象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

今更「タイタニック」前編〜限りなく駄作、いや愚作に近い超大作?

2019年12月27日 02時43分58秒 | 映画&ドラマ

 この時期になると、映画「タイタニック」(1997)を思い出す人も多いだろう。そこで、昨年9月の記事ですが、本当にタイタニックは駄作だったのか?改めてこの作品の駄作度を再検証する。
 私は70年代の映画をよく見る。アメリカが黄金色に輝き、ハリウッドが全盛期の頃だ。中でもスティーブ•マックイーン(1930-1980)は別格だった。彼がアメリカ映画を支え、大きく変えたと思う。
 と同時に、名作とは何ぞや?とふいに思う。「タイタニック」も当時に限っては名作とか傑作だとか、大きく騒がれた。
 勿論、知名度も興行収入も桁外れだったから、敢えて異論はないが。初めて本格的なCGが使われたせいか、前評判がやたら凄くて大きな話題を呼んだ。


最初から、嫌な予感

 客の出足はまばらだった。私らの前の席には高校生らしき不良風カップルが陣取り、出だしから嫌な予感がした。
 そういう私も殆ど期待はしてなかった。もう20年以上も前の事なのに、号泣してた茶髪女も今では40近くになる。当時の彼女の目には何が映ってたのだろうか?

 オープニングでディカプリオのクレジットが流れ、いきなり嫌な予感がした。でもビリー•ゼーンの渋い存在が傑出してたから、前半は何とか見ごたえはあった。ふと周りを見ると既に満杯だ。ド派手な前評判は嘘じゃなかった。
 CGの出来は圧巻だった。何処までがCGだか全く見分けがつかない。それ程に完璧だった。それに比べ、監督の編集や演出に疑問と不満が次々と噴出した。
 その1つ目は、デイカプリオとウィンスレットが(今から思うにこの女優、当時も今も殆ど存在感がない)海へ唾を吹き飛ばし、二人で盛り上がるシーン。
 あの何処が面白いのか?せめて鼻からピーナツくらい飛ばせ(笑)。それに、二人の半煮えで中途な演技に欠伸が出そうになった。
 2つ目は後半の、ビリー•ゼーンにまんまとハメられたディカプリオだが。彼の手錠の鎖めがけ、ウィンスレットが斧を振り落とすシーン。あれで一気に冷めた、全てが冷めた。
 全盛期のニクラウスだって、ピンポイントで鎖を打抜く事は絶対に不可能だ。
 少しキレた私は、気分転換にとビールを買いに席を外す。演出的には、ポール自体を斧でガンガン叩いて外す方が、現実味と切迫感があった様に思う。

 トイレに行き、頭を冷やし、ビール片手に席へ戻る。周りの客もやや怪訝な表情だ。多少盛り上がってる所だったからね。
 そして、肝心のクライマックス。
 この作品の最高の勝負の瞬間だ。私は気を取り直し、そして期待した。
 タイタニック号が垂直に反り上がり、そして沈んでいく。圧巻のCGに圧倒された。この映画の主役はヤッパリCGなのだ。
 女はボートに救われ、男は凍りつく極寒の海水に突き落とされた。これで、ディカプリオが何も捨て台詞を残さず、素直に凍死してくれれば、最上級のエンドロールになる筈だった。
 地球上の殆どの男達はそれを期待した筈だ。”頼むぞジャック、とっとと死んでくれ!”

 しかし何てこった。彼は死なないのだ。ゾンビみたいに、何度も極寒の海水の中から沈んでは、浮き上がってくる。男が弱々しいセリフを吐く度に、観客(殆ど女)のすすり泣く声が聞こえてくる。
 世界中の女という女は全て泣いたろう。ヘビだってメスなら泣いてたろう(笑)。確かに、オレも感動はした。
 でもこの設定は、観客を大衆を、そして映画を馬鹿にしてやしないか?キャメロンの旦那!普通でなくても、心臓発作で簡単に死ぬだろ。凍った海水だぞ!流石のタケシ監督も苦笑してた。
 因みに、凍った海水から湯気が出てたが、温水プールに見えましたな(怒)。


