく沈黙が二人包んだ。ミサキは下を向き、右手で左手を撫でていた。ヒロムの目はその右手を見ていた。つぶやくようにヒロムが言った。
「君は、その手で、ヒ・・・」
そう言いかけて、ヒロムは言葉を飲み込んだ。またしばらく、沈黙があり、ヒロムは静かに質問を始めた。今までとは違い、初めて会ったもの同士が共通点を探すように・・・
「ミサキはどこの出身なもの、云々・・・」
というように話を進めた。考えてみれば、ヒカルの出身も会員書を作るといって、集計するまでは知らなかった。だから、ヒロム自身は白々しさを感じさせないように言葉を選んだ。ミサキは名前で呼ばれるのに抵抗を感じた。そうすることが当然のように話すヒロムの話し方に少しづつ慣れた。ミサキはメガネを外した。そうすれば相手の顔もはっきりは見えない。そのほうが話しやすかった。メガネを外したミサキを見てヒロムはドキッとした。化粧などしなくとも、その顔は整い、美しかった。先ほどの右手の感触がよみがえった。少し言葉に詰まったがヒロムは続けた。
ヒロムが何故、変わったか、それはヒトミを使って、女性との話し方を練習したからだろう。名古屋なら、電車を一度乗り換えるだけで自分の田舎からいけるなど、直接的な質問は、その日は避けた。ミサキの警戒心が少し薄れたのか、ポツ、ポツといった感じで答えた。ヒロムはミサキの生い立ち程度の情報を得たところで、時計を見た。二時間くらいが過ぎていた。ヒロムは話をまとめ、
「今日はありがとう、また、来るよ。」
と言うと腰を上げた。会計をして外に出た。ミサキも後に続いた。駅のに向かいながら、ミサキの耳もとにフッと口を寄せ、
「今度、ヒカルに言っといてよ。僕が洋服を提供するって、じゃあ。」
そういうと振り向き、切符売り場に足早に歩き出した。ミサキはドキドキしている自分に気づいた。ミサキは不思議な気がした。違うに人と話をしたような気がした。ヒカルに話していいものか、最初にヒロムが来たときに話ができなかったことが悔やまれた。ヒカルに話すことができないと感じる自分がいた。