前回(1/8)の”Episode4”では、一般相対性理論におけるヒルベルトとの先主権争いの真相について述べました。少し間が空いたので軽くおさらいをします。
”Ep1”では、アインシュタインの奇怪な生涯と、一般相対性理論とリーマン幾何学の密な繋がりを、”Ep2”では少し踏み込んで、リーマン計量(リーマン曲率テンソル)とアインシュタイン方程式の関係を。
”Ep3”では特殊相対性理論の真相と数々の疑惑に追い詰められたアインシュタインの苦悩と憂鬱を述べました。
一方で、”リーマンとガウスとアインシュタインその1”では、歪んだ空間の幾何学と一般相対性理論について、”その2”ではガウスとリーマンの幾何学とアインシュタインの宇宙の歪みについて述べました。
ご面倒ですが、それぞれClickすると、スムーズに理解できると思います。勿論、飛ばしても構いません。
つまり、ガウスなくしてリーマンなくして、アインシュタインの宇宙空間の歪み、つまり一般相対性理論は存在しない。もっと突っ込めば、”リーマン•テンソル”のややこしい概念を抜きにして、アインシュタインは語れないという事です。
このテンソル(時空の歪みの幾何量)と一般相対性理論の詳しい関係は、後で述べる事にします。
そこで今日の”Episode5”では、一般相対性理論の実証に関する苦難の道とアインシュタインの絶頂についてです。
前回の”Ep4”では、一般相対性理論におけるヒルベルト論争の真相にて、ロマンと転象(私)が議論を交わし終えた所まででした。
Episode5〜前半
ロマンはベランダから部屋に戻ると、煙草を含んだ。
”でもアルバートの一般相対性理論がすぐに広まる事はなかったんだ。彼は中立国スイスを経由し、イギリスに論文を送ろうとしたが戦時中で上手くいかない。
しかし、オランダの天文学者ウィレム•ド•ジッターがケンブリッジ天文台のアーサー•エディントンに送った手紙は、無事に彼の手に渡ったんだ。
アルバートの論文を読んだエディントンは、直ぐに熱烈な相対論支持者となり、英国の物理学者や天文学者は、日食での観測こそが一般相対性理論の予測を検証できる事をすぐさま理解した。
一方で英国王立天文台のフランク•ダイソンは、この計画の重要性を必死に政府に説いてまわり、資金の調達に孤軍奮闘したのさ。
この様に、一般相対性理論の実証は多くのジレンマと困難を抱えてた。そこで第一次世界大戦後の1919年3月から、エディントンとダイソンは2チームに分かれ、モロッコ西のプリンシペ島とブラジル東岸のソブラルで行われたんだよ。
そして運命の日の5月29日、エディントンのチームは、とうとう日食の完全なる撮影に成功した”
私(転象)はベランダに残ったまま空を見上げた。
”都合のいい事に、この年の5月29日の皆既日食はおうし座の中心で起こり、その背後にはヒアデス散開星団を含む多くの恒星がありました。それらの星の光は、太陽の近傍をかすめ地球に達する事が予測されますね。
帰国後、それらの写真の解析が行われ、位置の平均のズレは1.61秒で、その標準偏差(測定値のばらつき)は0.3秒。
この値は統計誤差の範囲内で、一般相対性理論の予測値1.75秒とピタリと一致したんですね。もう1つのチームも、ズレは1.98秒で偏差は0.12秒。このズレこそが重力による歪みなんです。
アインシュタインの予測は、2チームの日食観測により、統計誤差の範囲内で完全に実証されたんですよね”
ロマンは微笑んだ。
”転んだ君、きみも中々のもんだな。ただの数学バカじゃなかったんだ(^^)”
私は生意気に付け加えた。
”遠方の恒星からの光は、太陽の重力場で曲げられ、地球に到達します。日食時には、太陽の光が月に遮断されるので、写真を撮ると恒星は「みかけの位置」にある様に写るんです。
故に、 太陽の重力場が影響しない時に撮影された写真と比較する事で、光の曲進が確認できますね。