質の低い薄っぺらな感動と

 私は切れた。監督のキャメロンに、ハリウッドのやり方にキレた。こいつらは映画を観る者を100%馬鹿にしてる。
 奴らにとっては興行収入こそが全てだった。感動の奥行きや質とか、純度と鮮度かは、全く度外視なのだ。その証拠が後の「アバター」(2009)だ。
 私は再び席を立った。
 勿論、周りの突き刺さる様な殺意ある視線を背中に感じた。売店に行き、ビールを一気に飲み干した。この状況で劇場に戻れる筈もない。殺されるのがオチだ(笑)。
 暫く時間が経ったろうか、映画が終演し、すすり泣きの声が聞こえてきた。多分、女性という女性は全部泣いてたろう。
 日本も含め、アジアの女性はこういう質の低い、粗っぽい感動で、深い感傷に浸れるのか。

 彼女達は薄々は判ってた筈だ。
 これが欺瞞に満ちた、お涙頂戴の超大作である事を。しかし彼女たちが、現実では到底味わえない感動と感傷に浸れたのはディカプリオ様々のお陰だ。
 アジアの女性は彼の全てを受け入れた。つまり、フィルム上のディカプリオを等身大の恋人に仕立て上げ、全てを捧げたのだ。
 かつてこれほどの俳優が存在しただろうか?彼に対抗できるとすれば、ジュリアノ•ジェンマくらいだろう(渋いですな私も)。
 結局、女たちは映画「タイタニック」ではなく、ディカプリオに酔っただけなのだ。タイトルも設定も脚本も、それに、CGの出来もキャストもスタッフも監督も、最初からどうでもよかった。
 ディカプリオ以外は映画でなくとも、誰でも何でもよかったのだ。極論を言えばヘビでもよかった。
 この作品は、”燃えよドラゴン”のブルース•リー同様に、ディカプリオがいてこその作品なのだ。そういう意味においては名作だと、私は大きく評価する。


色あせた感動とタイタニックと

 しかし現実は厳しい。時が過ぎ、ディカプリオは結構なパッシングを受けた。スキャンダルが露呈すると、劇場の中で彼と心底、心中したアジアの女たちは一気に逆上した。
 特に、教育を受けてないアジアンガールズのパッシングは半端なかった。”ポ○チンが小さい”とか、訳分からん事を喚き散らす。
 無教養で単純と言えばそれまでだが。感動が安直で稚弱で浅薄過ぎたが故、反発も悍ましくエゲツない。
 ある意味ディカプリオは、この作品の最高の功労者であり、そして最大の犠牲者でもある。そういう意味では同情にも値する。

 しかし、最後まで見てなかったので、ずっと後になってDVDで最後まで見た。やはり今から見ても、あの3つのシーンは全くの愚鈍で余計だった。
 エンディングで、老婆が裸足になり、船の淵に身を乗り上げ、思い詰めた様に海面を見つめるシーンがある。
 この老婆は、死んだディカプリオの夫になってたであろうこの女は、身を投げて自殺すると思った。いや、そうしてほしかった。

 恋人が横たわってる深い海の底に、彼女も身を捧げるのだ。歳は食っても顔がシワシワになっても、心は魂は処女のままなのだ。エンドロールにしては完璧だと自分を慰めた。
 しかしその瞬間、何とこのクソ婆は隠し持ってたあの思い出の宝石を海に投げ入れるのだ。アレレのレ〜。
 監督が強欲ならば、このババアも貪欲だ。全く、最後の最後でまたも裏切られちまった。全くキャメロンという奴は唯のバカか?それとも杞憂の偉人か。


ヤッパリ駄作?

 今更だが欧米人からすれば、この映画の評価は真っ二つに分かれるだろう。陳腐なロミオとジュリエットに映ったろうし、日本人からすれば、20世紀最大の感動巨編となろう。
 しかし、ビリー•ゼーンの鬼気迫る演技が最後までこの作品を支配してたし、ディカプリオとウィンスレットの稚弱で薄っぺらな存在を、優雅で最上級のオーケストラが支えた。安直な演出と単調な展開を、度肝を抜くCGで補った。それに、この映画の最大の貢献者は劇場の女性客だろう。
 何故なら、彼女らの理解と感傷なくして、この映画は成り立たないのだ。

 しかし時が経つ程に、超大作である筈の作品が駄作、いや愚作に思えてくるのは私だけだろうか。
 個人的には、ディカプリオという役者は嫌いではない。歳を重ねる毎に、渋みを増し、そこそこ素晴しい俳優にはなった。オスカーも獲ったしね。
 若きディカプリオの出世作にもなったし、アカデミー賞も独占したし、興行的にも大成功した。セリーヌ•ディオンの歌声もオバサンにしては見事だった。よって☆5つと言いたいが。
 しかしだ。アマゾンのレヴューを見るがいい。みな笑わせるモノばかりだ。600のレヴューが集まり、5点満点中4.5と傑出した評価がズラリ。単語を拾っても、
”不朽の名作”
”心に深く響く超大作”
”レオ様、レオ様、レオ様〜”
”人生を生き方を教えられた”


稚作から不朽の名作へ〜そのトリックとは?

 お陰で1997年のクリスマスは、日本列島が”レオ様”に酔った。黒船襲来の時も、日露戦争に勝利した時も、元寇を打ち破った時も、ここまで狂喜乱舞しなかったろう。 
 安直で陳腐な島国の集団心理を、平和ボンボンの日本人の映画感の脆さを、改めて証明した瞬間でもあった。
 しかし、この超大作という名の”稚作”はどんなトリックを経て、”不朽の名作”に成り上がったのだろうか?
 アカデミー賞では、作品賞ほか史上最多の全11部門を独占受賞した、永久不滅の名作になり得たのか?
 製作費は空前の2億ドル。アメリカ国内だけで、その3倍の7億ドル近くを稼ぎ、全世界では22億ドルという空前絶後の興行記録を作った。因みに日本では262億円。まさに”金になり過ぎた”映画。

 宣伝に宣伝を重ね、クリスマスという絶妙なタイミングに合わせ、ディカプリオというバカ受けする白痴なイケメンを主役に構え、新鮮味ある派手なCGと豪華なオーケストラで見事にコーティングした結果であろうか。
 こういった表面的な数字や記録だけを見れば、不朽の名作であり、空前の大傑作である事に異論の余地はない。
 勿論、タイタニックの後に「アバター」という”稚作”が作られなかったら、私めも斜視に構えながらも、渋々と超の付く名作と認めたであろう。
 この「アバター」を見て、これはハリウッドが金儲けの為に、キャメロンが金欲の為に仕掛けた巧妙な罠だと思った。
 まるで、シロップがタップリとかかった”タイタニック”という甘いドーナツを、世界中の大衆どもが喰い漁ったのだとしたら。


生と死が安易に描かれた駄作いや愚作

 しかし、ここ最近になって、”タイタニックは駄作”という声が、専門家や評論家の間ではなく、SNSの中でチラホラ目立つもの事実。
 あるブログでは、”人間の生と死があまりにも安易に描かれた駄作”とダメ押しする。
 そのブログの中で、”映画とは、人間の想像力を刺激する事によって成立する芸術である。タイタニックはそういった刺激を全く無視した、全く死の尊厳を分かっていない人間が作った映画だ”と。まさに私が望んだ模範解答ですね。

 事実、淀川長治さんも”タイタニックの様なCG満載の映画が賞賛される世の中を見て、映画界の将来を憂うと語っていた。
 あの淀川さんが、私と同じ考えであった事にホッとした。
 ”ざまみろタイタニック、アホ抜かせキャメロン”と、淀川氏も今頃は天国で叫んでるのでしょうか。でも、この言葉こそがタイタニックの等身大の評価なんですよ。

 今から思うと、あの”レオ様フィーバー”は、新興宗教やオウム真理教に群がる無能なカルト的集団ヒステリーに過ぎなかったのか。
 そういう意味では、上手く群集心理の盲点を突いた”金になり過ぎた大作”とも言える。
 つまり、最初から大金稼ぎの為の、名作に見せかけた”愚作”だったのだ。その凡作に世界中の凡庸な人達が、私も含めてまんまと騙されたという訳だ。


「ポセイドン•アドベンチャー」との比較

 「タイタニック」に唯一対抗できるパニック系大作といえば、「ポセイドン•アドベンチャー」(1972)が挙げられる。ホントこれは凄かったし、全てが完璧だった。
 パニック系のバイブルというべきで、初めから終わりまで、見る者の想像力を遺憾なく刺激してくれた。
 CGがなかった頃の映画だから、全てに存在感と重みと深みがあった。それに、ジーン•ハックマンもとてもカッコよかった。
 逆に言えば、この「ポセイドンアドベンチャー」を見て、心を抉られた強烈な記憶があったからこそ、少数の映画通の民には「タイタニック」が薄っぺらな愚作に見えたのかも知れない。