つまり、1919年5月の英国のチーム による観測で、太陽近傍を通る恒星の光の曲進が実証され、しかもその曲がり具合が、一般相対性理論の予測値に極めて近いものだったんです”
ロマンは、驚きを隠せなかった。
”もう少しわかり易く説明してくれないか”
私はズケズケと調子に乗った。
”一般相対性理論によれば、光の進路が曲げられるのは、太陽の重力に引っぱられるからではないんです。
つまり、物質が存在すればその重力により平坦な時空が曲げられます。
この曲がった時空に沿って光が“直進”する為、光は曲がって観測されます。故に太陽の周辺では、重りをおいたゴム膜の様に空間がたわんでて、恒星からの光はこの曲りに沿って進みます。みかけの位置が実際とズレるのはその為ですね”
そこに突然、アインシュタインが入ってきた。忘れた愛用の葉巻を取りに戻ってきたのだ。
”何だ何だ〜、2人で異様に盛り上がってるじゃないか”
ロマンは、アインシュタインにコーヒーを勧める。
”ああ、丁度よかった。ところでアルバート!君はこの一般相対性理論の検証という大事業に、どの様に関わってたんだ?”
アルバートを葉巻を取り出し、一服する。
”実は、俺は何にも関わってはいないんだ。実験は俺には何の知らせもなく計画され、実行されたんじゃよ。更には観測結果すら直接には伝えられなかったんだ。
それも9月になって、オランダの友人経由で、日食観測が一般相対性理論の正しさを実証した事を知ったのさ。全く失礼な話だよな”
私は早速口を挟む。
”第1次世界大戦による敵対関係があったとはいえ、イギリスの科学者たちが貴方を無視したのは何故でしょう?日食観測が検証しようとしてたのは、貴方の理論そのものだというのにですよ。
もしかして、ニュートンが確立した古典力学が2世紀余に渡り、物理学をリードしてきたという英国のプライドと自負だったんでしょうか?”
アルバートは笑った。
”つまりこういう事じゃよ。1919年11月だったかの、日食観測の成果と一般相対性理論の議論を主題とし、英国王立天文学協会と王立協会の合同会議が開かれたんじゃ。
王立協会会長のトムソンは、私の理論は人類の思考の歴史における最大の業績の一つだとし、”これは科学思想の離れ小島の発見ではなく、全大陸の発見だ。これはニュートンがその原理を発見して以来の、重力に関する最も大きな発見である”とな”
ロマンは付け加えた。
”観測隊の主役エディントンは、”観測の結果がニュートンの法則から導き出される値ではなく、アインシュタインの一般相対性理論から導き出された値である”と、ハッキリと述べたんだよな”
私は興奮していた。
”11月7日のタイムズ紙は、「科学の革命」とのタイトルで、ニュートン理論を大きく覆す宇宙の新理論が誕生した。その理論によれば”空間が歪んでる”と、大々的な報道と共に伝えました。
同紙は翌8日にも、「アインシュタイン対ニュートン」と題して、著名な物理学者たちの見解を掲載しました。その後、「NYタイムズ」を初め、世界のメディアが同様の大報道を繰り広げ、アインシュタイン博士は僅か数日にして、世界で最も名を知られた科学者となったんです”
少し長くなりそうなので、今日はここまでです。
これは重力が存在する地球上では、重力が存在しない宇宙空間よりも歳を取らないということですね。
つまりアンチエイジングの為には、できるだけ大きな物体の近くにいればいいということでしょうか。
時空の歪みではなく、時間のひずみで考えると判り易いですね。流石paulさん。
どうしても一般相対性理論と言えば、真っ先に空間の歪みに目が行きますもん。
ナイスなご指摘有難うでうs。
同じ双子でも地上勤務の方が宇宙飛行士よりも歳を取らないっていう理論上のパラドックス
でも重力を受けない方が、お肌にはいいような気もしますが。ユニークな理論ですね。