 しかし、「タイタニック」が公開された当時、この超大作を駄作と断言する記事がどれだけあったろうか。
 多分、殆どなかった筈だ。誰もがタイタニック号の熱病に魘されていたのだから。
 それに当時は、駄作と決め付ける証拠が完成度の高いCGやオーケストラのカーテンに隠れ、何処にも見い出せなかった。
 今だからこそ、”タイタニックは駄作”という言葉で検索すると、数多くのコメントがヒットする。そういう意味では、時代とは非常に正直で残酷なものだ。

 以上、タイタニックの駄作度を再検証しましたが、イマイチ説得力に欠けますかね。
 次回の”後編”(要CLICK)では、タイタニックの舞台裏を通して再検証してみます。



8 コメント

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再びタイタニック (paulkuroneko)
2019-12-27 05:07:39
昨夜『サスペリア2018』を見たんですけど、
ダンス甲子園を見てるようでガッカリしました。
ハリウッドだけでなく最近の映画はひと昔の勢いがないです。作りも雑で、出来も中途半端。

お陰で最近のドラマはスケールが大きいです。
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paulさんへ (象が転んだ)
2019-12-27 10:56:22
映画の質やきめ細かさなら邦画もいい線行ってますが。スケールで誤魔化されると対抗しようがないです。
70mmフィルムの時代が来るかもですが、どうなるんでしょうか。
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Unknown (ハナビ)
2019-12-28 05:36:57
私も映画見ました。
あんな冷たい所で、彼女に話していたのが不思議でした。
その頃、ドライスーツ(⁈)とかは、頭に浮かんでなかったです。
鎖の時も不思議でした。
私が可哀想に思ったのは、最後に楽器を持ってる数人と、
船長が1人で、ジッと‥を見つめていた場面でした。
涙が出たかどうかは忘れています。
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ハナビさんへ (象が転んだ)
2019-12-28 10:27:35
ですよね〜
絶対におかしいですよね。
でも日本人はこういった子供だましに弱いんですよ。もう簡単に騙される。
今もアメリカには十分に騙されてんですけどね。
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Unknown (たま)
2020-11-30 19:11:23
はじめまして。
「鬼滅の刃」がタイタニックを抜いた!というニュースが今日流れたので、タイタニックの良さがわからない私は「タイタニックは駄作だ!」で検索して、ブログを拝見しました。鬼滅は見ていません。
ちょっと反論します。私は女性ですが、映画館で見たとき、1ミリたりとも涙を流しませんでした。面白くもなんともありませんでした。レオ様もウィンスレットも、どうでも良かったし、何故ヒロインがウィンスレットかも疑問でした。
見たすぐ後から、「面白くなかった」とずっと言っていました、周りもはばからず。
そんな女もいます。当時は20代でしたが。
ラジー賞も獲っていたはずなので、駄作と言うのはその頃から認定されていたのでは?
声を大にして言いたい。「タイタニック」は、大金を掛けただけの、ただの駄作だ!!
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たまサン (象が転んだ)
2020-11-30 21:05:49
説得力ある反論。有難うございます。
タイタニックを観て思ったのが、駄作というよりも人の死の尊厳を台無しにした作品という事に尽きます。
そういう意味では、駄作以下の愚作とも言えます。でも当時はタイタニック一色でした。

Amazonレビューでも同じ様な事書いたんですが、結構きつい事言われました。でも今となっては、いい思い出ですね。
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Unknown (たま)
2020-12-01 21:25:02
お返事、ありがとうございます!
すみません、間違えました。ラジー賞、すっかり獲ったと思ってましたが、候補にも上がってなかったようです(-_-;)
きっと願望が幻の記憶を植え付けたのでしょう。
人間の尊厳はわかりませんし、あの時「沈んでくれ!」とは思いませんでしたが、ウィンスレットに対して憤りは感じました。愛する人を海に置いといて、平気なの?と。たとえ二人で沈む事になっても、引き上げようとするべきではなかったのか?と。
別の日に観に行った同僚(女性)に、泣いたと聞いたのでどの場面か訊いたら、「階段で船長(指揮者?)が敬礼するところ」だと。レオ様でもなかったです。
泣くためなら、ステラを見ます。では!
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たまサン (象が転んだ)
2020-12-01 23:39:55
ラジー賞とか、その存在すら知りませんでした。
レオ(様は余計です)もウィンスレットも余計でしたが、ビリーゼーンの演技は素晴らしかった。それにド派手なプレミアが売上を伸ばした結果となりました。
監督のキャメロンは後の作品を見ても巨悪の根源でしたが、それがハリウッドの悲しい実像でしょうね。
タイタニックの後編もできれば宜しくです。
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